161話 樹海への出発準備
「……わかりました。案内します。同行者はどうしますか?」
ディシャル様を洞窟まで案内するとして、さすがに彼女だけというわけにはいかないだろう。それとも、ディシャル様だけをペガサスに乗せて、パパッと行ってくるか?
それでも、この山岳地帯はハーピーのせいで夜間にしか飛べないし、洞窟までは数日かかるはずだ。
「ふむ……。私、トール、ゼドは確定かな? 君の仲間はどうするかい?」
「ワフは連れて行きたいですね」
あれで生活力はあるし、何かと頼りになるのだ。
それに、俺以外の命令を聞くかどうかわからんから、目の届かない場所に置いていくのは色々と怖かった。何を仕出かすか分からないのである。
「エミルも連れて行きたいのう。まだ修行の途中だからな」
「そうだな。エミルも最近はメキメキ強くなってきたし、居てくれたら安心だな」
「うむ」
それに、ゼド爺さんとワフを連れて行って、エミルだけ仲間外れにしたら怒られそうだしな。
「あとモンスターたちをどうするかですね」
「あまり大勢だと目立つし、少数精鋭がいいかな。自警団の人間も最低限にするし」
「そうですか……」
となると、あまり沢山は連れていけないな。
「とりあえず、今日は解散しよう。明日、日の出と共に出立する。各々、準備を頼むよ」
「分かりました」
旅の準備もそうだが、連れて行くモンスターを決めないとな。
森の中での行動が得意なコボルトの狙撃弓兵、探検家。どんな状況にも対応可能な虎人の大剣士。移動の足である伝令のペガサス。偵察要員としても活躍する蔦鼠。夜でも活動可能な夜告げの梟。それくらいかな?
ペガサスは派手で目立つが、いざという時逃げる為にはぜひ連れて行きたかった。ポルターガイストメイドの偵察能力は、今の村にこそ必要だろう。
頼もしさで言えば岩甲殻の大犀も候補に入るが、ペガサス以上に目立つだろう。
他には、生命循環の蛇も少し迷った。だが、回復能力は村に残していきたい。俺たちにはワフとコボルトの薬師特製のポーションがあるのだ。
ああ、鬼人の浪人も連れていってもよかったが、彼には兵士と一緒に村の防衛を頼んでおいた。兜をかぶっていれば、ほとんど人間に見えるからな。敵に見られても問題ないのだ。
「では、ワフは荷造りをしますぞ!」
「私も手伝うわ」
「儂は武具の手入れだ」
俺たちは家に戻ると、早速準備を始めることにした。
とは言え、ほとんどはワフとエミルに任せっきりだが。俺の仕事は、モンスターたちへの今後の指示出しなどが主である。
「いいか。村長の言うことをよく聞いて、村を守るんだ。いいな? それと、トビアたちの指示にも耳を貸すように」
俺がいない間の、命令系統をしっかりとさせておかねばならないだろう。
「モンスターたちのリーダーは、黒煙火山の魔術師長。サブリーダーはコボルトの薬師だ。お前たちの判断で、他のモンスターたちに命令を出していい」
「ゴファ!」
「オフフ!」
「いざとなったら、バルツの森の主たちも呼び戻すんだぞ?」
この2体は、モンスターたちの中でも特に冷静で、頭脳労働が得意なタイプだ。任せておけば問題なくモンスターたちを運用してくれるだろう。
村長でもいいんだけど、モンスターの能力を全て把握している訳ではない。いざという時には、黒煙火山の魔術師長が指示を出す方が早いだろう。
俺の指示出しが一段落したのを見計らったのか、トビアたちがやってきた。
「トール殿、聞きました」
「トビア、後は頼んだぞ?」
「任せてください。我らもこの村の一員になったからには、力の限り励みます」
「俺のモンスターたちには、お前の言うことを聞くように言ってある。いざという時には、盾にして逃げろ」
「死んでも、カードに戻るだけという話ですよね? 分かっています」
「ならいい」
「……」
トビアとシェイドは素直に頷くが、マリティアだけは複雑そうな顔をしている。
彼女は俺のモンスターたちとも仲良くなっているので、盾にするという話が納得しきれていないのだろう。
「マリティア。躊躇するなよ?」
「……はい」
心配だが、いざという時にはトビアたちが彼女を守るだろう。まあ、残していくモンスターたちには、彼女を最優先で保護するように伝えておくか。
そして翌朝。
俺たちは準備を終えて門の前に集合していた。村人たちが総出で見送ってくれる。まあ、ディシャル様が心配なのだろう。
俺たちが家に戻った後も、自警団から誰が付いていくかで盛大に揉めたらしい。結局ほぼ全員が立候補したため、カグートが指名して決めたそうだ。
自分がお供したかったのに、選ぶ側に回ってしまったせいで付いていけなくなったと愚痴っていた。
「トール殿、ゼド殿、ディシャル様をお願いいたしますぞ」
「はい。全力を尽くします」
「覚えている限り、ディシャル様が村から出るのは数十年ぶりのことなのです……」
村長が心配そうな顔で、俺たちに念押しする。彼らにとっては守護者であるはずのディシャル様だが、やはり不安は拭えないらしい。
そんな村長たちの心配を余所に、ディシャル様が足取りも軽くやってくる。
「トール、おはよう」
「おはようございます」
「それじゃあ、早速出発しようか!」
久しぶりの遠出に、ワクワクしているのだろう。こんなに楽し気なディシャル様、初めて見たかもしれないな。




