138話 強制成長
俺たちがソルベス村に辿り着いてから3日が経過した。
俺が驚くほどに、村人たちからの反応は好意的だ。
トロール肉で恩を売ったことも大きいのだろう。
あとは、召喚モンスターたちを狩りや畑仕事の護衛に貸し出しているのも大きいようだ。最初はモンスターを怖がる人もいたが、触れ合って狂暴ではないこと分かれば、すぐに受け入れてくれた。
そうなると、むしろ引く手数多で困る程だ。
狼たちは狩りのお供に。コボルトたちは農作業時のお手伝い兼見張役に。他のモンスターたちも荷運びなどの力仕事で大活躍である。
今では、灰色狼や虎人の大剣士が村を闊歩していても、笑顔で手を振ってくれるほどだった。
「今日は村長さんに農地を見せてもらえるんだったな?」
「そうであります!」
昨日、一昨日は家の掃除や挨拶回りで、今日からは村の案内をしてもらうことになっている。
移住希望組であるトビア、ジェイド、マリティアは仕事の適性を見るために、俺たちとは別行動だ。
ゼド爺さん、エミルも、短期間でも仕事をすると言って出かけて行った。ゼド爺さんは自警団への訓練。エミルは村の女性陣と刺繍仕事をするらしい。
俺とワフは仕事免除――ではなく、魔獣の貸し出しが仕事とみなされていた。お金は貰っていない。村長が僅かでも賃金を支払うといってくれたんだが、トロール肉の売買でかなり儲けている。
厳しい財政状況の村から、これ以上搾り取るのは少し悪い気がした。元手はかかってない訳だしな。そのかわり、魔獣たちの餌も村で用意してもらっている。
「トール殿、お待たせいたしましたな。畑はこちらから上がります」
実は、畑を見せてもらうことには理由があった。俺の手札にある強制成長のカードが使えないかと思ったのだ。
村のためになることだと思うし、手札で肥やしになりそうな、使い所が難しい強制成長を使えれば俺も嬉しい。実は、ここ3日で赤の秘石1枚しかカードを使用できていなかった。
赤の秘石 赤2 C オブジェクト
破壊すると、次に使用する赤の呪文のコストを赤1減らす。
このカード、一見すると損しかしないが、実はそうじゃない。
毎ターン終了時に消えてしまう赤魔力を有効活用できるカードなのだ。無駄に消滅させてしまうくらいなら、このカードを使うために注ぎ込んでおけば、いざという時に赤呪文のコストを1点減らせるわけだ。
それこそ、魔力が3しかない時に、コストが4のカードを使えたりもする。ヘソクリみたいなものかね?
赤魔力を有効活用するためのカードなので、万能魔力を使って召喚するのは少々勿体なくはあるだろう。
ただ、クレナクレムであれば1ドローもできる。赤スペルが1コスト軽減されるうえに1ドローできて、魔力2で済むのであれば、むしろ優良なカードと言えた。
その時のドローが、幻影の竜だ。
幻影の竜 モンスター:幻想
白4 4/0 C
飛行、生命力が0以下でも破壊されない。
召喚されてから1時間後、生贄に捧げなくてはならない。
イラストは、半透明の白いドラゴンである。1時間で消えてしまうが、非常に強力なカードだった。ただ、当然ながら今は使えない。
となると他のカードを使いたいんだが、これがなかなか難しい。現在の手札は比翼のワイバーン、生命回復、ファイアホイール、風霊の宝玉珠、強制成長、幻影の竜。無駄に使えない切り札級のカードばかりだった。
この中で唯一、所持していてもあまり意味がないのが、植物を強化するカードである強制成長だった。
強制成長 緑2 スペル
詠唱、対象の植物を+0/+3し、再生(緑2)、防衛を与える
植物系のモンスターにしか意味がない可能性もあるので、その場合は本当に無駄打ちになるけど。
ただ、設定的にはエルフが森を育てるために使う呪文だったはずなので、モンスター以外の植物にも効果があると思うんだよね。
ということで、とりあえず畑で実験してみようと言うことになったのであった。
俺たちは村長に連れられて、崖に設置された階段を上がっていく。
「おおー! 主! 絶景ですぞ!」
「確かにいい眺めだな」
階段を登り切った先は、平たい小山の頂上であった。上から見るとよく分かるが、ここはテーブルマウンテンだったのだろう。その中央に大きな亀裂が走り、谷となった場所にソルベスの村が作られたのだ。
そして、村の畑はテーブルマウンテンの頂上に作られていた。乾燥に強い芋と、ウチワサボテンに似た果樹が育てられているらしい。
サボテンの平たい果肉の先に、丸い果物が生っている。見た目はドラゴンフルーツに似ていた。いや、似た種類の植物なのかもしれない。
「ほっほっほ。儂らは見慣れておりますが、村に新たに来た方々は、最初にここからの眺めに感動してくれますな」
「それはそうでしょう」
「遠くまで見通せますぞ!」
このテーブルマウンテンは他よりも少し高く、そのおかげで山岳地帯を遠くまで見通すことができた。きっと、グランドキャニオンに観光に行った人々は、これと似た感動を味わっているんだろう。
「さて、魔術の実験をしたいということでしたな。これではいかがでしょう?」
「苗木ですか。確かにこれなら実験するのに最適ですね」
村長が案内してくれた先には、畑の隅に植えられていたサボテンの苗木があった。これなら、万が一枯れても被害は最小限で済むし、効果が出れば一目で分かる。
「楽しみです。魔術など、そうそう見れるものではありませぬからな」
「それじゃ、いきますね! 森と平原の精霊よ。緑の眷属よ。その力を以って、若木に力を! 古木に潤いを! 恵みをもたらしたまえ! 強制成長!」
カードを可視化せずに、強制成長を使用する。カードが見えていないと、完全に魔術を使っているようにしか見えないな。
だが、効果は間違いなく発現していた。
「おおお! こ、これはすさまじいですな!」
「主! さすがですぞ!」
村長とワフの歓声が青空に響き渡る。
20センチ程であったサボテンの苗木が、高さ10メートル程に急成長を遂げたのだ。成長が早まるどころか、他のサボテンと比べてもさらに大きい。
さすが神のカード。その効果は予想を遥かに超えていた。




