127話 出立準備
夜明け前。
俺は軽く揺すられる感覚で目覚めた。
「ん……?」
薄らと目を開ける。
「ウア」
「うおぉ?」
「ウア?」
目の前に、腹を血で真っ赤に染めた、血色の悪い女性がいた。眼球の存在しない虚ろな眼窩で、俺のベッドを覗き込んでいる。
思ず目を見開き、飛び起きた。
そして、思い出す。
「ああ……ポルターガイストメイドか」
「ウアー」
寝ぼけていたせいで、一瞬彼女のことを忘れていた。寝る前に召喚して、偵察をお願いしていたんだった。
にしても、暗い部屋の中に幽霊が立っている姿は、中々迫力があるな。正直、これを目撃したワフあたりがおねしょしないか心配だぜ。
「何か成果はあったか?」
「ウア」
「お、そうか」
嬉しそうに頷くメイドさんに、色々と質問をしていく。その結果、確かに領主の部下が樹海に入り込んでいるようだった。
その数は四〇名ほど。
メイドさん曰く、半数は装備がバラバラであったそうなので、半分が兵士、半分が冒険者なのだろう。
一直線に、北を目指しているらしい。ただ、その進行方向はこの砦からややずれているようだ。多分、ワフを捕まえた場所をまずは目指し、そこから捜索範囲を広げていくつもりなのだろう。
樹海の魔獣を警戒して行軍速度がそこまで早くはなさそうというのが、せめてもの救いだった。
町で樹海は相当恐れられているらしく、リーダーの騎士がどれだけ脅そうと、兵士たちの足は重いらしい。
「まだ時間はあるか……」
「ウア」
「まあ、とりあえずお前の紹介だな。受け入れてもらえればいいが」
「ウアー?」
その後、起きてきた仲間たちにポルターガイストメイドを引き合わせた。これが意外なことに、エミルやマリティアは全く問題ないようだった。
俺たちと過ごすことで人外に対する耐性がついたらしい。血の付いたメイド服に関しても、そこまで気にならないようだ。まあ、こっちの世界では普通に動物を捌いたりするし、荒事も身近だからな。
血を見ただけで卒倒するような女性、上流階級にしかいないのかもしれない。
逆に、冒険者であるトビアやジェイドは、メイドさんが怖いようだった。青い顔でメイドさんを見つめている。
「奴らを倒すには、気か魔術がないとダメなんだ。普通の冒険者は、出会ったら逃げるしかできない」
「逃げ場がなければ、死を覚悟するしかないんだよ」
どうも、霊体系の魔獣は非常に強いらしく、冒険者にとっては死神のような存在であるらしい。
ああ、ゼド爺さんも問題なかった。やはり、俺の配下ということで、危険ではないと理解できているんだろう。
俺たちはメイドさんの偵察結果を基に、今日の行動を決めていく。
基本は旅立ちの準備だ。移動中の食料の確保や、ここに残していくミノタウロスたちのための備蓄や道具の準備である。
敵の監視はメイドさんに任せて、俺たちは砦の周辺に散った。
ああ、因みにメイドさんは日中でも行動することができるようだ。力は落ちるものの、日光を浴びたら消滅するといったことはない。偵察は問題なくこなせるだろう。
「さて、今日はもう召喚の魔力が厳しいし、俺も魔獣狩りだな。コボルトたちと一緒に頑張りますか」
「オフ!」
「オフフ!」
ポルターガイストメイドを召喚した際のドローは、閃光蛍という白のモンスターカードだった。魔力を消費して、敵の目を引き付ける能力がある。飛行も持っているし、こいつも使いようによっては役立ってくれるだろう。
閃光蛍 モンスター:魔蟲
白2 1/1 C
飛行、白1:対象のアタック対象を自分に変更する
「デッキを回したいし、明日か明後日に召喚してもいいかもな」
そして翌日。まだ敵の索敵はこの辺まで及んでいないということで、今日も準備を続けることにした。
すでにミノタウロス・ワーカーは3体となり、砦の周辺に柵を設置する作業で大活躍している。ワーカーというだけあって、土木作業などが非常に得意であるらしい。柵を作るのもかなりの腕前だ。
しかもワーカーたちには戦闘力がないわけではない。初期装備のハルバードを扱う腕は、ゼド爺さん曰く「一般兵士よりは少し上」といったレベルにはあるらしい。また、町で手に入れてきた弓を使わせても、そこそこの命中率で射ることができている。
戦士として高い技量があるわけではないが、普通の人間兵士よりはかなり強い。そんなレベルなのだろう。それに、ミノタウロス特有の高い生命力もあるし、戦力としては申し分ない。
そんなミノタウロスたちと作ったのが、石を砕き、削って作った大きな蓋である。これは、聖なる泉に被せるつもりだった。
ストーンフォートレスが、一時的に他の勢力に奪われるのは構わない。奪還するのは、石兵とミノタウロスがいれば問題ないだろうしな。
特に石兵は厄介だ。何せ、砦の中に湧き出るのである。しかも、自爆能力もある。その石兵を嫌がって外に出れば、ミノタウロスとガチンコの殴り合いをせねばならない。
どちらにせよ、砦を攻め切るのは至難の業だろう。
ただ、聖なる泉を勝手に利用されるのは少々まずい。敵が減らないし、この泉のことが噂になれば、狙う勢力も出るかもしれなかった。まあ、ゼド爺さんの受け売りだが。
そこで、石の蓋である。普段はそれで泉を隠しておき、ミノタウロスたちが利用するときは蓋をずらすのだ。蓋の守護は、木に擬態したミミックトレントに任せるつもりである
よほどの不運がない限り、敵に発見されることはないだろう。
ここに残すのは、オルタの牛人の頭領とその配下のミノタウロス・ワーカーたち、ミミックトレント、バルツビースト1匹、石兵だ。この戦力で、土地三か所を見回ってもらうつもりである。
砦を拠点とするが、いざとなれば樹海に身を潜めれば、全滅することはないだろう。リーダーは牛人の頭領とし、石兵などへの命令権も渡すつもりだ。
「この分なら明日か明後日には、出発できそうだな」




