132話 ワフと大剣
トビアたちとの簡単な会議の結果、対トロール用の作戦が決まった。
作戦と言っても、そこまで難しくはない。
ペガサスやコボルトたちが囮となってトロールを誘導し、超トラバサミで拘束。その拘束が破られないことを確認した後に総攻撃。そんな流れである。
大きな問題点は3つ。
1つ目はトロールの足の速さ。鈍重そうに見えるが、それでは獲物を捕らえられないだろう。見た目に反して素早く動く恐れもあった。
2つ目は、トロールの頭の良さ。もしトロールの狩りを支えているものが身体能力ではなく、その知能だったら? トロールのイメージに反して狡猾な可能性もあり、その場合はトラバサミを見破られるかもしれない。
3つ目は、超トラバサミでトロールを拘束可能かどうか。想定以上の腕力を持っていたり、気功を使用できた場合は、トラバサミから逃げられてしまう恐れもあった。
1つ目の問題は、足の速いコボルトやペガサスを囮に使うことで対処することにした。コボルトの探検家、コボルトの狙撃弓兵、伝令のペガサスの組み合わせである。
俺たちの中では最も身軽なコボルトたちであれば、いざという時にペガサスに乗って逃げることも可能なのだ。
2つ目の問題は、超トラバサミを隠して設置すればいいだろう。穴を掘って、その底に超トラバサミを設置。そして、穴に土を被せて偽装するのである。
3つ目の問題は、祈るしかない。もし拘束をあっさり抜けられた場合は、魔力を使い切るつもりでごり押しするしかないだろう。
「それじゃあ、まずは穴を掘ろう」
「うむ! 任せておけ!」
「ガオ!」
ここは肉体派たちの出番である。この谷は一本道とは言っても、一直線なわけではない。そこで、大きくうねったS字カーブを決戦の場にすることにした。
曲道を利用して、トロールから身を隠せるからだ。
30分もすれば、底の浅い、直径3メートルほどの穴が完成する。
「このくらいでいいと思うぞ」
「よいのか? もっと深く広く掘れるが?」
まあ、落とし穴を掘りたかったわけではないからな。
超トラバサミのイラストは、巨人族の足をガッチリと咥え込んだ巨大なトラバサミの絵柄である。
これから想像するに、サイズは直径で2メートルほどだろう。トラバサミを隠すだけならこの穴でも十分なはずだ。
「それじゃあいくぞ。超トラバサミ召喚!」
そうして姿を現したのは、巨大なトラバサミだった。だが、サイズ以外は普通である。本当にどこにでもありそうな普通のトラバサミを、大きくしただけの外見だった。
それを見たゼド爺さんが微妙な顔をしている。
「……なあトールよ」
「分かってる。分かってるが……。大丈夫だ」
「うーむ。お主が言うのであれば確かなのであろうが……」
大丈夫だ。間違いなく俺によって召喚された物なのだ。ちゃんと、カードに書かれた通りの効果を発揮してくれるはず――だと思う。
「とりあえず、この穴の上に木の枝と布で蓋をして、土を被せるぞ」
「うむ。そうだな」
それで罠の準備は完了である。あとは、トロールを連れてくるだけだ。まあ、獲物を執念深く追うって話だし、誘導は問題ないだろう。
「それでは、作戦開始でありますな!」
「おう!」
コボルトたちが出発したのを見送り、俺たちは予定通り曲がり角に身を潜める。顔を出せば、罠を設置した場所が見える位置だ。
「さて、試練を達成してるな」
・オブジェクト10召喚:ポイント1
・試練達成100:ポイント1
もう試練100個達成なのか。こんな場合じゃなければ感慨に浸れたのかもしれんが、今はそれどころじゃないのだ。
「で、ドローしたのは……おお! ここでこれを引いたか!」
「主、何を手に入れたのですか?」
「こいつだ」
電撃の大剣 赤2 C オブジェクト
赤2:装備 装備したモンスターは+2/+0強化される。アタックの代わりに、対象に1点ダメージを与えることを選んでもよい。
それは、紫電を纏った大剣が描かれたカードであった。鍔や刀身に赤い幾何学模様が描かれた、派手な剣である。
黒霧の長剣と並ぶ強力な装備品カード。電撃の大剣だった。
+2/+0も強いんだが、1点を飛ばす能力も強い。多分、電撃を飛ばすってことなんだろうな。
「か、かっこいいですな!」
「だなぁ。これ、誰に使ってもらうか……」
「主! 主! ぜひワフに! ワフに下され!」
「え~? ワフ~?」
「な、何ゆえにそんな嫌そうなお顔を!」
「嫌っていうか、ワフが装備できるのか? この巨大な大剣をさ」
「なんの! ワフにかかればこの程度の鉄の塊、なんということもありませぬ! ですから主~! お~ね~が~い~し~ま~す~ぞ~!」
ワフが俺の服の裾を掴んで、何度も引っ張る。オモチャをねだる駄々っ子のようだ。幼女の姿だから、メチャクチャ様になっているな。
まあ、ワフがこれを装備するメリットはある。電撃を飛ばす能力をメインに使わせれば、無理して前衛に出るようなことも減るだろう。こいつ、何故か前に出たがるからな。
しかし、ここでおねだりに負けたような形で大剣を渡すのはいけない。
ねだってお願いを聞いてもらうことが癖になってしまうからな。ちゃんと、メリットがあるからオッケーしたのだと、教えておかねば。
「遠距離から攻撃できる手段は貴重だからな」
「で、ありますな」
「その剣持って闇雲に突っ込むんじゃなくて、ちゃんと俺の指示通りに動くんだぞ?」
「当然であります! ワフは主の忠実な僕でありますからな!」
「あと、使ってもいいけど、ちゃんと装備できたらだぞ?」
「了解であります!」
「持てなかったら、素直に諦めろよ?」
「わかっております!」
「ならいいが」
「トールさん。なんだかんだでワフちゃんに甘いですよね」
なぜかエミルに微笑ましいものを見る目で見られてしまった。
まあ、いい。コボルトたちがトロールを引っ張ってくる前に、大剣を使えるようにしておかねば。
「電撃の大剣、召喚!」
「おお! 実物はもっともっとカッコイイですな!」
ワフが言う通り、召喚された電撃の大剣は非常に存在感があり、頼もしかった。イラストには描かれていない、金属製の鞘まである。剣と同じ、銀色の金属に赤で装飾が施された派手な鞘だ。
「ふおおお! 主! 早く! 早くっ!」
「はいはい。分かってるから」
俺は魔力を支払い、電撃の大剣の装備者をワフに指定してみる。
「どうだ?」
「むむ! これは!」
「ダメだったか?」
だとしたら魔力だけが無駄に消費されたことになってしまうんだが。
「メチャクチャ軽いですぞ! 普通の剣と変わりませぬ!」
ワフが振り回す大剣は、非常に重々しい風切り音を発している。さらに、ワフが手近な岩に大剣を叩き込むと、ドゴンという破砕音とともに岩が砕けた。
どうやら、装備者だけは軽く感じるものの、本来の重量が失われたわけではないらしい。これはメチャクチャ強いんじゃなかろうか?
「ふはは! これがあれば、どんな敵でも相手ではありませぬ!」
まあ、とりあえずは調子に乗りまくりのワフを落ち着かせないとな。このままだと、トロールに突っ込んでいきかねないのだ。
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