135話 カグート
トロールの死骸の前で、こちらに向かってくるという人間たちを待つ。
相手は馬に乗った3人の男たちであった。全員がそれなりに鍛えているのが分かる。この先にある村の冒険者かな?
男たちの目的が分からないのでかなり警戒していたんだが、相手の態度はとりあえず敵対的なものではなかった。
「おおーい! あんたらが、そのデカブツを倒したのかーい?」
こちらが警戒しているのを見越してか、かなり手前で馬の足を止めると、その場からこっちに呼びかけてきたのだ。
ここは、相手の情報を持っているトビアたちに交渉をまかせることにした。俺たちは後ろで見守りつつ、荒事になった場合に即座に対処する役目だ。
「そうだ! 俺たちが倒した!」
質問にトビアが返事をすると、男たちが驚愕の表情で騒めいた。
「ほ、本当か?」
「おいおい。そっちから質問してきたんだろ?」
「す、済まない。そうだったな。それ、どうやって倒したんだ?」
「冒険者が手の内を明かすわけないだろ? まあ、少し罠に嵌めてやっただけだよ」
「そ、そうなのか。凄いな」
そのまま、両者の腹の探り合いが続く。3人の中で、こちらに声をかけてきたカグートという男がリーダーであるらしい。カグートが主導して、トビアと話し合いを進める。
どうやら、向こうもこっちを警戒しているな。考えてみたら、トロールを倒しているのだ。本当だとしたら、俺たちは向こうの想像を遥かに超えて強い可能性もある。
悪人かどうか、見極めているのだろう。
彼らはトロールをずっと監視していたらしく、今回の異変をいち早く察知して偵察に来たようだ。
そうして話が進むと、俺たちの目的地がこの先の村であるという話になった。
そして、トビアが知人の名前を出すと、彼らの態度が目に見えて軟化する。どうやら男たちの同僚であるらしい。彼らは村の自警団だったのだ。
そして、このトロールに数週間も悩まされ続けていた。村に入るには通路が2つあるのだが、その1つがトロールに塞がれてしまい、行商人が村に来なくなってしまったらしい。
しかも、残った1つには山賊がたびたび出没するようになり、村は食糧危機に陥っていた。それこそ、村全体で食料を共有し、限界まで切り詰めているような状況だ。
「そこで、ものは相談なんだが……」
カグートの視線が、トロールに向いた。なるほど、ここには大量の肉があったな。ワフも、その視線の意味に気付いたのだろう。
懇願するような顔で、俺を見上げている。村の状況を聞いて、同情したのだろう。
「主? ダメですか」
「いや、俺もちょうど同じこと考えてたよ。トビア!」
「うん? どうしたんだい?」
「トロールの肉を村に提供してもいいぞ。どうせ俺たちだけじゃ食べきれないし」
「おお! 本当ですか?」
「あ、ああ。ただ、解体をするにもこの巨体だからな」
喜色満面のカグートの圧にちょっとだけ腰が引ける。
「それなら、村から人間を連れてくる! こちらで解体するから、ぜひ肉を譲ってくれ! 高値で買うから!」
「トビア、どう思う?」
「いいんじゃないか? 俺たちに損はないし」
「なら、それでいいかな」
その後、ジェイドがカグートと話し合い、交渉が纏まった。
解体は、村の人間が行う。肉は全部村に。他の素材は俺たちの物だが、欲しい物があれば応相談。
肉の価格はかなり勉強しておいた。相手は食糧難なうえに、魔力を含んだ伝説級の魔獣の肉である。吹っ掛けようと思えばいくらでも吹っ掛けられるだろう。
しかし、俺たちの目的はなんだ? 大金を手に入れることか?
違う。
俺たちの目的は、この先の村に逗留し、できればジェイドやトビア、マリティアを村で受け入れてもらうことだ。
俺の場合は中々村に定住は難しい気もしている。カードの力は目立つからな。
ゼド爺さんやエミルは、本人が希望するなら村に残ってもいいと思うが、確実に俺と一緒にきてくれるだろう。それが確信できる程度には、彼らのことは信頼できている。
まあ、とりあえずトビアたちが村に定住できるように取り計らってもらうのが、最大の目的だ。そこで、今回の取引にそのことを盛り込んでもらうことにした。
肉を格安で譲る代わりに、定住を許可してもらおうと考えたのだ。
とはいえ、カグートの一存でどうにかなる問題でもないので、彼の口から村長にお願いしてもらうことになったのだった。
「あんたらは村の恩人だ。村長も断らんと思う。まあ、朗報を期待していてくれ」
カグートたちが村に戻っている間、俺たちはここでトロールの見張りだ。放っておけば、ハーピーあたりが啄ばみに来るだろうからな。
ワフはすでにコボルトたちに指示して、トロールの毛を刈り始めている。
「うむうむ。これはいい毛でありますよ!」
「ワフちゃん、私にも分けてもらえる? 編み物にちょうど良さそう」
「おお! エミル殿は編み物ができるのですな! ワフと一緒に主に編み物をプレゼントしましょう!」
「わ、私もいいですか? お父さんに、マフラーを編んであげたいんです」
「いいですぞ! では、内側の柔らかい部分がいいでしょうな!」
あっちはワフやトビアたちに任せればいいや。周辺の警戒はゼド爺さんやモンスターたちが張り切ってやってくれている。
「となると、俺は試練とカードの確認だな」
生物即死のドローは、赤の秘石だった。魔力に余裕がある今のうちに使っておいてもいいだろう。
赤の秘石 赤2 C オブジェクト
破壊すると、次に使用する赤の呪文のコストを赤1減らす。
「それで、案の定試練を達成してるな」
・巨獣を一定数撃破1:万能魔力1、カード1枚入手
巨獣撃破か。トロールみたいな大物は、1体倒しただけでも一定数と認められるらしい。まあ、普通の魔獣よりも何倍も強いんだし、それも納得だが。
「で、ルーレットは……なるほど、この辺が巨獣っていう扱いか」
シラー大森林の徘徊者 モンスター:森の巨鬼
緑6 3/3 UC
暴食:相手のモンスターを破壊した場合、一体につき永続的に+1/+1強化される。最大で10/10まで。
こいつは、樹と同じくらいの高さの、二足歩行のモンスターである。一つ目の巨人なのだが、牛のような角と尻尾を持ち、手も蹄のような形状になっている。
巨獣というのは、巨大な魔獣というカテゴリーなのだろう。
「強いけど餌がたくさん必要そうなカードだな」




