139話 驚きの再会
村長とワフが上げた歓声を聞きつけたのだろう。農作業中だった他の村人が周辺に集まってきた。
いや、これだけ巨大なサボテンが急に出現すれば、誰だって様子を見にくるか。
「こ、これは凄まじいですなぁ! いやはや、驚きました」
「主の力ならたやすいことですぞ!」
「適当言うな! もうしばらくはできんから!」
ワフの言葉を聞いた瞬間、村人たちの目がギラリと輝いたからな。他の苗木も成長させろと言われても、無理である。
「やはり、これだけの大魔術ですと、かなりお疲れになるのでしょうな」
「まあ、それだけじゃなくて、触媒っていうんですかね? 必要な道具がないので。申し訳ない」
村長と話すふりをして、周りの村人に無理だと聞かせる。明らかに落胆しているが、できないものはできないのだ。
「いやいや、何をおっしゃいますか。すでにあなたの魔獣たちのおかげで、非常に助けられております! これ以上を望んでは、罰が当たりますよ」
村長も俺の意図に気付いてくれたらしい。俺に合わせてくれた。村人たちがばつが悪そうな顔で、そそくさと去っていく。
「申し訳ありませぬな」
「いえ、うちのワフがアホなことを口走ったせいなんで」
「主、どうしたのでありますか?」
「お前は、もう少し考えて発言しような?」
「分かりましたぞ! でも、ワフは常に考えて喋っておりますぞ?」
「嘘言うな」
「な、何故にー!」
ワフのこめかみをグリグリしながら、急成長したサボテンを見上げた。
「あとは、これにちゃんと実が生るかどうかです」
「確かに。これほど急成長した樹に、異常がないとも限りませんか」
「そういうことですね」
そんな話をしていると、下から何人かの人間が上がってきた。自警団の人々だ。
どうやら、カードを使う時の閃光が下からでも見えたらしく、何があったかの確認をしにきたらしい。
「村長、トール殿。大丈夫ですか!」
「カグート。大丈夫ですよ。トール殿の魔術を見せていただいただけですから」
「そうでしたか……? うん? こんな大きい果樹、ここにありましたっけ?」
「これは――」
カグートと村長が話している間、俺はその後ろに控えていた男性に声をかける。
「ロ、ロイドも見えたのか?」
「ああ」
それは、3週間ほど前に樹海で別れた、元盗賊のロイドであった。
衝撃の再会を果たしたのは昨日のことだ。自警団員の見習いとして、カグートから紹介されたのである。
いや、衝撃を受けていたのは俺たちだけで、ロイドは相変わらずの無表情だったが。
ロイドは、ロトスという孤児収容所で少年兵として育てられたせいで、感情表現ができなくなってしまっていた男だ。たった2週間でそれが大きく変わるはずもなく、相変わらずの様子であった。
ロイドがソルベスの村にやってきたのは、2週間前のことであるらしい。はぐれトロールが谷に居座る直前のことだ。
樹海で瀕死に陥っていたロイドを、狩りに出ていた村の男たちが救助したことが切っ掛けだった。
行く当てもないということで、村の一員に迎え入れられたらしい。腕も立ち、文句も言わないロイドは重宝されているようだった。
ああ、奴隷のように扱われているわけではないぞ? 見た感じ、可愛がられている。感情を表さないその痛々しい姿が、村の人間たちにとっては他人事ではなく映るようだ。
彼らもまた、迫害されて逃れてきた人々だからな。
正直、どう接すればいいのか分からない。だが、無視することもしたくなかった。理想は、普通に会話できるようになることだ。
謝ったり、謝られたりをしたいわけじゃない。それでも、このままではいけない気がした。
まあ、大分直ってきたとはいえ、人見知りの俺と、常に無表情のロイドでは、まともな会話ができるようになるまでどれだけの時間がかかるか分からないが。
「い、いい眺めだよな」
「そうだな」
「あのサボテンの実、どんな味なんだ?」
「まあまあ甘かった」
「そうか」
「ああ」
「……」
「……」
「こ、この村、面白いよな」
「ああ」
「……」
「……」
俺がロイドに話しかけたことを微妙に後悔し始めた頃、不意にロイドが口を開いた。
「この村は、食糧不足だった」
「聞いたよ」
「盗賊のせいで、商人が来なくなったらしい。それでも、元盗賊の俺を責める人は誰もいなかった」
ロイドは相変わらずの無表情だ。
「食料も、分けてくれた」
「そうか」
「みんな飢えているのに……。新参者の俺も、村の仲間だといって……」
だが、その言葉には微妙に熱がこもっている気がした。
「……みんなが助かって、本当に良かった。だから、感謝する」
ロイドが頭を下げてくる。
兄を殺した俺たちへの恨み言ではなく、村の人々を救ってくれたと礼を口にする。
ロイドはこの村のおかげで、変わりつつあるようだった。




