146話 ワフとディシャル
カードの力を見たいというディシャル様の言葉に応え、俺はツリーアーマーのカードを手に取った。
元々、ワフに使ってみるつもりだったしね。
「ツリーアーマー! 召喚!」
「おおー! きましたぞ!」
カードから発せられた光が、ワフの腕に嵌められていた腕輪に吸い込まれていった。木製の腕輪の色が少しだけ黒っぽく変化している。どうやら上手くいったらしいが……。
「どうだ?」
「少々お待ち下され! うぬぬ!」
「ほほう! これは面白いね!」
「こりゃまた……」
ワフがツリーアーマーを起動させると、その全身に木の蔦や枝が巻き付き、あっと言う間に鎧の姿に変化した。
それを見たディシャル様が目を輝かせて感嘆の声を上げているが、俺が驚いたのはその形状である。
明らかに以前よりも育っている。全体のシルエットも一回り大きくなり、鎧を形作る樹の色も只の茶色だけではなく、重厚な黒が混ざっていた。黒檀的な色合いだ。
重ね掛けしたことで、パワーアップしたのだろう。以前にも増して力強い緑の光が立ち上っていることからも、それは理解できた。
もうね、カイオ〇ケンを使っているのかと思うくらい迸っているのだ。
ただ、さすがにここでワフのパワーを試すわけにもいかん。メチャクチャ狭い、洞窟の中だからね。
床の広さは普通のワンルーム程度。天井も、一番高いところで3メートルくらいで、低いところは2メートルもないのだ。
だが、ワフはワフだった。
「力がみなぎってくるのでありますぞ! ワフー!」
「あっ!」
止める間もなかった。
ワフの野郎、なんとその場で思い切りジャンプしやがったのだ。
こんな低い場所で今のワフがジャンプなんてしたら――。
「ギャフン!」
硬い物が岩に衝突するドゴンという鈍い音とともに、洞窟の天井からぱらぱらと埃が落ちた。そして、ワフがビタンと地面に落下し、頭を抱えて呻いている。
いくら防御力が上昇していても、今のワフの力で岩の天井に頭をぶつければ、かなりの衝撃があるはずだ。
「うごご~……。痛いでありますぞ~」
「考えなしに行動するからだ! お前、またパワーアップしたんだからな! もっと落ち着いて、冷静に行動しろ!」
「ううー、了解であります」
今のワフは、元々0/1のワフに、森の精霊の加護×2で+2/+2、ツリーアーマー×2で+2/+4
となり、4/7となっているはずなのだ。
まあ、気功の扱いなんかも関係してくるから、実際は3/5くらいだろうが、それだって十分超人の域だった。
「……ツリーアーマー、エミルに使う方が良かったか?」
もしくは大剣士あたりをパワーアップさせた方がよかったかもしれない。
「な、何故に!」
「粗忽者のお前じゃ、何やらかすか分かったもんじゃないからだよ!」
まあ、やっちまったもんは仕方ない。そうだ、まずはディシャル様に謝らないと!
ワフを見て爆笑しているから、怒ってはいないだろうけど。
「す、すいません! お騒がせしました!」
「あはははは! 見せてほしいといったのは私なんだから、気にしないでよ! そ、それよりもワフは大丈夫かな? ぷくく」
まあ、ディシャル様に喜んでもらえたみたいだし、結果オーライかな?
「ほれ、ちょっと頭見せてみろ」
「どうでありますか? たんこぶになってないであります?」
「うーん、どうだろうな」
酷く腫れてる様子はない。ただ、たんこぶにはなっているようだった。大丈夫と思うんだけど、一応頭だしな……。
「あとで、生命循環の蛇に癒してもらおう」
「わかりました」
「いやー、色々と良いものが見れたよ。だってあんな……ぷぷ」
ディシャル様は笑い上戸なのか? いや、さっきのワフの失敗がそれほど間抜けで面白かったのかも。
そもそも、こんな場所に何百年も籠っている人だ。ディシャル様は日中はほぼこの場所に居て、夜に湯あみのために外出するだけであるそうだ。
少しのことでも面白いのだろう。地球だったら、面白衝撃動画を見るような感覚なのかもしれない。
「君たちを歓迎するよ。これからは、よろしくね」
「はい。ありがとうございます」
「ワフも、お大事に」
「はいであります」
俺たちはディシャル様に見送られながら、帰路に就く。暗いとはいえ、さすがに自分が暮らしている小屋の場所くらいは分かる。ワフの鼻もあるしね。
「ドローしたのは石の巨兵か」
石の巨兵 魔力5 C オブジェクト
魔力5:1時間のあいだ、特殊能力を持たない4/5の無機モンスターとなる。その間、オブジェクトでもある。
魔力は多くかかるが、普段は食費などが一切かからないというのは有り難い。それに、石像だと思わせておいて実は――という奇襲も可能だった。
「主」
「なんだ?」
「ここは良き村でありますな」
今のディシャル様とのやり取りで、よくそんなこと言えたな。
「どうしてそう思ったんだ?」
「ディシャル殿は、主の能力を見ても、全く嫌な雰囲気がありませんでした。利用してやろうとも、恐怖を感じたりもしなかったようです。長があのような者であるのであれば、住み心地もよろしいでしょう」
「ほー、よく見てるな」
「ふふん! ワフはできる犬でありますからな!」
まあ、ワフはその辺、意外と目端は利く。ただ、ちょいとばかりお馬鹿なだけで。ワフがそういうのであれば、きっと間違いないのだろう。妙に上から目線なのが気になるが。まあ、ワフだし。
「そっかー」
「そうであります!」




