129話 出発から一週間
砦を出発して一週間。
俺たちは樹海を抜け、山間にある谷間へと差し掛かっていた。現在はその入り口で、休憩をとっている。
この谷を抜ければ目的の村まであと少しらしいので、今日中には到着できるかもしれない。
因みに、この一週間で俺のライフバリアは18まで回復し、いくつか試練を達成できている。
・クレナクレムで30日過ごす:万能魔力1
・鱗種を一定数撃破4:万能魔力1、カード2枚入手
・ハーピーを一定数撃破1:万能魔力1、カード1枚入手
クレナクレムで30日というのは、出発翌日には達成していたな。
クレナクレムでの日々を思い出す。楽しいこともあったし、死にかけたこともあった。それが、たった30日の間に起きたこととは、自分でも信じられない。
こっちにきてまだ一ヶ月しか経っていないことが信じられない密度だった。それでも、後悔はない。ゲームだけをしながら惰性で生きていた頃に比べ、圧倒的に生きている実感がある。
地球にいた頃なら、ある日突然死んでも俺は後悔しなかったと思う。だって、後悔するほど充実した人生じゃなかったから。
でも、今はきっと後悔できる。それが悪いことだという人もいるかもしれないが、俺は逆だった。後悔できるほど、今が楽しいということだからだ。
「主? 難しい顔をして、どうされたのですか?」
「……なんでもない」
「そうでありますか? 何か問題があれば、ワフをお頼りくだされ! どんな悩みも、ワフが全力で解決してみせますぞ!」
「はいはい。その時は頼むぞ」
「任せてくだされ!」
ワフの能天気な笑顔を見て、感傷的な気分が全部吹っ飛んだ。良くも悪くもね。でも、それがワフの魅力だろう。
ゼド爺さんだって、エミルだっている。頼もしい仲間たちだ。ああ、これも地球にいた頃とは全然違うな。人見知りだった俺はどこにいったんだろう?
まだトビアやジェイド相手に緊張することはあるけど、それでも信じられないほどに他人とスムーズに会話できるようになった。
何度も恐ろしい目にあって、他の人に感じる恐怖が相対的に大したものじゃなくなったのかもしれないが。まあ、まだ全く知らない人と会話するのはちょっと嫌だけどね。
「おっと、今は成果の確認タイムだった」
いかんいかん。新しい土地に来て、不安になってるらしい。
「次だ次」
モンスター一定数撃破の試練は、久々の達成だ。感覚的には、100匹撃破だろうか?
鱗種、ハーピーはそれぞれ、道中で倒した獲物だ。鱗種は蛇や蜥蜴全般なので、そう珍しくはない。
ただ、初見のハーピーはかなり悍ましい姿をしていたのだ。
ファンタジー作品に登場する見目麗しい乙女タイプではなく、醜い鬼のような顔を持った、手が羽に変化した翼人だったのだ。
しかも、雄。手足を覆う羽毛のおかげで色々と隠れていたからまだマシだったが、それがなかったら悍ましさ倍増だったろう。
いや、メスだったらどうというわけじゃないけど。試練達成で手にいれたカードが美しいイラストだったので、その落差でなんとも言えない気持ちになった。
入手したハーピーカードは、目から血の涙を流した、漆黒の翼の女性型ハーピーである。
ハーピー・バーサーカー・デモニスト モンスター:ハーピー
黄3黒3 4/1 SR
飛行、先制
憤怒:この1時間に貴方のコントロールするモンスターが戦闘で破壊されていた場合、これから1時間のあいだ、+X/+0強化を受ける。Xは破壊されたモンスターの数に等しい。
このモンスターを生贄に捧げる。全ての飛行を持ったモンスターに、このモンスターの攻撃力分のダメージを与える。
中々ピーキーな能力を持ったモンスターだった。
設定的には、仲間を天使族に虐殺され、闇落ちしたハーピーの戦士長だったはずだ。
まあ、ゲーム内のストーリー的には、それは実はゴブリンの策略で、本当は天使は悪くなかったとかいう物語だったはずだ。こっちの世界でどれくらい意味があるかは分からないが。
