164話 岩塩洞窟到着
翌日、俺たちは日の出とともに野営地を出発していた。
案内役のミノタウロスたちを先頭に、いよいよ樹海に突入だ。
「工作屋は、ディシャル様の護衛を頼む」
「キャン!」
俺は昨晩召喚したばかりの、コボルトの工作屋に声をかける。ツナギを着たポメラニアンタイプの小型コボルトなんだが、妙にオッサンぽい仕草をするのだ。
職人風の内面であるということなんだろう。可愛らしいポメの顔で、お尻をボリボリと掻かないでほしい。
コボルトの工作屋
黒2 1/1 UC
毎日、対象のオブジェクト・モンスターを1つ指定し、ダメージを1点回復。
消えてしまう黒魔力が勿体なかったというのと、ミノタウロス・ワーカーの斧の整備ができないかと考えたのだ。
するとその狙いは的中した。能力的にはオブジェクト・モンスターのダメージ回復だが、細かい工作や鍛冶作業は普通にこなすことができたのだ。
オブジェクト・モンスターを回復させる場合は、集中力と魔力を使うので、1日1回しかできないと限定されているようだった。
これなら他にも色々と役立ってくれそうである。ワフの助手にいいかもしれないな。
工作屋のドローは蔦鼠だったので、即召喚しておいた。その際のドローはダークアイズである。黒のカード使い白井から奪った、空飛ぶ目玉のモンスターだ。
こいつは、今は召喚しないつもりである。
見た目が怖いのは勿論、戦闘力もそこまで高くはなく、樹海の戦闘で死んでしまう可能性があった。偵察能力に優れているため、切り札として温存する方が効果的だろう。
飛行戦力であれば、夜告げの梟がいるのだ。
それに、護衛も十分間に合っている。
樹海を進むにつれて何度か魔獣に遭遇したが、ゼド爺さんに虎人の大剣士、ミノタウロス・ワーカーだけで十分だった。
そもそもまともな戦闘にならず、魔獣が逃げて行ってしまうけどね。
そうして樹海を北上した俺たちは、午前中には目的地に到着できていた。
「ここが、岩塩洞窟かい?」
「はい。そうです。とは言え、俺たちにはどれくらい岩塩が埋まっているのかは分からないですが」
「ま、それは私に任せておきなよ。早速調査に入らせてもらうから」
ディシャル様や自警団の男たちがここの調査を行う間、俺たちは洞窟周辺の調査を行うことになる。
危険な魔獣の巣がないかなどを調べないといけないのだ。
「大剣士とペガサスを見張りとしてここに残していきますので」
「ああ、よろしく頼むよ」
それから1時間後。周囲に獣の咆哮が響き渡った。一緒にいたバルツビーストが反応する。だが、鳴き声の主は敵ではないようだ。バルツビーストが全く警戒していない。
「ガオ」
「もしかして大剣士が呼んでるか?」
「ガオン」
バルツビーストの先導で洞窟まで戻ってみると、ディシャル様たちが外で俺たちを待っていた。
ディシャル様は、こっちを見つけると楽しげな様子で手を振ってくれる。
「ディシャル様。その様子だと、上手くいったんですか?」
「ああ。素晴らしいよここは。精霊に聞いたら、かなりの埋蔵量がある。これなら十分交渉に使えるだろうね」
「それは良かったです」
すでに試掘も行い、品質の良さも確認したそうだ。もしかしたら樹海の地下には、意外と多くの岩塩が埋まっているのかもしれないな。
「本当に。ここの岩塩が出回れば、ナール国北部の人たちが困ることもないだろう。貴族同士の下らない権力争いで誰が一番困るかって言ったら、罪のない人々だからね」
どうやら村を救うということだけではなく、塩不足で困る人を減らしたいという想いもあったらしい。
ダークエルフは国が滅ぼされる前は権力階級だったというし、そういった視点を持っているのかもしれないな。
「それじゃあ、さっそく村に戻りますか?」
「いや、その前に行きたい場所がある」
「行きたい場所、ですか?」
ディシャル様はこの周辺を詳しく知らないはずだよな? もしかして、大精霊の座に行きたいのか? やはり我慢できなくなったのかもしれない。
そんな失礼なことを考えてしまったが、違っていた。精霊に関する場所であると言うことは同じだけどね。
「この辺りで、闇の精霊に関係する場所はないかな?」
「え? 分かるんですか?」
「ああ、かなり弱っているみたいだね」
間違いなく、暗黒精霊の鎮め祠のことだろう。俺はその場所について、軽くディシャル様に説明をした。
「……その場所に、連れて行ってもらうことはできないかい?」
「まあ、出来なくはないですが……」
大精霊の座と違って、無理すれば今日中には往復できる距離である。
だが、案内する前に確認しておかねばならないことがあった。
「何をするつもりですか?」
あそこは、俺の支配する土地だ。貴重な黒魔力を生み出してくれる場所である。下手なことをされると、その支配権が失われるかもしれなかった。
「どうやら精霊が弱っているようだから、なんとか救ってやれないかと思って」
「弱ってる、ですか?」
「ああ。封印されているせいで、力が失われつつあるんだろうね。このままだと1年も経たずに、消滅してしまうかもしれない」
「ええ?」
それって、まずいんじゃないか? もし精霊が力を失ったら、土地から力が失われるかもしれない。それに、精霊が消滅するって聞かされたらな~。本当にそうなったら、罪悪感がハンパない。
「実は――」
俺は鎮め祠について簡単に説明をした。精霊がいるかどうかは分からないが、その土地から俺が魔力を得ていること。その力が失われれば、俺も困るし、村のために戦うための力も失われるかもしれないということ。
「なるほど……。だが、君から力を奪うことにはならないと思うよ?」
「そうなんですか?」
「ああ。絶対とは言い切れないけど……」
精霊というのは、ある程度の強さになると、存在するのに依代が必要となるらしい。空気中の魔力を吸うだけでは、存在を維持できなくなるからだ。
そして精霊を封印するということは、その依代ごと結界で隔離するということである。封印を解いたとしても、依代ごとどこかに行ってしまうということはほぼない。ほとんどの場合、依代は巨大な自然物であるからだ。
大精霊の宿る巨木や、岩猪の宿る一枚岩がそうだし、他には泉や川、大型生物の化石である場合などもあるらしい。
「見てみないと分からないけど、多分その洞窟その物か、中にある岩などが依代になっているんじゃないかな? つまり――」
「つまり?」
「闇の精霊を解放しても、どこかに行ってしまったりはしない。むしろ、力が強くなる可能性すらあるね」
「なるほど……」
まあ、精霊を消滅させてしまうのは後味が悪い、とりあえず案内だけでもしてみるか。




