167話 逆月傭兵団
ポルターガイストメイドから村の危機を知らされた俺たちは、ワイバーンとペガサスに分乗して村へと急いでいた。
そして、ペガサスの背に乗ったまま日を跨ぐ頃、俺たちの視界に村が映る。
普段だったら、この時間にこの距離から、これほどはっきりと村が見えることはないだろう。だが今は、闇夜を煌々と照らす赤い炎が、村をしっかりと浮かび上がらせている。
村の家や樹木が燃えているのだ。
さらに近づくと、村の状況がよく分かった。
まだ村の中に入り込まれてはいないらしい。門の前に、黒い装備で統一された敵兵が群がっているのが見える。
その装備を見るに、正規兵ではないだろう。以前聞いた盗賊に扮していた傭兵団であると思われた。逆月傭兵団だ。
その黒づくめの傭兵団から、矢が撃ち込まれている。燃えた家屋は、火矢や魔術によるものだろう。
入り口はまだ破られてはいない。しかし、時間の問題と思われた。
兵力が違うのだ。自警団の人間は50人に満たないが、敵兵は200人以上いる。
このまま戦闘が長引けば、疲労の蓄積で自警団が倒れるだろう。
上から様子を確認したディシャル様が、動揺したように唸り声を上げる。
「くそっ! トール! このまま村の前の奴らに――」
「お待ちくださいディシャル殿! 闇雲に突っ込んでは、我らも危険です!」
「ぐぬ……」
「ここは、相手の正体を見極め、撃退する方法を考えねば! お辛いでしょうが、我慢してください!」
一刻も早く村に駆けつけたいディシャル様が、逸った様子で口を開いたが、その言葉をゼド爺さんが遮った。
そして、厳しい顔で彼女を諭す。
「すま、ない……。動揺していた」
「こちらこそ、申し訳ありませぬ。ですが、まずはどう対処するか作戦を決めましょう」
「……どうすればいいと思う?」
「そうですな……」
ディシャル様も、自分が冷静ではないと理解しているんだろう。ここは素直にゼド爺さんに意見を求めている。
「二手に別れましょう。我らワイバーン組が、村の防衛に回ります。その間に、ディシャル殿とトールで、敵の指揮官を捜してくだされ」
「わかった」
ディシャル様も、本心では防衛に加わりたいのだろう。
だが、自分の能力が索敵に向いていることも分かっている。魔眼の力を使って敵の指揮官などを探し出した方が、結果的に戦闘が早く終わると理解したんだろう。
それに、ダークエルフであるディシャル様が堂々と前に出るのは、今後のことを考えてもまずい。
逃げた敵が情報を広めてしまえば、多くの不埒者をこの村に惹きつけることになるのだ。村の安寧は完全に破壊されるだろう。
「では、我らはこのまま敵陣を攻撃してから村に入る。そっちは頼んだぞ、トール」
「ああ、そっちも気を付けろよ!」
「ワフちゃん! 無茶しちゃだめよ?」
「エミル殿も!」
そして、俺たちは行動を開始した。
俺はペガサスの高度をさらに上昇させる。普通ならもっと敵陣に近づかなくてはならないが、ディシャル様の魔眼があれば、上空からでも敵を観察可能だからだ。
「こうやってみると、ワイバーンはメッチャ強いよな」
門の前に陣取る敵兵に向かって急降下したワイバーンが、その足で数人を引っ掛けて弾き飛ばすのが見えた。しかも、翼の起こす強風が、敵兵を薙ぎ払う。
その一撃だけで、傭兵の陣形が崩れるのが見えた。
しかも、突如現れた凶悪なモンスターを前にして、手練れの傭兵ですらどう対応すればいいのか分からないらしい。
動きが明らかに鈍っていた。そこに、自警団の弓が降り注ぐ。
その後、すぐに後退したのはさすがだが、これでしばらく門は死守できるだろう。
「よし! あとは我らが敵の指揮系統を破壊すればいい!」
「はい。それで、どうですか? 敵の指揮官は見つかりましたか? できれば、一番最初に最高指揮官を襲撃したいんですが……」
「任せてくれ。今、精霊たちの目を借りて、敵陣を見ている」
ディシャル様が目を閉じて、まるで瞑想するように深い呼吸を繰り返す。信頼してくれているのかもしれないけど、よくバランスの悪い鞍上で目を閉じれるな。しかも、上空を飛ぶペガサスの上なんだぞ?
「ワ、ワフ。ディシャル様を支えててくれ」
「了解でありますぞ! それにしても、解せませぬな」
「何が?」
「これだけ派手に戦闘しているのに、バルツの森の主殿たちの姿が見えませぬ」
「確かに!」
そう言えばそうだ!
村に残した黒煙火山の魔術師長たちには、いざとなったらバルツの森の主たち獣組を呼び戻していいと言ってあったはずだ。
だが、その形跡はない。戦っている様子もないし、倒されて俺の下に戻ってきたこともない。どういうことだ?
俺とワフが首を捻っていると、ディシャル様が声を上げた。
「ダメだ。どうやら総指揮官は後方にいるらしい。こっちの部隊は小隊長と呼ばれている人間が指揮している」
「え? これが全兵力じゃないんですか?」
「ああ、本隊が後方にいるらしい」
「主! あの篝火の場所では?」
「なるほど、確かに火が見えるな」
距離にして300メートル程後方だろう。そこに複数の火柱が見えた。篝火にしては大きいように思えるが、大勢の人間の影が映っている。
戦闘中に体を休めるために、少し離れて陣を張っているのかもしれないな。そうして、昼夜問わず村を攻め続けているのだろう。
「ペガサス! あっちだ!」
「ヒヒィィン!」
前話の後半を少し変更しました。
ペガサスにトール、ディシャル様、コボルト×2が乗っていたのを、トール、ディシャル様、ワフ、コボルトの狙撃弓兵にしました。
次回は6日更新です。
怪我の回復も順調なので、そこからは元のペースに戻せる予定です。