また、試練で入手できるカードでも、SRが入っていることが確認できたのも大きい。今後、さらに試練達成が楽しみになったのである。
ああ、鱗種一定撃破の試練でも、そこそこ有用なカードを手に入れることができていた。
樹上のカメレオン モンスター:鱗種
緑3 1/2 UC
防空、擬態
タイダル・イグアナ モンスター:鱗種
青1 1/2 C
緑色の巨大なカメレオンと、波に乗って砂浜に押し寄せる青いイグアナのカードだ。
カメレオンはそれなりに強い。長い舌で空も攻撃できるし、擬態も持っている。海を泳ぐこのイグアナは今は使えないが、今後青をデッキに組みこむことになったら、候補にはなるだろう。
また、当然ながらカードも何回か使用している。岩甲殻の大犀を召喚した後に使用したのは、生命回復である。
実は、道中でコボルトの群れに襲われ、マリティアが大怪我を負ってしまったのだ。
コボルトが破れかぶれで投げた槍が、偶然マリティアに直撃したのである。胸に深々と突き刺さった槍を見て、ポーションを使うまでの数秒さえ危険と判断した俺は、咄嗟に生命回復を使っていた。
あれは本気で心臓が止まるかと思ったね。今度は雑魚相手でも、決して気を抜かないようにしないといけないだろう。
その時のドローである生命循環の蛇。その蛇のドローであるコボルトの薬師を、連日召喚しておいた。
生命循環の蛇 モンスター:爬虫類
緑3 2/1 UC
毎日1回、対象のダメージを1回復する。
コボルトの薬師 モンスター:コボルト
緑2 0/1 UC
毎日、コボルトポーションを生み出す。
※コボルトポーション オブジェクト 破壊すると対象のモンスターのダメージを1回復
生命回復を使ってから連続で回復能力を持ったモンスターがきた。運命的なものを感じてしまうが、まあ偶然だろう。
現在の手札は超トラバサミ、比翼のワイバーン、生命回復、ファイアホイール、風霊の宝玉珠、強制成長である。
強制成長 緑2 スペル
詠唱、対象の植物を+0/+3し、再生(緑2)、防衛を与える
風霊の宝玉珠 黄2 UC オブジェクト
毎日、黄魔力を2生み出す。2日後破壊される。
強制成長、風霊の宝玉珠は使い所がなかなか難しいな。ファイアホイールは範囲攻撃の火魔術なので、樹海では使えなかったんだが、荒地が続くこの辺りなら使う場面がありそうだ。
今や緑魔力を毎日3も使えるので、万能魔力はかなり貯めることができた。なんと、13もある。手札使いたい放題なんだが、中々使うタイミングがね……。
比翼のワイバーンは、3/2のワイバーンを2体召喚するカードだ。強いんだが、ワイバーンたちの食事のことを考えると、無駄に召喚するのも躊躇われるのである。
今はまだなんとかなっているが、獲物が豊富な樹海を抜けたことで、餌の確保がどうなるかも分からなかった。
現状、それなりの大所帯になってきている。
俺、ワフ、ゼド爺さん、エミル、トビア、ジェイド、マリティア。そこに、虎人の大剣士、蔦鼠、コボルトの探検家、コボルトの狙撃弓兵、バルツの森の見張役、汚物処理のスライム、生命循環の蛇、コボルトの薬師という肉食系モンスターが加わっているのだ。
伝令のペガサス、シルバーシープ、岩甲殻の大犀は草食だし、ポルターガイストメイドは俺たちの魔力を少し吸わせるだけで良いので簡単なんだけどね。
数が増えたモンスターたちを眺めていると、先行偵察に出ていたトビア、ジェイド、メイドさん、探検家の索敵班が戻ってくるのが見えた。
「おおい、どうだった?」
「トールさん。ちょっとまずい状況だ」
「まずい?」
「ああ。谷の途中に、巨大な魔獣が陣取っている。あれをどうにかしなきゃ、先に進めない」
どうやら、そう簡単には目的地にたどり着くことはできないらしかった。
しばらくは4日に1回更新とさせていただきます。
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