158話 ライト
騎士団を殲滅した俺たちは、再び空に舞い上がった。
眼下には、騎士たちの亡骸が折り重なるように倒れているのが見える。
「本当は何人か捕まえて尋問したかったけど、万が一にも俺のことを報告されるわけにはいかないからな……」
実際、そんなことができるかどうかは分からない。ただ、俺自身がセルエノンから特殊な力を与えられているせいで、魔法で何ができても不思議ではないように思えるのだ。
ディシャル様などに聞いても、可能性はゼロではないという。少なくともダークエルフの魔眼の中には、録音録画した物を他人に送信するような能力を備えた魔眼もあったらしい。
だったら、魔法で同じことができるかもしれない。そう考えて、今回は殲滅で良しとしておくべきだろう。
「行くぞ」
「ヒヒン!」
ペガサスが軽く嘶いて、村に向かって宙を駆け出す。しかし、俺はすぐにその歩を緩めさせていた。
「あそこ、何かがいるな……。人か……?」
村に続く山道に、何かの影があったのだ。最初は動物かと思ったのだが、動きが明らかに二足歩行だ。
まあ、こっちの世界には人以外にも二足歩行の生物はいるのだが。
「メイドさん、偵察を頼む」
「ウア!」
キビキビとした仕草で一礼したメイドさんが、早速謎の影に向かって降下していく。だが、もう少しで人影の真後ろというところで、メイドさんの動きが変化してしまった。
なんと、隠密を解除して、影の真ん前に躍り出たのだ。何がどうした?
相手がゴブリンやコボルトなどの雑魚だったとしても、奇襲した方が楽に仕留められると思うのだが……。
驚いた影が足を止める。
そのままメイドさんと影が何やら話し始めた。いや、メイドさんは言葉を発せないから、会話とは言えないだろう。
しかし、確実に何らかのコミュニケーションをとっていた。
十秒後、メイドさんが俺たちの下に戻ってくる。眼下の影が、こちらを見上げた。
今は雲が途切れ、月明かりが周囲を照らしている。明らかに俺に気付かれただろう。
「ウアー」
だが、メイドさんはそれを気にした様子もなく、ニコニコと笑いながら俺を手招きした。どうやら下りろと言っているらしい。完全に無警戒だ。
「もしかして、知り合いか?」
「ウア!」
そのままメイドさんと一緒に地上に下りると、待っていたのは確かに見覚えのある男であった。
「ライト!」
「お、トールさんか!」
俺よりもさらに若い、青年と呼んでもいい年齢の赤毛の男だ。名前はライト。自警団でも特に人懐っこく、俺にも積極的に話しかけてくれたのでよく覚えている。
「そう言えば、ここ数日見なかったな」
「へへ。実は色々あって村の外に出てたんだよ。それで、ちょっと知らせなきゃいけない情報があってさ。急いで戻ってきたんだ」
ここで、その情報を教えて欲しいとは言わない。急いで戻ってきたということは、それなりに重要な情報なんだろう。
まずは村長かディシャル様、カグートあたりに知らせるべきだし、ライトも教えてはくれないだろうからな。
「だったら、乗れ。早く村に戻った方がいいだろ?」
「いいんですか?」
「ああ。コボルトたちは、徒歩で村に戻れ」
「オフ!」
俺はコボルトたちを下ろして、ライトをペガサスに乗せることにした。普通に山道を歩いて登れば、1時間はかかる。だが、ペガサスならものの10分ほどなのだ。
「じゃあ、失礼します!」
ライトはすでにペガサスに乗ったことがある。村人たちに溶け込むために、遊覧飛行的なものを何度か行ったことがあるのだ。
ただ、今が夜だというのを忘れていた。
ペガサスが飛び立ってすぐ。
「ひ、ひぃぃっ! こ、怖っ! めちゃくちゃ怖いですよぉ!」
「ちょっ! しがみ付くなって!」
「だってぇ!」
昼と夜とでは、飛行時の恐怖が全く違うらしかった。
そう言えば、俺も最初は怖かったんだよね。自分が慣れてしまったせいで、ライトがどう感じるか想像できていなかった。
「蔦鼠! ライトが落ちないように気を付けていてくれ!」
「チュー!」
騒ぐライトを縛りつけつつ、俺たちはなんとか村へとたどり着く。
「おお、トールさん! 無事だったか!」
「それにライトも?」
カグートと村長に、ライトを拾った時のことを語る。
「俺のコボルトたちが戻ってきたら、村に入れてやってほしい」
「勿論だ。周知しておく」
「それよりも、ライトの報告が気になる。ディシャル様のところに急ぎましょう」
村長が、いまだにグロッキー状態のライトを無理やり立たせようとするんだが、腰が抜けて立てないらしい。少し可哀そうなことしたかもしれない。
だが、カグートは容赦しなかった。身軽なライトを肩に担いで、そのまま運び始めたのだ。
「ちょ、カグートさん! 恥ずかしいですって!」
「歩けないのであれば仕方ないだろう。何か重要な報告があるんだろう?」
「そ、そりゃそうなんですが……」
「なら仕方ない」
「うう……」
ライトが観念した様子で黙り込んだ。自身の羞恥心よりも、報告の方が重要だと判断したのだろう。
これは、本当に緊急性の高い情報を持ち帰ったのかもしれないな。




