155話 厄介な騎士団
もうすぐやってくるであろうフィーナン伯爵配下の騎士団に対して、どう対処するか軽く話し合う。
カグートは襲って殲滅するべきだと主張したが、ゼド爺さんがそれに反対した。
相手は騎士団である。そこに先制攻撃を加えたとしたら、確実に伯爵家を敵に回すことになるだろう。しかも、大義名分が相手にある形になるのは、非常に厄介だった。
そうなのだ。騎士団に攻撃を仕掛ける場合、悪者はこの村になってしまう。
盗賊たちの証言をディシャル様の魔眼で嘘ではないと理解できていても、表向きは伯爵とこの村は敵対していないからだ。
明確な証拠もない。盗賊の証言なんて、どうせ助かるための嘘だと言われても仕方はないだろう。魔眼で判別したと主張するなら、ディシャル様の存在を公に明かす必要がある。それは絶対にできないことだった。
自警団の男たちや村長が議論を交わす。
「盗賊の頭目を連れて行って、お前らの悪事は全部ばれていると伝えたら?」
「それこそ、完全に敵対することになるぞ?」
「もう向こうはこっちに色々と仕掛けてきているのだし、この際仕方ないのでは?」
「だが、伯爵家の全戦力で攻められては、勝つことなど……」
「それができるなら最初からやっているのではないか? ここは二ヶ国の緩衝地帯だ。ここに大規模な戦力を向かわせれば隣国を刺激することになる」
「だからと言って――」
「しかし――」
だが、やはり結論は出なかった。ディシャル様はそれを見守っている。
相談役だと言っていたし、全部を彼女が決めてしまうわけではないのだろう。村人が意見を交わす姿を、柔らかい表情で見つめている。
俺の隣でもゼド爺さんとカグートが議論していた。
「では、騎士団を受け入れるというのかの?」
「別に、村に入れなければいいだろう!」
「たとえ戦闘が行われなかったとしても、行軍の疲れを癒したいだのなんだのと言って、村に入り込もうとするだろうさ」
「それを断ればいい」
「無理に追い返すことは可能だろうが、それをしては確実に敵対することになるぞ。相手はこの村を悪者に仕立て上げて、適当な理由で侵攻を開始するかもしれん」
「大義名分を与えると言うことかよ……」
「うむ」
その後も意見が交わされ、結局1つの問題にぶち当たった。どんな対応をしたところで、敵対せずに追い返せる可能性がほぼないのだ。
これまでの情報をまとめると、フィーナン伯爵がこの村の何かを狙っていることは確か。
だが、隣国との関係を刺激する恐れがあるため、大義名分もない状態で正面から武力で攻めることはできない。
そこでフィーナン伯爵は、盗賊に偽装させた傭兵団を使い、あの手この手でこの村に騎士団を送り込もうとしていた。多分、騎士の武力で実効支配を目論んでいると思われる。
だが、作戦が連続で失敗し続ければ、相手もしびれを切らすだろう。その際に取る手段として最も有力なのが、この村を悪役に仕立て上げて、侵攻するための大義名分を作り出すことだった。
フール伯爵がわざわざ俺の引き渡しを要求したのも、あえてそれを断らせて、大義名分を手に入れるためだろう。
フール伯爵と敵対する可能性が濃厚な以上、フィーナン伯爵とも敵対する愚は犯せない。しかし、今こちらに向かっている騎士団が問題だった。攻撃すれば、大義名分が相手に与えられる。
攻撃せずにいたら、騎士団がこの村までやってきてしまう。村の前までやってくれば、ゼド爺さんが懸念するように一晩の宿を借りたいだの、行軍の疲れを癒したいだのと言って、村に上がり込もうとするだろう。
断れば、折角盗賊を討伐に来てやった騎士団を蔑ろにしたとか言われて、この村が悪者にされるだろう。
村に招き入れて殲滅するという意見も出たが、魔術での連絡手段が存在する可能性がある以上、それも危険だった。
結局、騎士がこの村に到着する前に、何かトラブルでも起きて撤退、もしくは全滅してくれる以外、フィーナン伯爵と敵対しないで済む道がなかった。
普通なら、そんな奇跡起こるはずがない。
そう、普通ならな。
10分後。
俺は再び出撃しようとしていた。ディシャル様がわざわざ広場まで出てきて、見送りをしてくれている。
「すまないトール。君にばかり頼ることになってしまって……」
「いや、俺から言い出したんです。気にしないでください」
そう。俺ならこの村を救うことができた。まあ、一時的にだが。
やることは非常に単純だ。魔獣を呼び出し、騎士団がこの村に到達する前に殲滅する。
名付けて「ああ、最近はこの辺にも樹海から凶悪な魔獣が流れてきてるんですよね。トロールとか。騎士団の方々が襲われてしまうだなんて、ご愁傷様です作戦」だ。
普段なら、かなり難易度が高い作戦だろう。騎士の中には腕の立つ者が混ざっているはずなのだ。
しかし、今の俺の手札はご都合主義かと思うほどに強い。これなら、騎士団とも戦うことができるだろう。
だからこそ俺は1人での再出撃を志願していた。
ディシャル様や村長は、俺ばかりを働かせることになると申し訳なさそうだったが、村を守るにはその手しかないとも理解したのだろう。
逆に「よろしくお願いします」と言って頭を下げてくれた。
「この村がなくなると、俺も困るんで。人見知りの俺が、普通に話せるのなんて、この村の人たちだけですから」
「……無茶はするなよ?」
「大丈夫ですよ」
大勢に見送られながら、俺は再びこの村の広場から飛び立つ。
「主! ご武運を!」
「トールさん、頑張ってくださいね!」
必死に手を振って見送ってくれているワフとエミルに手を振り返し、俺はペガサスに命令を下した。
「全速力でいくんだ。ここからは時間との勝負になる。奴らが森にいる間にしかけたい」
「ヒヒィィン!」
「いけ!」




