133話 トロール登場
電撃の大剣を手にしてテンションが上がり過ぎていたワフをなんとか宥め、俺たちは再び身を潜めた。
それにしても、幼女のワフが自分の倍以上もある大剣を手にしている姿は、非常に違和感があるな。
それと、問題も1つ発生した。ワフが大剣を持ち運べないのだ。ワフは重さを感じていないようだが、大きさまでは変化しない。
腰に下げれば全体を引きずってしまうし、斜めに背負えば先端が地面に引っかかって歩けない。
唯一持ち運べたのは、真横にして背中に括りつける方法だ。だが、周りの邪魔になるし、いざという時に剣を抜くこともできない。
「やっぱ、もっと大きいやつが使う方が良さそうだな」
「お、お待ちくだされ主! なにとぞ! なにとぞ!」
「いや、でも、咄嗟に抜けないんじゃ戦力半減じゃん?」
「うぬぬ~」
魔力も勿体ないから今回はこのままでいいけど、トロールを倒したら大剣士あたりに付け替えよう。
そう思っていたら、ワフが何やらゴソゴソとやっている。そして、面白い方法を編み出したのであった。
「これならいけますぞ!」
「なるほど」
ワフが腰に下げている袋から、大剣の柄だけがニュッと飛び出している。とてもではないが大剣本体が入る大きさではないが――。
「拡張袋を使ったのか」
「そうであります。これならば、ワフでも大剣を腰に下げられますぞ!」
「まあ、その袋は使ってないし、いいか」
ワフが使った拡張袋は、領主の屋敷で殺した兵士の死体を入れていた袋だ。人の死体を入れた袋に食材や日用品を入れる気にもならず、余らせている状態だった。
ああ、中に入っていた死体はすでにミミックトレントの養分になってもらったので、もう入ってはいない。
元々は米袋くらいの大きさなんだが、腰に下げられるサイズになるように丸めたようだ。入り口さえ空いていれば、内部空間に問題はないようだった。やはり、不思議な袋だな。
「しばらくはそれで行ってみろ」
「了解であります!」
大剣の所持が認められ、ワフが満面の笑みを浮かべる。よほど嬉しいらしく、尻尾が凄まじい勢いで左右に振られていた。
「くふふ。トロールめ、この剣でビリビリにしてやりますぞ」
「前には出るんじゃないぞ?」
「分かっております! 主は心配性でありますなぁ」
だって、ワフの態度を見ていると全然安心できないんですもの。
「と、ドローを確認してなかった」
電撃の大剣のドローは、灰色狼であった。
現在、万能魔力12、緑魔力2だ。そして、直近で使う可能性があるカードは、比翼のワイバーン:黄5、ファイアホイール:赤4、生命回復:緑3だろう。万能魔力が2余る計算だ。
「よし、使えるな」
トロールへの攻撃要員として、召喚しておこう。そう考えた直後だった。
「主! きましたぞ!」
「ついにか!」
ワフの鋭い聴覚が、トロールの足音を捉えたらしい。十秒もすると、俺にも同じ振動音が聞こえてくる。
それから程なくすると、足元が微かに揺れはじめた。
「見えた! 3匹とも無事だな!」
「誘導も上手くいっているようですな!」
コボルト2匹を背中に乗せたペガサスが、超低空飛行で谷間を抜けてくる。
その後ろを、巨大な二足歩行の生物が走っていた。その身長は10メートルを遥かに超え、20メートル近い。
土色の皮膚に、赤い瞳。全身を覆うこげ茶色の長い毛には苔でも生えているのか、ところどころが緑色だ。
顔は、ゴリラに鋭い牙を生やして、鼻を豚の物に取り換えたような感じだろうか。
俺が最初に想像したのは、茶色いイエティだった。
あれがトロールだろう。
トロールとペガサスの距離は、非常に近い。見ているこちらがハラハラするほどだ。
どうやらあえて飛行速度を抑えることで、トロールに「もう少しで捕まえられる」と思わせているらしい。
トロールはまんまとその作戦に引っかかり、最早ペガサスしか見えていないような状況だった。
頭はあまり良くなさそうだ。走る速度もそれほど速くはないな。いや、そう見えるだけ、一歩の歩幅が相当大きいか。ペガサスだからこそ逃げきれているんだろう。
コボルトたちも普通に逃げては捕まるからこそ、ペガサスに乗っているんだろうしな。
「ウガオオオオ!」
「ヒヒィィン!」
危なっ! もう少しでトロールの指が当たるところだったぞ! しかし、ペガサスは逃げることもせず、むしろ挑発するようにトロールを振り返ると、これ見よがしに尻尾を振ってみせる。ペガサスがあれほどイケイケの性格だったとは……。
さらにコボルトの狙撃弓兵が矢を放って、トロールを挑発していた。
「ウグオオオオ!」
トロールは完全にお冠だ。
トロールは怒りと食欲のままに、猛ダッシュで谷を突き進み――。
「グガオオオォ?」
超トラバサミを踏み抜いた。その丸太のような足に、金属の歯ががっちりと噛みつき、動きを封じている。必死に足を抜こうとしているようだが、動かないらしい。
トロールほどの巨体であれば、罠ごと持ち上げられそうなものだが、それも無理なようだ。さすがカードのアイテム。不思議パワーが発揮されているらしい。
「やった! かかりましたぞ!」
「まてワフ! まだ様子見だ!」
「お、おお? 申し訳ありませぬ。思わず」
嬉しさの余り飛び出していきそうになったワフを引き留める。こいつ、俺が襟首掴んで止めてなかったら、一人で突撃してただろ。
「あと、お前は遠距離攻撃担当だからな」
「も、もちろん忘れておりませぬよ?」
忘れてたな。まあ、いい。
「グアガガ! グガァ!」
「うむ。トロールは逃げ出せぬようだな」
「よーし! だったら、あとは奴を倒すだけだ! みんな、いくぞ!」




