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163話 ミノタウロスの報告


 繁みの向こうから現れた牛頭人身の魔獣は敵ではなく、俺の配下のミノタウロス・ワーカーであった。


「ミノタウロス殿! どうしてこんなところにいるのでありますか?」

「ブモー」


 未だにディシャル様たちが警戒している中、ワフがミノタウロス・ワーカーに近づいていった。


「ト、トール、あれは君が呼び出した魔獣なのかい?」

「ええ、そうですよ」

「村では見たことがなかったけど……」

「樹海で仕事をさせていたので。でも、紛れもなく、俺の配下のモンスターですよ」

「そ、そうなのか……」


 ディシャル様含めて村の人間にとって、ミノタウロスはそれなりに異様な姿に見えるらしい。コボルトなどと違って胴体はマッチョな人間だし、体も大きいからだろう。


 それに、厳つい斧を担いだその姿は、どうみても人食いの化け物だ。本当は草食で気の良い奴らなんだけどね。


 見た目ではそれが分からないディシャル様たちは、未だにちょっとどよめいている。


 だが、この場にいるのはミノタウロス・ワーカーだけではない。


「ガオ?」

「おお、バルツビースト殿も!」


 ミノタウロスから少し遅れて、バルツビーストが現れた。彼らは村でも召喚していたので、ディシャル様たちも見たことがあるはずだ。


 まあ、夜の闇の中で見るバルツビーストは迫力満点で、自警団の男たちはやはりどよめいていたが。


「ひさしぶりだな」

「ガオー」


 近寄ってきたので頭を撫でてやると、気持ち良さげに目を細めて喉を鳴らす。その、人懐こい猫のような姿を見て、ようやく緊張がほぐれたらしい。


 ディシャル様たちが構えていた武器を下ろした。


「どうしてここが分かったんだ?」

「ガオッ!」


 俺の言葉に、バルツビーストが得意げな表情をした。さらに、ツンと差し出した自らの鼻を、アピールするようにヒクヒクと動かす。


 どうやらバルツビーストが匂いで俺たちの接近を感知し、様子を見にきたという感じらしい。


「ガオオォ!」

「ブモー!」


 バルツビーストが軽く吠えると、遠くから別のミノタウロスの声がした。もう1体、近くまできているらしい。


 ちゃんと俺の言いつけを守り、スリーマンセルで行動しているのだろう。


 しばらく待っていると、大きな猪を担いだミノタウロスが現れた。


「ブモ!」

「これ、もしかして俺たちに?」

「ブモー」

「はは、助かるよ。サンキューな」

「解体は儂らに任せてくれ」

「やっておきますから」

「じゃあ、頼むよ」


 お言葉に甘えて、猪の処理や食事の準備はゼド爺さんやエミルたちに任せることにする。


 その間に、俺たちは、ミノタウロスたちから事情聴取だ。


「俺たちが旅立った後、侵入者はいたか?」

「ブモ」

「なんと! 大丈夫だったのですか、ミノタウロス殿!」

「ブモモ!」

「おおー、頼もしいですな!」


 俺とワフで近況を聞いてみる。色々なことを身振り手振りに鳴き声で教えてくれた。


 1度だけ騎士たちの侵入があったらしい。しかし、砦まで到達されることはなく、撃退することができたようだ。


 他には、特に異変はないらしい。


 砦の周りに畑を作って、もうすぐ収穫までできるそうだ。なんか、樹海の生活を楽しんでるっぽいな。


 まあ、問題がないならそれでいい。


「砦以外の場所も平気か? 暗黒精霊の鎮め祠とか、大精霊の座とか」

「ブモ!」


 そっちもちゃんと見回りをしてくれているようだ。


 ただ、俺たちの会話にディシャル様が反応を見せていた。


「大精霊の座?」

「え、ええ」


 まあ、ディシャル様には教えても構わないだろう。俺は、大精霊が宿る、古木のことをディシャル様に話して聞かせた。


「大精霊フォルタル=クルア様だって……。この樹海に、大精霊様がおわすとは」


 精霊眼を持っているし、ダークエルフでもある。精霊に対して、特別な思い入れがあるのだろう。


 一部では信仰対象となっていると聞いていたが、ディシャル様は正に大精霊を崇めているタイプであるようだった。


「樹海のどこにいらっしゃるんだ?」

「え? ああ、かなり北の方になるけど……」

「どれくらい?」


 メチャクチャ真剣な声だ。


「これから行く洞窟の何倍も遠い。ここからまた数日がかりになると思いますよ」

「そうか……」


 俺の言葉に、ディシャル様が心底残念そうな顔で俯いてしまう。どうやら大精霊に会いに行きたかったらしい。


「さすがに時間がありませんよ?」

「ああ、分かっているよ。1日くらい足を延ばせばいいならともかく、数日は今の我々には貴重だからね」


 大精霊のカードを引いていれば召喚も可能なんだが、残念ながらいつになるかは分からないしな。


「全部解決して時間ができたら案内しますよ」

「本当だね? きっとだよ?」

「え、ええ。勿論です」


 怖いほど真っすぐに見つめられた。これ、約束を破ったらどうなっちゃうんだろう……。


 その後は、ミノタウロスたちからさらに詳しい近況を聞きつつ、その場で野営を行う。


 岩塩の取れる洞窟もキッチリ巡回の範囲に入れてくれているようで、ミノタウロスが案内してくれることになった。


 明日はいよいよ、樹海突入である。俺たちは戻ってきた感覚だが、やはり村の男たちは緊張しているらしい。


 今からどこか不安げだった。


Web漫画サイトの「マンガよもんが」様内において、デッキひとつで異世界探訪のコミカライズが開始されたようです。

ワフが可愛いので、ぜひ読んでみてください。

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