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136話 村長

「おおい! そっちから引っ張ってくれ!」

「えっさ! ほいさ!」

「馬鹿野郎! そっちから切り始めたら血が溢れるだろうが!」

「解体済みの肉から馬車に載せろ!」


 俺たちの目の前で、巨大なトロールが凄まじい速度で解体されていた。


 30人以上の男たちがトロールに取りつき、作業をしているだろう。


 全員、カグートが連れ帰ってきた村の人間たちであった。自警団員以外にも、狩人や元冒険者も混じっているらしい。


 ここではとりあえずブツ切りにして、馬車で村に運んでから本格的に解体することになっている。村まで運んでしまえば、マンパワーでさらに速く解体できるからだ。


 カグートが戻ってきたのは、今から20分程前。一度村に戻ると言って去ってから、40分程経つ頃だった。


 10台もの馬車に、殺気立った30人以上の男たちが乗ってきた光景は、こちらが思わず武器を構えてしまうほどに迫力があった。肉があると聞いて、興奮していたらしい。


「この度は厄介者の魔獣を倒していただいたばかりか、食料まで回していただき、誠にありがとうございました」

「えーっと?」


 解体班に同行してきた村長が、俺に向かって頭を下げる。


 あれ? 村長の前で、リーダーっぽい雰囲気は出してないんだけどな? どうして俺に声をかけてきた? トビアかゼド爺さんの方がリーダーっぽいだろ?


「あー、俺、ですか?」

「はい」

「なんで?」


 もしかしてカグートか? 彼には、先程の交渉の時にトビアに指示を出した姿を見られている。そこから、実は俺がリーダーだとばれたのだろうか? 事前に、教えられているという可能性はあるだろう。


 しかし、カグート経由の情報ではなかった。


「あなたのお仲間たちが、あなたを気にしているのが分かりますので。それに、あの獣人の少女が主と呼んでおりましたし、多分あなたがこの一行のまとめ役なのではと」


 村長の洞察力の賜物だったらしい。あとはワフの呼び方ね。そりゃあ、バレるわな。


 まあ、別に隠すつもりはないんだよ? ただ、交渉云々の前に、人見知りの俺だとまともな会話も怪しいからさ。後ろに隠れていれたら、ラッキーだなーっと思っていただけだ。


「それに、あの大量の魔獣たちは、あなたが使役なされているのですよね?」


 すでに魔獣たちは紹介済みである。村に行くのであれば隠し通すことなどできないし、教えてしまった方が後々のトラブルも回避できるだろう。


 魔獣を村に入れられないと言われたら、谷の入り口周辺で待機させるつもりだった。しかし、村の人たちは俺の想像以上に逞しく、柔軟であったらしい。


 俺の命令に従うことを確認したら、すぐに受け入れていた。まあ、俺を怒らせたら肉が手に入らなくなるから、拒否する選択肢がなかっただけかもしれんが。


 ただ、最初は無理矢理でも、協力し合って解体を進めて行けば、俺のモンスターたちが穏やかで賢いということはすぐに理解できる。


 今はもうモンスター相手に緊張することもなく、撫でて褒める者まで現れていた。どうやらコボルトの可愛さはオッサンたちにも通じるらしい。


「あなた方は村の大恩人です」

「こ、こっちも、解体を手伝ってもらったので……」

「我々の食料のためですから。しかも、これほど大量に。感謝してもしきれません。村に住みたい方がいるというお話でしたが、全く問題ありません。何人でもどうぞ」

「え? いいんですか?」

「無論です。なに、打算もあります。あれ程の魔獣を倒した方々と縁を結べるのですからね」

「な、なるほど」


 強かな老人だと思ったが、本当に強かだったら俺にそんなことを教えるか? むしろ、隠しておいて利用するんじゃないか?


 だとすると、こっちに気を遣ってくれたのかもしれない。今回の交渉は、食料を盾に移住権を奪い取ったようにも見える。その辺を気に病まないように、俺たちが住むことで村にも得があるのだということにしてくれたんだろう。


「ありがとうござ――」

「オンオンオン!」

「敵襲! 敵襲だ!」


 村長に頭を下げようとしたその時、灰色狼の激しい鳴き声と、ゼド爺さんの叫び声が俺の言葉を遮った。


 慌てて周囲を見回すと、空にいくつかの影が見える。


「ハーピーか!」

「ち、血の匂いを嗅ぎつけられたのかもしれません!」


 そう言えば、ハーピーは意外に嗅覚も優れているんだったな。これは、放っておいたらさらに集まってくるかもしれん。


「村長さん! こっちに!」

「は、はい!」

「ここに隠れていてください。おい! 村長さんを頼むぞ!」

「オフ!」

「このコボルトたちが守ってくれるので、ご安心を」

「ありがとうございます」


 コボルトのたちに任せておけば、村長さんは大丈夫だろう。狙撃弓兵が近付けさせないし、万が一接近されても探検家がいる。薬師なら怪我にも対応可能だ。


 そう考えると、優秀な護衛たちだよな。


「生命循環の蛇は、危険そうな人がいたら回復してやってくれ」

「シャー!」


 生命循環の蛇は、1日に1回だけ、1点分の回復能力を発揮できる。1点というとショボそうだが、それなりの大怪我も治癒できることが分かっている。


 まあ、人間だったらほぼ全回復するわけだからね。


 問題は、全長5メートルの蛇の舌で舐められて驚かないかってことだろう。俺たちは平気だけど、村の男たちは絶対に怖がると思うのだ。その場合は、死なないだけましだと思ってもらうしかない。


 錯乱して攻撃してくるような場合は、生命循環の蛇に頑張って逃げてもらおう。


 他の魔獣たちは、果敢にハーピーと戦っている。ああ、シルバーシープだけは、岩陰でジッとしているが。攻撃力がないのだから、あれは仕方ない。


 結局、トロールのバラシ作業を終えて全ての馬車を送り出すまでに、2回もハーピーの襲撃を受けたのであった。


 大半は逃げ散ったが、何匹かは仕留めている。ワフの電撃の大剣が大活躍だった。


 どうも、電撃攻撃は10分に1度ほどしか放てないようだが、当たれば相手を痺れさせるらしく、ハーピーを地上に落下させて仕留めることが可能なのだ。


「見てください主! あれはワフが仕留めた獲物ですぞ!」

「ちょ、引っ張るなって! ああ! 見ちゃったよ!」


 高所から落下したハーピーの死体、グロすぎる。今日、絶対夢に見そうなんだけど……。


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