144話 ダークエルフの過去
「さてと。この村の一員になったということで、この村の成り立ちを軽く教えておこうか。私がここにいる理由とかね」
ディシャル様に言われて思い出した。そういえば、最初はその話だったな。
「そうそう複雑な話ではない」
ハールヴァイド帝国によってエルフの国が滅ぼされた後、ダークエルフたちは散り散りに逃げたそうだ。
そして、ディシャル様は西へ逃げ続け、この地方へとやってきた。
現在、すでにハールヴァイド帝国はない。しかし、その後継者を名乗る国が複数あり、今でもエルフを目の敵にしているそうだ。
ハールヴァイド帝国の政策を一部受け継ぐことで、正当性を示しているのである。ダークエルフに掛けられた懸賞金も未だに健在であった。もし、西側の冒険者たちがダークエルフの生存を聞きつければ、この村を荒らしにやってくるだろう。
それ故、ディシャル様は未だに隠れて暮らしている。
「もう、存在しているかどうかわからないのに、賞金は残ったままなのか」
「ある意味、笑い話というか、古い伝統的な扱いになっているんだろうよ。それに、ダークエルフは長寿だ。数百年程度なら、まだ生き残っている可能性もあると考えているんだろう。実際、私は生き残っているからな」
肩をすくめながら、ディシャル様は苦笑する。
「それにしても、そこまでしてダークエルフを追っていたんですね。そんなに、ダークエルフを滅ぼしたかったんでしょうか?」
「私にも、奴らが我らに拘った真の理由は分からん。ただ単に我らを危険視していたのか、なんぞ他に理由があったのか……」
とにかく、帝国から遠く離れたとしても、ダークエルフたちに安住の地はなかった。ダークエルフの首に高額の賞金がかけられていたという理由もあるが、それ以外にもダークエルフが人々に狙われた理由があったのだ。
「我らダークエルフは、闇の魔力を宿しておる。そのせいで、日の光に弱い」
「え? そうなんですか?」
「私たちの黒い肌は闇の魔力の影響だ。日に焼けているわけではない。それ故、肌が黒い人間たちと違って、我らは日の光に弱いんだ。すぐに貧血になるし、魔力も大幅に下がってしまう」
逆に、肌が白いライトエルフは日焼けなども一切しないが、夜になると強い眠気に襲われ、魔力が弱まってしまうという。
「ウッドエルフなどであれば、あまり影響がないんだがな」
ウッドエルフは日の光には影響されない代わりに、緑の濃さに影響を受けるそうだ。
「日の光を浴びたら肌が焼けるという程ではないが、嫌がることは確かだ。ただでさえ魔力が弱まっているうえに、一番得意な闇魔術は太陽の下では威力が下がるからな」
日の光を浴びることを忌避し、瞳が赤く、強力な闇魔術を操る。
この特徴が、ある忌み嫌われている魔獣とそっくりであったことが、ダークエルフの運命を決定づけてしまった。
「……人間の中に、ダークエルフはヴァンパイアの眷属であるというデマが広まってしまったのだよ」
「ヴァンパイア! え? いるんですか?」
「うむ。この付近では大昔に狩り尽くされてしまったが、南部にはまだ密かに生き残っていると言われているな」
ヴァンパイアは、呪いによって変化した人間のなれの果てであるらしい。
始祖は、狂った貴族に拷問の末に殺された一人の呪術師の少女であったそうだ。人全てを恨みながら呪術で自らを化け物へと変貌させ、生まれたのが始祖ヴァンパイアである。
人を恨むが故に、人を襲い、その血を啜る。そして、呪いを感染させて、人間を化け物に変えてしまう。
呪いに感染した時に、耐性があると新たなヴァンパイアになり、耐性がなければサッカーと呼ばれる理性のない化け物になってしまうのだ。
人間を滅ぼしかねない凶悪な種族を、人間が許すはずがない。大規模なヴァンパイア狩りの末に、ほとんどは滅ぼされたと言われている。
「そんな種族と混同されて、まともに扱ってもらえるはずもない」
結果として、逃げるダークエルフたちは人間社会で受け入れられることなく、様々な場所に隠れ住むしかなかった。
「まあ、ダークエルフが滅んだと言われ、その存在自体が幻となったおかげで、そのデマも消え去ったようだがな」
そもそも、ダークエルフ自体の存在が疑問視されるほどなのだ。デマもなにもないのだろう。
「多くの仲間は、失意の内に死んでいったよ。それに比べれば、私は運が良かった」
ディシャル様も他のダークエルフ同様、人間に追われながらも、なんとか生き永らえていたそうだ。だが、そんな彼女に転機が訪れる。
「この場所にあった集落の人間たちが、私を受け入れてくれたのさ。当時は集落と言えるほどの規模でもなかったが」
滅んだ小国の騎士たちが、谷間に隠れながら落人の集落を作っていたらしい。そして、同じような境遇のディシャル様を受けれてくれたのである。
彼女は落人たちに感謝し、この場所を発展させることに尽力した。そして、その力と人柄を見込まれて、相談役のような立場になったらしい。
以来この村は、外から逃げ込んできた者たちを受け入れながら、細々と永らえてきた。
「もう、400年以上になるかね? 私の能力で村に悪意のない者は迎え入れ、敵意や悪意を抱くものは排除し、なんとか村を存続させてきたのさ」
「ディシャル様は、この村の守り神でございます」
それまで黙っていた村長が、口を開く。
「私はこの村の生まれでございますが、我らにとっては指導者であり、守護者であり、母であり、祖母でもあります。幼き頃、ディシャル様に読み書きを教わったのは、今でもよい思い出でございますよ」
「なに、この村で日中暇なのは我くらいなのだ。子の面倒くらいは見なければな」
随分と余所者に優しい村だと思っていたが、ディシャル様の能力を信頼しているからなのだろう。
「改めて、歓迎しよう。ソルベスの村にようこそ」
8月に、第3巻発売予定です。
活動報告にてカバーラフを公開しましたので、ぜひご覧ください。
相変わらず素晴らしいですよ。




