150話 盗賊の正体
闇夜の森に潜む盗賊たちに対して先制攻撃を仕掛けるべく、俺たちは動き始める。
「いってこい!」
「ウアア!」
「チュチュ!」
「ガウ!」
まずはポルターガイストメイドと蔦鼠、霧豹が密かに盗賊たちに近づいていった。その配置が完了したら、攻撃開始だ。
「よし、狙撃弓兵頼むぞ」
「オフ!」
メイドさんの合図により、コボルトの狙撃弓兵がペガサスの背から弓を放つ。
その必殺の矢は木々の隙間を縫い、盗賊の一人を正確に貫いていた。矢は眼球を穿ち、その頭部に刺さっている。即死だろう。
「うおー、さすがだ!」
「ワフ!」
その矢が放たれたと同時に、霧豹が盗賊の首に噛みついていた。さすが豹なだけあり、盗賊に気付かれずに接近することなど、朝飯前であるらしい。
盗賊は自身に何が起きたのかも分からぬまま、首の骨を砕かれて息絶えただろう。
残る1人は、真っ青な顔で口をパクパク動かしていたが声は出ない。その首に蔦鼠の尻尾が幾重にも巻き付き、まともな発声ができないせいだ。
そして、その男は次第に動きを鈍らせ、十数秒後には地面に倒れていた。メイドさんに精気を吸われて、衰弱したのだ。
完璧だった。これなら他の盗賊たちには気付かれていないだろう。
衰弱した男は、霧豹が服を咥えてペガサスの上まで引っ張ってきた。人間一人程度なら、持ち上げて浮遊することができるらしい。
「死んでは……ないな。よくやったぞ」
「ウア!」
「チュ!」
「偵察も完了したし、捕虜も手に入れた。とりあえず村に戻ろう」
ここで尋問はできない。拘束を解いた途端、大声でも上げられたら盗賊に俺たちの存在がばれるからだ。それに、俺には人を尋問する技能なんざないからな。
その後、俺たちは大急ぎでソルベスに帰還し、捕まえた盗賊をディシャル様たちに引き渡した。ディシャル様の覚心眼があれば、尋問は非常にスムーズだった。
特に拷問などをしなくても、嘘を吐いているかどうかが分かるのだ。その結果、やはり男たちは盗賊団の一員だった。
だが、それだけではなかったのだ。ディシャル様が難しい顔で唸っている。
「まさか、盗賊に見せかけた傭兵団だったとはね……」
月影の盗賊団の正体は、逆月傭兵団という戦闘集団だったのだ。依頼主からの指示で、盗賊に偽装しているらしい。
この盗賊は下っ端だったため、詳しいことはしらなかった。だが、十中八九フィーナン伯爵が背後にいるだろう。
「問題は、ここまでの陰謀を巡らせて、何を求めているかなんだけど……」
「ディシャル様の存在がばれたのでは?」
「それにしては、やり方が迂遠ではないかな? 普通に、私を差し出せと脅せばいい」
傭兵団をわざわざ盗賊団に偽装した上に、その戦力を直接の戦闘には使わず、求めるものは何故か騎士団の駐留。
確かに、やり方は遠回り過ぎる気がする。何かが欲しければ、騎士団と傭兵団を使って村を直接攻め滅ぼしてしまえばいい。
それが土地であっても、人であっても、その方が手っ取り早いだろう。
「今回も、正面から襲うことは避け、奇襲を目論んでいる。たかが村相手に、どうも納得いかないな」
ディシャル様たちは考え込んでいるが、そこに再び伝令が駆け込んできた。どうやら、盗賊がすぐそばまで近づいてきたようだ。
俺たちが先制攻撃を仕掛けた森林地帯からこの村までは、険しい山道になっている。どうやらその境界線あたりまで、盗賊たちはやってきたらしい。
しかも、それだけではない。
「騎士団が?」
「はい! 盗賊団よりもかなり後方に待機中らしいのですが、メイドちゃんが発見したようです。な?」
「ウア!」
自警団の男性の言葉に、メイドさんが頷く。彼女にはさらに広範囲の偵察を頼んでいたのだが、まさか騎士団までいるとは……。
「盗賊は囮で、本命は騎士団か?」
ゼド爺さんの呟きに、ディシャル様はやはり納得いかない顔で首を傾げる。
「それにしても、小さな村を襲うのにそこまで念入りにするかな? 地形的に攻めづらいと言っても、普通なら力押しでどうとでもなると考えそうだけどね……」
「それこそ、ディシャル殿の存在が相手にばれたのでは? ダークエルフの伝説は枚挙にいとまがない。万全を期するつもりなのではないかな?」
「うーん、そうかなぁ?」
「まあ、とりあえずここで話していても仕方ない。すぐに防衛の準備に移ったほうがよろしいのでは?」
「そうだね。ゼドには自警団と一緒に前線を頼みたいんだが……」
「無論、儂にできることであれば、なんでもやりましょう!」
「ありがとう。それで、トールには遊撃をお願いしたい」
「遊撃?」
「ああ。君の力は、他の人間と足並みそろえるよりも、単騎で暴れてもらう方が効率がいいと思うんだ。だから、ペガサスたちを使って、敵に好きなように嫌がらせをしてくれればいい」
「なるほど」
さっきまでの役割と変わらないってことか。まあ、俺としても、その方が助かるな。バリアはあっても、普段から鍛えている戦士たちと一緒に戦うのは、難しいし。
「大剣士たちは置いていくから、ゼド爺さんが指揮を頼む」
「うむ。任されよう。エミルたちのことも、心配するな」
「大丈夫。心配してないよ。ああ、その前にこいつを召喚しておくか」
日が変わる前に緑魔力を使い切らないと勿体ない。
「召喚!」
「グル!」
「おお! 雰囲気あるな!」
俺が召喚したのは鬼人の浪人である。着流しを着込んだ赤い髪の鬼人が、俺の前で片膝をつき、頭を下げていた。
鬼人の浪人 モンスター:鬼
緑3 2/1 UC
瞬発、先制
腰に下げた刀といい、完全に侍の雰囲気がある。ステータス自体はそこまで高くないが、先制を持っているからな。強化すれば、メチャクチャ強くなるだろう。
「良い面構えであるな! 是非、その力を見てみたいものだ」
「グル!」
ゼド爺さんの言葉に、浪人は嬉しそうに喉を鳴らす。どうやら、こいつも戦闘狂の気があるらしかった。
「まあ、ほどほどにな」
「分かっておる! 戦闘前に、腕前を軽く確認するだけだ」
本当にそれですむか? まあいいか。ゼド爺さんも歴戦の騎士。時と場合くらいは弁えているか。
「じゃあ、行ってくる」
「うむ」
ということで、俺は再びペガサスに乗って飛び立つのであった。
「さて、盗賊の規模はどれくらいかな?」




