165話 闇の精霊復活
本日1話目
「もしかして、件の洞窟はこの辺にあるんじゃないかい?」
「分かるんですか?」
「闇の精霊の魔力が見えてきた」
ディシャル様がそう呟きながら、樹海の繁みを見つめる。
洞窟まではまだ100メートル以上はあるだろう。当然、深い緑に遮られ、鎮め祠のある洞窟は全く見えていない。しかし、彼女には確信があるようだった。
精霊本体だけではなく、精霊に関することなら魔力なども見えるらしい。だからこそ、遠く離れた岩塩洞窟からでも闇精霊の衰弱を察知できたのだろう。
ディシャル様がペガサスを急かすように首筋を撫でる。
よほど闇の精霊が気になっているのか、その顔には憂いを帯びた表情を浮かべていた。
そして、さらに洞窟が近づくと、居ても立ってもいられなくなったらしい。
ディシャル様はペガサスから飛び降りて、駆け出し始めた。
「ディシャル様! お待ちください!」
「は、速い!」
「デ、ディシャル様ぁ!」
体力はないが、身体能力は凄まじいダークエルフの全力疾走だ。そりゃあ、自警団の男たちも追いつけないだろう。
「大剣士! ゼド爺さん! 頼む!」
「ガオ!」
「うむ!」
凄まじい速度で駆けるディシャル様に、俺の足じゃ絶対に追いつけない。
俺は大剣士たちに護衛を頼んだ。まあ、ディシャル様の強さなら大丈夫だとは思うけど、万が一があるからね。
1分後。
遅れて洞窟に飛び込んだ俺や自警団の面々が見たのは、祭壇の前に跪き、祈りのようなものを捧げるディシャル様であった。
「――」
両膝を突き、両の手を合わせて目を閉じている。何やら呟いているが、明瞭に聞き取ることができない。呪文というよりは、祝詞って感じかな?
声をかけるかどうか迷うほどに、張り詰めた雰囲気だ。
「エミル、何があった?」
「あ、トールさん」
とりあえず、最後尾でディシャル様を見守っていたエミルに、小声で話しかける。
「私たちにも何が何だか……」
一切迷うことなく洞窟に突入したディシャル様は、最奥に安置された祠の前でしばらく何もせずにじっとしていたらしい。
その直後、こうやって祈り始めてしまったそうだ。
「――――」
これは見守るしかなさそうだな。
そのまま数分程経過しただろうか。
ディシャル様の緊張が全員に伝わり、誰も言葉を発せない。俺ももう、無駄口を叩く余裕はなかった。
一心不乱に祈り続けるディシャル様からは、侵し難い神聖さのようなものが感じられるのだ。その姿を見てしまうと、僅かでも邪魔してはいけない気にさせられる。
「――……ふぅ」
そして、唐突にディシャル様の口から紡ぎ出されていた祈りが止んだ。
「ディシャル様――うおおおぉぉぉ!」
「きゃっ!」
「な、何か光ってますぞ!」
祠が――というよりは、洞窟全体がまばゆい光を放っていた。閃光が俺たちを包み込む。
目蓋を照らす白い光が治まったことを確認して、恐る恐る目を開けると、祠の前にナニかがいた。
最初は黒いスライムっぽく見えたが、明らかに違う。ゼラチンっぽさが全くなかった。
そのナニかを構成するのは、もっと深くて暗い闇だ。闇が寄り集まって、そこに浮かんでいる。
「……これが、闇の精霊か?」
「ああ、そうだ。以前、混沌に侵食されて暴走してしまい、人間に封じ込められたらしい」
「え? それって、封印を解除して大丈夫なんですか?」
「長い間に混沌は消え去り、元に戻っている。大丈夫だ」
「ならいいんですが……。お、俺に近寄ってきてない?」
「どうも、君を主と認めたようだ」
「ディシャル様じゃなくて?」
「ああ。君と不思議な力の繋がりが見える。これにより、この闇の精霊は君に従う存在となっているね」
ディシャル様の言葉を肯定しているのか、闇の精霊がグネグネと蠢いた。そのまま、闇の一部が紐のように伸びて、俺に向かってくる。
「え?」
「敵意はない。大丈夫だ。受け入れてやれ」
「わ、わかりました」
俺も軽く指を伸ばし、闇の精霊に差し出した。その指に、闇の精霊がチョンと触れてくる。その瞬間、俺のバインダーが強い光を放った。
ただ、俺にしか見えていないため、周囲の人間は俺が急に驚いたように見えたらしい。首を傾げている。
だが、俺はそれに構わず、バインダーを開いた。そこには、試練達成というわけではないが、カードを入手したという報告が描かれている。
解放された闇の精霊・メーメック=ヌー 精霊
黒6 2/6 ★
闇を操り、闇を支配する。
やはりレアリティ★のカードは、能力がいまいち分からないな。ただ、岩猪ガルフ=ナザと同じように、俺が精霊に認められたということは確かなのだろう。
しかも、この闇の精霊による変化は、これでは終わらなかった。
「土地カードが変化……? どういうことだ?」
バインダーに表示された土地カードの能力が変化したという一文を読んで、慌ててカードを確認してみる。すると、確かに変化している。
名前はそのままなのだが、絵柄がやや明るいというか、少し綺麗な絵に変わっていた。さらに、生み出される魔力が毎日黒1つだけだったのが、黒1万能魔力1を生み出せるようになったらしい。
「まじか……!」
精霊の力が増したおかげってことだろうな。さらにさらに、俺の保有する魔力が増えていた。精霊が魔力を譲渡してくれたらしい。万能魔力が10になっていたのだ。
「トール、さっきから百面相をしてどうしたんだい?」
「あ、すいません」
やばい、完全にディシャル様たちを忘れていた。
「その、俺の力に関して少々いいことがあったので。精霊に魔力を分けてもらえたみたいです」
「お、それは幸先がいいねぇ」
「はい、ディシャル様のおかげです。ありがとうございました」
「私は単に精霊を助けただけさ」
だとしても、そのおかげで魔力もカードも手に入った。これからの戦略の幅が大いに広がっただろう。
少し遠回りにはなってしまったが、ここに戻ってきてよかった。




