145話 精霊について
ディシャル様との顔合わせが終わった直後、俺だけが残るように頼まれた。
俺だけと、内密な話があるそうだ。
ゼド爺さんは多少渋っていたが、俺は無理にでも爺さんたちを家に帰らせた。そもそもこの村に住もうってのに、村長よりも偉い人を疑ってどうするんだって話だ。
ただ、ワフだけには残ってもらうことにした。ワフなら俺の事情を全部知ってるからな。
これは俺の勘でしかないが、ディシャル様の話は俺の能力や、少し特殊な立場に関するものなんじゃないかね?
だとしたら、ディシャル様がゼド爺さんたちを帰らせたのは、俺への配慮だと思う。
「さてと……これで、ここにいるのは私と君たち、そして私の契約精霊だけだ」
「え? 精霊?」
「精霊さんがいるのでありますか?」
「ちょっと待ってくれ……。いでよ、風の精霊よ」
ディシャル様が集中して指先に魔力を集める。しばらくすると青い魔力は指先を離れ、フワフワと宙に漂いながらゆっくりと姿を変え始めた。そして、何かの輪郭を描き始める。
「これが私の契約精霊だ」
「――」
現れたのは、一匹の蜻蛉であった。魔力によって形作られた美しい蜻蛉が、ディシャル様の上空でホバリングしている。
「きれいでありますな!」
喋ることはできないらしい。しかし、歓迎されているように感じた。
「精霊の放つ魔力は、意思の力が乗っているからね。精霊の感情が伝わってこないかい?」
「――」
ディシャル様に教わった後だと、精霊の感情がハッキリと理解できた。本当に歓迎されていたらしい。
「名前はなんというのでありますか?」
「精霊に名前なんかないさ。風の精霊。それが呼び名だね」
「ディシャル様が名付けたりはしないんですか?」
「いやいや、無理だね。下級とは言え、私たちよりも格上の存在なんだよ? 名前を与えるような深い契約を結んだら、こっちが耐えられないさ」
俺たちには精霊眼の力はよく分からないが、いろいろと複雑なようだ。だが、そうなると1つ疑問が残る。
「でも、以前出会った精霊たちには、名前があったぞ?」
「名前を持つのは、上位の精霊だ。暴れ回り過ぎて、人々から統一された認識を持たれた精霊。特殊な土地に宿った精霊。もしくは、神によって名を与えられた精霊。どちらにせよ、危険な存在だ。今の口ぶりだと、1回ではないのだろ? トールはよく無事だったね」
「あー、1回目は死にかけましたね」
「ふむ。それで無事とは、やはり君は普通じゃないな。さすが、神気を宿すだけある」
やっぱりその話か。
以前、大精霊フォルタル=クルアにも、同じように神の力を宿していると見抜かれた。精霊やその関係者には、分かってしまうってことなのかもしれない。
「あー……」
「別に話したくないなら構わないよ。悪意を持って隠しているわけじゃないのは分かっているし。ただ、何か困っているなら、相談に乗るかってことを伝えたかったんだよ」
「それは、ありがとうございます」
「それに、君の力を少しあてにしているというのもある。不思議なカードを使う力、あれが神に与えられた祝福なんだろう?」
「まあ、そんな感じです」
やっぱ見られていたよね。
「この村の生活は厳しいから、頼りになる仲間は大歓迎さ。あまり自分の能力を人に見せたくないんだったら、カードを使う時にはそこの倉庫で使用するといい」
「いいんですか?」
「ああ。それに、倉庫の中で使ったとしても、君が何か不思議な力を持っていることはすぐにばれると思うしねぇ」
倉庫の中に入って出てきたら、魔獣が増えたりしてるわけだしな。メッチャ光るし。
「しかし、神の力をこれほど身近に感じたのは久しぶりさ。もしかして何かの使命の途中だったりするのかい?」
「いや、俺は何というか、特に使命的なものは聞いてないですね」
「え? そうなのかい?」
「はい。あ、ただ、以前出会った大精霊からは、混沌憑きを見たら積極的に狩ってほしいというお願いはされましたけど」
「だ、大精霊様だと?」
俺の言葉を聞いたディシャル様が、目を見開いて叫んだ。
「え、ええ。大精霊フォルタル=クルアって、名乗ってたんですけど……」
俺は、大精霊と出会った経緯を簡単に説明する。
「なるほどね……。まさか混沌憑きの精霊を倒せるほどだったとは……」
「やっぱり普通は難しいんですか?」
「当然さ。精霊と混沌。双方にダメージを与えなくちゃならないんだから」
やはり、セルエノンにもらったカードの力は、特別ってことだろう。
「大精霊様の頼みとあれば、私も無視はできないよ。もし私の力が必要になったら、声をかけてくれ」
「は、はぁ……」
エルフにとって、大精霊は神に準ずる存在であるそうだ。下級の神みたいな扱いであるらしい。
「それにしても、君のカードは不思議だね。魔獣を呼び出すだけじゃなくて、樹を成長させたり、仲間を強化したりもできるんだねぇ」
「ま、まあ。制約は色々とあるんですが。カードに秘められた力を解放する的な感じなんですよ」
「ははぁ。面白いね。ねぇ、嫌じゃなければ、何か使ってみてくれないかい?」
「ここで、ですか?」
「うん」
ディシャル様は好奇心が旺盛であるらしい。期待するような目で俺を見上げている。
「うーん……」
手札を確認してみるが、おいそれと使えないカードばかりである。
「使えそうなのはこれくらいですね……」
俺が手に取ったのは、ツリーアーマーのカードだ。同じ相手に複数回使えるのか、実験をしていなかった。だったら、ここでワフに使用してしまうのもいいかな。
どうせ、明日には使うつもりだったんだし。
「じゃあ、ワフ! いくぞ!」
「はいであります!」
「どんな感じなんだろうね。楽しみだよ!」




