128話 砦を後に
「じゃあ、この砦や大精霊の座、暗黒精霊の鎮め祠のことは任せたぞ?」
「ウモ!」
「ウモモ!」
俺の言葉に、ミノタウロスたちが自信ありげな態度で頷く。特に牛人の頭領は、任せとけという感じで胸をドンと叩いていた。
まあ、その自信も分からなくもない。昨日、牛人の頭領には森の精霊の加護を使用してある。今や3/5の大魔獣だ。
しかも擬態も得ている。そこらの魔獣にはそうそう負けないし、逃げ足も速くなっているだろう。頭領がいればワーカーも補充できるから、より継戦能力が上がったのだ。
また、森の精霊の加護をドローするきっかけになった閃光蛍も、この砦に残していくことにした。
空から偵察もできるうえに、光り方を工夫すれば離れた場所に信号を送ることもできる。樹海で、ミノタウロスたちが連絡を取り合うにはこのモンスターが非常に有用だった。
「じゃあ、行こう」
「はいですぞ!」
目指すのは、トビアたちが目指すという隠れ村だ。樹海を踏破した先にあるらしい。それなりの日数がかかるだろう。
体力に自信はないが、俺が足を引っ張るわけにはいかないのだ。
ああ、今のところ、俺はペガサスに跨ってはいない。荷物を色々と背負ってもらっているからだ。特に大きい荷物が、鞍の上に丁寧に括りつけられた小さめの木樽である。
実はこの中には、汚物処理のスライムが入っていた。移動速度が遅いため、連れていくかどうか迷ったのだが、エミルとゼド爺さんが絶対に連れていくべきだと主張したのである。他の面々も、消極的賛成であるらしい。
どうやら、清潔で無臭で掃除いらずのトイレというものは、異世界の人間たちも魅了したようだ。このスライムさえいれば簡単にトイレを作れると聞いたエミルらによって、最重要戦略物資のような扱いになっていた。
そうやって進む道中は、想像以上に安全なものだった。
コボルトやバルツビーストたちだけではなく、冒険者であるトビアやジェイドもいるのだ。索敵に野営はお手の物である。
結局、そのまま数日はほとんど問題なく進めてしまった。
一番の問題は、俺の歩みの遅さが一行の足を引っ張っているということだろう。なにせ、基礎体力が違う。まあ、マリティアは俺よりもさらに遅かったが。
ただ、マリティアはペガサスの背に乗ってもらったので、結局俺が一番遅かった。すまんみんな。
途中で、森の精霊の加護を使った時にドローした大地の魔力を使い、岩甲殻の大犀を召喚してみたのだが、その背中に乗ることは無理だった。
馬の乗り心地の良さを改めて思い知ったね。犀の背の上は小刻みな上下運動と凄まじい振動に襲われるので、それこそロデオマシーンに乗っているような状態なのだ。速度をあげれば、もう乗ってなどいられない。
痔と腰痛にならなかったのは幸いだったろう。ライフバリアの恩恵か?
ドローは、生命回復、ファイアホイールだった。生命回復が2枚になったな。
さらに翌日、俺が召喚したのは黒霧の長剣だ。
黒霧の長剣 黒4 C オブジェクト
黒2:装備 装備したモンスターは+2/+0強化される。戦闘時、対象の持つ天光、聖印、霊体スキルを無効化する。
天使などの白モンスターが主に備えているスキルを無効化できるが、こっちの世界でどこまで有効なのかはわからない。ゴーストはいるっぽいが、天使は神話上の存在とされているようなのだ。
天光:種族:ヴァンパイア、デーモン、アンデッド、邪神、魔人へのダメージを倍加する
聖印:種族:ヴァンパイア、デーモン、アンデッド、邪神、魔人からのダメージを無効化
霊体:バトル時、霊体、聖印、天光スキルを持つクリーチャーからしかダメージを与えられない
こんな感じだった。まあ、幽霊を斬れるようになっただけでも十分だろう。
黒霧の長剣は、元となったMMMでは正直雑魚カードの1種である。コストは微妙に重いし、それでいて強化はそこそこ。相手が天使や霊体系のモンスターを使うデッキなら活躍する目もあるが、上位互換のカードが存在してしまっている。
だが、こっちの世界では十分に名剣だった。+2/+0というのは、そこらの一般市民が中級魔獣を倒せるくらいの強化だからな。
現在、3/4か4/4程度の強さを持っていると思われるゼド爺さんが使えば、大型の魔獣でさえ屠れるだろう。
ただ、分からない点が装備という項目だ。ゲーム上ではそのコストを支払わなければ装備できなかったが、こっちの世界なら手に持てばそれで使えてしまう。装備コストを支払う必要などあるか?
そう思っていたが、コストを支払わないと手に持つことができなかった。
さらに翌日、黒魔力が回復するのを待って実験してみると、コストを払って装備する人物を指定する必要があるらしかった。
つまり、装備者に指定したゼド爺さんの専用装備になったということだ。他の人間が使うなら、再びコストを支払う必要がある。
味方も使えない代わりに、敵に奪われる心配が必要ないのはよかった。後、それは俺でも同じだった。そもそも、プレイヤーがオブジェクトを装備することはルール上できないからな、そこはこっちの世界でも適用されているらしい。持つことさえできないのだ。
「ふはは! これは良い剣だ!」
ゼド爺さんが木の枝などで試し切りをしながら、嬉しそうに高笑いをしている。その切れ味に、テンションが上がっているらしい。持ち主を指定するという点も名剣っぽくて、気に入ったようだった。
「少々造作は気になるがな!」
元騎士であるゼド爺さんにとって、髑髏のエンブレムがあしらわれた全体が黒いこの剣は、少々邪悪に見えるのだろう。
そこは我慢してくれ。呪いなんかはないからね。まあ、見た目は、装備すると血に飢えて人に襲いかかりそうな姿をしているが。
「くくく。試し切りをしたいところであるな。コボルトあたりが出ないものか……」
あれ? 血に飢え……?
次回は20日更新です




