151話 空からの奇襲
夜空を進んでいた俺たちは、一度騎士団の居場所を確認しに行くことにした。
そのまま森の上空を滑るように10分程進むと、行軍する騎士団の姿を捉えることができた。
ただ、そうそう大きな規模ではない。従者も含めて40人程だろう。
それに、距離もかなりある。この騎士たちが村にくるまで、まだ3時間以上はかかるはずだ。盗賊団と一緒に村を襲うつもりなのだとしたら、ちょっと離れ過ぎじゃなかろうか? 連絡の行き違いか何かがあったか?
「まあ、こいつらはとりあえず監視だけでいいや。メイドさん、頼んだ」
「ウア!」
「俺たちは盗賊を削りに行くぞ」
「ヒン!」
ペガサスの進路を再び変更し、村へと戻るルートを飛ぶ。すると、盗賊たちはすでに動きを開始したあとだった。
森から歩を進め、山岳地帯をゆっくり進んでいたのだ。
一気に進軍するのではなく、隠密性を重視しているらしい。音などを極力上げないために、その進軍速度は非常に遅かった。
「どう考えても、ただの盗賊よりも統率がとれているな」
上から見るとよく分かる。
装備品は黒であるという以外はバラバラで、一見すれば統制のないゴロツキの集まりだろう。
だがその動きはしっかりと一つの意思の下に統一されており、明らかに訓練を積んだ軍隊であった。
「しかも、数が多い」
100は優に超えている。あの軍隊に一斉に襲いかかられるのは、危険だ。村のためにも、しっかり遊撃の仕事を果たさなくては。
「――で、一気に――」
「オフ――」
「――は、こうして――」
「ゴフ――」
コボルトや魔術師長たちと相談して、軽いものだが一応の作戦を決めていく。まあ、相談といっても、俺の提案に対し、首を振ってもらって良いか悪いかを決めただけだが。
「それじゃあ、行くぞ。まずは狙撃弓兵、頼んだからな」
「オフ!」
空は未だに厚い雲が覆い隠し、月明かりも星明りも地上には届かない。隠密性を重視してこんな夜を選んだのだろうが――。
「ぐが!」
「な、なんだ?」
「ぎゃぁ!」
「ゆ、弓だ! どこかから弓で狙われてるぞ! 身を隠せ!」
完全なる闇が仇となり、盗賊たちは空にいる俺たちには全く気付けない。普通、夜なら灯を持っているのだろう。だが、奴らは身を隠すために一切の灯を点けていなかった。
そのせいで、周囲を照らすこともできない。
逆に、こちらは俺以外は全員夜目が利くのだ。
「ぐぁ! なんで……」
「どっから撃ってやがる……!」
「ひぎぃ! バカなぁ!」
「な、何人もいるのか……? 囲まれている?」
どんな物陰に隠れようとも、上空から放たれる狙撃弓兵の矢は防げない。だが、そのせいで、何人もの弓兵に周りを囲まれたと勘違いしたらしい。
ついに、ボスと思しき人間が指示を下した。
「仕方ねぇ! 松明を灯せ! このままじゃなぶり殺しだぞ! 弓兵を先に排除する!」
「あれが頭目か。霧豹、魔術師長」
「ガウ!」
「ゴファ!」
当初、一番先に闇に紛れて頭目を攫い、捕縛する予定だったのだ。
だが、誤算が一つあった。
頭目が誰なのか判別できなかったのだ。装備も他の者と大差がなく、陣形的にも怪しい人間が複数いた。まあ、そこは俺たちの想像力が貧相だった。
一番偉いからと言って、一人だけ豪華な装備身に着けてふんぞり返るような奴ばかりじゃないよな。そもそも、安全のことを考えれば、目立たない方がむしろいいだろうし。
そこで作戦を変更して、先に弓兵の狙撃を行なうことにしたのである。
固まって動く盗賊たちの一番外周部分に居る奴らを狙撃して、混乱を誘う。これは、万が一にも頭目を射殺してしまわないようにするためだった。
そして、その混乱を抑えるために指示を出す者を見つけ出す作戦だ。
「いけ!」
俺の命令に反応し、霧豹、魔術師長が一気に降下していった。闇夜の空からの奇襲に、盗賊たちはほとんど反応できていない。
唯一気配を察知して動こうとしたのが、標的になっている頭目であった。一瞬、その体を緑色の光が包もうとしたのだが、すぐに拘束されてしまう。
霧豹が周囲の盗賊を蹴散らし、魔術師長の肩に乗っていた蔦鼠が頭目を拘束。その頭目を魔術師長が抱きかかえて再び飛び上がる。
その間、わずか数秒。
「むぐぅー! ぐむ!」
魔術師長が担いでいる頭目は、凄まじい勢いで暴れていた。気功を使われると、もしかしたら蔦鼠の拘束から脱出されてしまうかもしれない。
「コボルト、黙らせろ」
「オフ!」
「オッフー!」
返事の声は可愛いのに、やることはハードだ。狙撃弓兵が何発か殴りつけ、相手が怯んでいる間に冒険家がロープで手足を縛り上げていく。
荒縄で手足を拘束された頭目は、もう抜け出せないことを悟ったのだろう。急激に大人しくなっていた。
だが、作戦成功を喜んでばかりもいられない。
「う、上だ! 何かいるぞ!」
「ハーピーじゃねぇ!」
さすがに俺たちの存在が気付かれた。上を見上げれば、松明の光に照らされて闇の中に浮かび上がる、俺たちの影が見えているはずなのだ。
「このまま留まっていても弓で狙われるだけだし、一発喰らわせてから村に戻るぞ」




