149話 忍び寄る三日月
会議している倉庫に飛び込んできた男の一言で、場は騒然としてしまった。
そんな時でも落ち着いていたのが、ディシャル様だ。
「それで、盗賊が近づいているかもしれないっていうのは、どういう意味だい?」
「それが、トールさんのモンスターが村の外から戻ってきたと思ったら、しきりに騒ぎ出しまして」
なんと、俺のせいだった。
俺が見回りに派遣していたポルターガイストメイドが、焦った様子で何かを伝えに戻ってきたらしい。
最初の頃は驚かれたメイドさんだが、今では自警団でも人気者だ。幽霊だけど、美人さんだからな。
ジェスチャーで軽い意思疎通はできるようになったはずだが……。
「どうも、敵が近づいていると言いたいようで……」
「そうか……。偵察を出さないとね。トール、モンスターの力を借りれるかな?」
「勿論ですディシャル様。偵察はどういう形にしますか?」
自警団から人を出すのか、それとも俺たちだけで行くのか。俺にはペガサスもいるし、空からの偵察ならできる。
「ふむ……。まずは、トールのところのメイドちゃんに状況を詳しく聞こう。よんできてくれるかい?」
「わ、わかりました!」
その後、戻ってきた自警団の男性に連れられて、ポルターガイストメイドもやってくる。
そのメイドさんに色々と質問をして、身振り手振りで答えてもらった結果、やはり盗賊たちが村に迫っているらしかった。例の三日月の旗をメイドさんが見ているのだ。
どうも、山や森の中に100人を超える武装した男たちが潜んでおり、コソコソとこの村に近づいているらしいのだ。
いつその武装集団に襲われるか分からない状況で、村の防衛力を削るわけにはいかない。偵察は俺たちだけで出ることにした。
メンバーは俺、ペガサス、メイドさん、あとは数体のモンスターだ。敵の先遣隊がどこまで来ているのかを探ることが第一目標だな。
それだけではない。俺のモンスターの中でも森の中での戦闘に適した奴らを遊撃部隊として森に解き放つことになった。まあ、灰色狼などにゲリラ戦をさせようということである。
拠点防衛ではあまり役に立たないしね。遊撃部隊のモンスターたちには、自分の判断で人を襲っていいと許可を出している。
旗印を見ただけでまだ完璧に盗賊であるとは確定していないが、こんな時間にこんな場所をコソコソと動いている時点で、盗賊であることは決定であるそうだ。
それに、どこの誰にせよ碌なことを考えていないのは間違いない。
国に属していない村の周囲に、連絡もなしに秘密裏に軍事力を展開させているんだからな。どんな反撃を受けても、仕方がない行為だ。
「さて、いくか」
俺が飛び立つのは、強制成長を使った崖上の畑からだ。すでに、準備は終わっている。
「トール殿。お気をつけて」
「村長、ありがとうございます。ゼド爺さん、ワフやエミルたちを頼む」
「うむ。任せておけ」
「主! 気を付けて下され!」
「ああ。大丈夫だ。ワフも、ゼド爺さんの言うことをよーく聞いて、迷惑をかけるなよ。いいか? 暴走して、迷惑を掛けるんじゃないぞ?」
「なぜ、二度も……」
「お前が迷惑かけそうだからだよ!」
「失敬な! このワフのどこが、迷惑かけそうなのでありますか!」
「全部だ全部。ともかく、戦いになっても1人で飛びだすなよ?」
ワフに念を押しつつ、俺は伝令のペガサスに乗って飛び立った。
お供は先導役のポルターガイストメイドに、コボルトの狙撃弓兵、コボルトの探検家、蔦鼠の3体。そして、自力で空を飛べる霧豹、黒煙火山の魔術師長だ。空を飛べるモンスターを呼び出しておいて、本当に良かった。その判断をした俺、グッジョブ。
伝令のペガサス、霧豹、黒煙火山の魔術師長の中では霧豹の速度が一番遅い。まあ、飛行ではなく浮遊だからな。
それでも、俺が思っていたようなフワフワと浮かぶだけではなかった。宙を蹴って駆けることができるらしい。大地とそう変わらない速度が出せるようだ。
少なくとも、俺の想定よりは数段速かった。嬉しい誤算である。
「メイドさん。それで、敵の場所はどこか分かるか?」
「ウアア」
メイドさんには、盗賊たちの位置がかなり正確に分かっているらしい。彼女には生命力を探知するような能力が備わっているからな。それのおかげだろう。
「ウア」
「……どこだ?」
ただ、夜目の利かない俺には全く見えなかった。今日は曇っているせいで、月も星も出ていない。そのせいで、本当に真っ暗なのだ。メイドさんが指差す方角を見つめても、夜の森が広がるだけだった。
気配も感じられないし、人の声なども聞こえない。
「本当にここか?」
「ウアー」
「す、すまん。疑って悪かったって! だからそんな泣きそうな顔するな」
「ワフ!」
「ガルル」
どうも、俺以外の魔獣たちはその場所を理解できているらしい。本当にいるのだ。
「ふむ……。ディシャル様には、攻撃できそうなら先制で仕掛けても構わないって言われているが……」
できれば、相手の正体は知っておきたい。貴族が後ろにいるっていう話もあるしな。単なる盗賊なのか。それとも貴族の私兵が偽装している存在なのか。
「メイドさん。敵の人数は?」
「ウア」
メイドさんが指を3本立てる。
「3人か」
盗賊たちは三人一組になり、森の中に散らばって行動しているようだ。気配で察知されないようにするためだろう。最終的な目的地を定め、そこまでは少人数で移動するつもりであるようだ。盗賊らしからぬ慎重な作戦だった。
「狙撃弓兵。ここから1人を仕留められるか?」
「オフ!」
頼もしい返事だ。この程度の距離で外すわけがないでしょう? その顔は、まるでそう言っているようだった。
「じゃあ、狙撃弓兵と、隠密に長けた霧豹が1人ずつ仕留めろ。で、メイドさんと蔦鼠で、1人を生かして捕まえてくれないか?」
メイドさんの攻撃は、相手の精気を吸うというものだ。これでこっそり弱らせて、蔦鼠の尻尾で捕獲する。不可能ではないと思うが……。
「できそうか?」
「ウアア!」
「チュ!」
うちのモンスターたちは、みんなやる気十分だね。まるでワフみたいだ。いや、そう思うとちょっと心配になるけどさ。
「魔術師長は保険だ。もし誰かが失敗したら、一気に強襲して仕留めてくれ」
「ゴファ」
「よし、それじゃあ作戦開始だ!」
次回の更新は8/20の予定です。
デッキひとつで異世界探訪 3巻が好評発売中ですので、そちらもよろしくお願いいたします。




