157話 騎士団殲滅
行軍中の騎士たちは松明を灯してはいるが、森を覆う深い闇を見通すことはできない。むしろ、僅かな火によって人間の存在をアピールし、魔獣や動物が近づかないようにしているらしかった。
樹海のような魔獣の密度が高い場所ならともかく、魔獣の少ないこういった場所では有効な手段なのだろう。熊除けの鈴と同じだ。
気配を読むにしても、離れた場所で息を潜める獣を発見することは難しいのだろう。
周囲を囲みつつある俺の配下のモンスターたちに、一切気付いた様子はなかった。
警戒していない訳ではないだろう。しかし、自分たちが現在進行形で凶悪な魔獣の群れに狙われているなど、さすがに想像することはできないらしい。
そんな騎士団を殲滅するべく、モンスターたちが動き出す。
最初に攻撃を仕掛けるのは、夜告げの梟だ。
その隠密性を生かして、上空から一気に騎士の1人に飛び掛かった。隊列のほぼ中央にいて、気を抜いてしまっていた騎士だ。
「ぎゃあああぁ! 目が! 目がぁ!」
鋭い爪が鎧の隙間から内部に入り込み、目をやられたらしい。夜の静寂に、まるで某大佐のような絶叫が響き渡った。
騎士たちの意識が襲撃者に向く。それは隊列の内側だ。全員が、自分たちの陣形の中央に現れた巨大な梟に注目してしまっていた。
つまり、周囲への警戒が、疎かになっているということだ。
そんな風に背を向けた騎士たちに向かって、モンスターたちが一斉に飛び出す。
「な! ま、魔獣だっ!」
「む、群れてやがるぞ!」
「ぐあああ!」
上空から見守る俺たちからは、全体は見えない。木々の隙間から、騎士たちの姿が僅かに見えるだけだ。だが、それでも騎士団が大混乱に陥るのが分かる。
奇襲は大成功し、狙われた騎士たちがあっという間に倒されていった。
「くそっ! 火だ! もっと火をともせ! 松明をっ!」
「なんでこんな凶悪な魔獣が……! この森で群れるような魔獣、コボルトか山犬くらいだったはずだろう!」
「おい! 一度集まれ!」
その後も終始モンスターが圧倒し、戦闘は終盤に向かっていく。やはり、闇の中では獣が有利なのだろう。
モンスターたちは視覚でも嗅覚でも、相手の位置を把握できるのに対して、騎士たちが使えるのは僅かな火のみなのだ。
守っていても、じり貧。魔獣を追った仲間は闇の向こうから帰ってこない。
そんな状況で、士気が高く保てるわけもなく、全員の上げる声も散漫になってきた。俺から見ても、勝敗はすでに決している。
だが、諦めない人間もいた。
「くそ! 私が道を切り拓く! お前たちは援護しろ!」
そう叫んだのは、指揮官の男性であるようだ。俺たちの場所から姿は見えなかったのだが、すぐに居場所が分かる。
その全身が、濃密な緑のオーラに包まれたのだ。
木々の隙間から漏れる緑の光は、空からでもバッチリ確認することができた。そこに指揮官がいることは間違いない。
夜だからよりハッキリ見えるということもあるだろうが、明らかに出会った頃のゼド爺さんよりも気功の色が濃密だった。
少なくとも、ゼド爺さんと同等以上の使い手であるということだろう。
彼がその気になれば、こちらのモンスターを数体くらいは道連れにできるかもしれない。
だが、そうはならなかった。
「ガアアアア!」
「ぎがぁっ! ば、かな……!」
本気を出したバルツの森の主の動きに付いていけなかったのである。バルツの森の主はあえて速度を抑え、自らを巨大ではあるが鈍重であると見せかけていたのだ。
そんな相手が、急に数倍速で動き、木々を使って立体的な軌道で襲いかかってきたら?
対処は不可能であった。
頭上から降ってきたバルツの森の主の爪にかけられ、頭部が砕け散ったようだ。
いやー、バルツの森の主が木々を蹴って、俺たちの近くまで飛び上がってきた時には驚いたね。
結局、20分ほどで騎士団は全滅し、こちらの被害はゼロだった。全員が怪我をしているが、致命傷には程遠い。
戦いを挑んだ場所と時間がよかったのだろう。こちらが圧倒的に有利な状況だった。
「さて、死体はこのまま放置するぞ」
鎧や剣などは戦利品として持ち帰りたいところではあるが、それをやっては人間の関与を疑われてしまうだろう。
この騎士団は、樹海から流れてきた謎の魔獣に襲われ、全滅した。そう思わせなくてはならないのだ。
これで、しばらくは時間が稼げるだろう。
「よしよし、よくやってくれたな」
「ガオ」
「獣組は、このまま森に身を潜めてくれ」
「ガオッ」
このまま村に連れて帰るよりも、遊撃部隊として隠れてもらっておく方がいざという時に頼れるだろう。
「人間が相手だったら、戦わなくていいぞ。むしろ、極力戦闘は避けてくれ」
「ガオ」
モンスターたちの存在――特にバルツの森の主のことは秘匿したいからな。
「ただ、その前に傷を癒しておかないと。みんな、こっちに一列に並べー」
一人で出撃させる代わりにと、ディシャル様たちはポーションを大量にもたせてくれた。頑張って戦ってくれたモンスターたちに使っても、文句を言う人たちではないだろう。
俺はそれぞれの傷に応じて、ポーションを振りかけていった。




