140話 天兵の守護槍
強制成長を試した翌日。
俺は朝からエミルと向かい合っていた。
「私にも、武器を下さるんですか?」
「ああ、昨日、このカードを引いたからな」
俺がエミルに見せたのは、天兵の守護槍のカードだ。
天兵の守護槍 白4 UC オブジェクト
白1:装備 装備したモンスターは、+2/+1強化され、天光(種族:ヴァンパイア、デーモン、アンデッド、邪神、魔人へのダメージを倍加する)を得る。
「おお! 美しいカードでありますな! エミル殿にピッタリですぞ!」
「だろ?」
イラストは、天使が振りかざす、柄が純白の美しい槍だった。長さは3メートルくらい。穂先は斬ることもできるように平たくなっている。
強制成長のドローで引いたのだ。ゼド爺さんには黒霧の長剣、ワフが電撃の大剣を装備している今、残るはエミルだけである。
ゼド爺さんから槍の扱いを指導され、エミルが今も毎日鍛錬を欠かしていないことも知っている。エミルにピッタリの武器だと思う。
「でも、貴重なものなんじゃ……。私なんかよりも、トビアさんかジェイドさんに渡した方がいいですよ」
「いや、俺はエミルに使ってもらいたい。トビアたちが仲間じゃないとは言ってないぞ? でも、やっぱりエミルとゼド爺さんは特別なんだ」
「主! そこは、エミル殿の名前だけでよかったのでありますぞ!」
「はぁ?」
ワフが何やら背後で囁いているが、意味が分からん。ゼド爺さんがいらない? 今朝、寝坊しかけて、ゼド爺さんに叩き起こされたことをまだ根に持っているのか? 心の狭い幼女である。
「お前何を言ってるんだ?」
「ですから、そこはエミル――」
「ワ、ワフちゃん!」
「むぎゅ!」
ワフの口を塞いだのは俺じゃない。怖い笑顔のエミルだ。
「ワフちゃん、ちょっと向こうの部屋でお話ししましょうね~」
「え、エミル殿! 何故に~!」
大事な話を邪魔したワフは、エミルに隣の部屋に連行されていったのだった。
すぐに戻ってきたエミルが、恥ずかしげな顔で頭を下げる。
「お、お待たせいたしました。は、はしたないお姿を……」
「いや、うちの駄犬がすまんな」
とりあえず、装備品を召喚してしまおう。
「天兵の守護槍、召喚!」
地面に描かれた魔法陣から、白い槍がせり上がってくる。
「ふわぁー、何度見てもキレイですね……」
大地に突き刺さった状態の白い槍。俺はさらに魔力を消費して、装備者をエミルに指定した。これで、エミルであればこの槍を持てるはずだ。
召喚に魔力を4、装備に1使用したが、それだけの価値がある。何せ、+2/+1強化だからな。
「外で軽く振ってみようか」
「はい!」
さすがに、武器を召喚するのは目立つので家の中で行ったが、試し切りは外じゃないとね。
試し切りに使うのは、バラして薪にする大きめの木材だ。粉々になってしまっても着火剤になるということで、好きに切っていいと言われている。
「まずは、強化がどこまで有効かを調べたい」
「わかりました。でも、どうやって?」
「あそこにちょうどいい石があるだろ?」
谷間にあるだけあって、村の中には普通に岩がごろごろ転がっている。まずは、槍を持たない状態でその岩をエミルに持ち上げてもらうことにした。
成人男性代表として俺も一緒に挑戦してみたが、すでにエミルの能力は俺など遥かに超えていた。
俺ではビクともしない岩を、軽々と持ち上げてしまうのだ。100キロはなくても、50キロは確実に超えているだろう。
「やっぱりトールさんにもらった力は凄いです!」
「あ、ああ。ありがとう」
「じゃあ、次は槍を持ったまま岩を持ち上げればいいんですか?」
「そうだな。頼む」
「でも、ちょっと持ちづらいですね。背負っても地面に引っかかっちゃいますし……」
「ちょっと長すぎるか」
「そうですね。もう少し短かったら――ええ?」
「え? エミル、何したんだ?」
なんと、エミルが背負っていた天兵の守護槍が、急に短くなったのである。その後色々と実験した結果、エミルの望みに合わせて伸び縮みすることが分かった。
最短で50センチ。最長で5メートル程度だ。使用者が使いやすい長さに変化するのだろう。色々と試した結果、如意棒のように使うことも可能だった。
「これで背負いやすくなりましたね! じゃあ、行きますよ!」
そして、エミルはさらに強烈なパワーを発揮してくれたのであった。槍を体のどこかに触れさせていれば、身体能力が強化されるらしい。ワフと同じで、無意識で気功を扱うことができるようになったようだ。
緑色の気功オーラを身に纏ったエミルにかかれば、100キロ以上はありそうな巨岩も軽い物であるらしい。持ち上げて、スクワットさえできている。
「お次は、この槍の切れ味の試験ですね!」
「そうだ。頼むぞ」
「はい!」
力を本気で発揮するのが段々と楽しくなってきたのか、エミルが積極的に行動しだした。
「いきますね! てやぁっ!」
「うわっ。凄いな」
「凄いですよこの槍! 木がまるでチーズみたいです!」
エミルの振り下ろした槍は、樹木を輪切りにしただけの太い木材を、一刀両断にしていた。
切り口は滑らかで、エミルの喩えたチーズという表現もあながち間違っていない。本当に、チーズをナイフで切ったみたいな凹凸がない断面をしているのだ。
その後は岩などにも攻撃をしてみたが、その威力は想像を超えていた。岩が砕ける程の突きをくり出しても、刃こぼれ一つなかったのには驚いたね。
天兵の守護槍と比べるために普通の槍も使ってもらったのだが、今のエミルの膂力には耐えられないらしい。総鉄製の槍でさえ、半ばからグニャリと曲がってしまった。
今後は、そこら辺も気を付けないといけないだろう。
「今後はこの槍で、トールさんを護って見せます!」
槍を達人のように振り回しながら、エミルが宣言する。うーむ、エミルも段々と武闘派になってきたな。絶対にワフとゼド爺さんの影響だろう。
でも、頑張って鍛錬をしているエミルに、そこそこでいいとも言えないし……。
「た、頼んだぞ」
「はい!」
結局俺は、そう言うことしかできなかった。
レビューをいただきました。
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