126話 黒メイドさん
オルタの牛人の頭領を召喚した数時間後。
「日付が変わったな」
「次は何を召喚するのでありますか?」
俺とワフ以外はすでに寝入っているが、俺たちは召喚を行なうために砦の外にいた。
別にワフがいなくてもいいんだけど、従者として見届けるとか言いだしたのだ。まあ、昼間にペガサスの上で居眠りをしたせいで、眠くないんだろう。
「大精霊の座のおかげで、万能魔力が2もゲットできるようになった。緑魔力も3あるし……。どっちを使うかな」
候補は2つ。バルツの森の見張役と、岩甲殻の大犀だ。1枚で2匹を召喚できる見張役か、3/3で貫通能力を持った大犀か。
「ワフとしては、こちらを推しますぞ!」
「そのこころは?」
「強そうなのであります!」
ワフは大犀に一票であるらしい。
「うーむ……。今日はこっちにしておこう」
「な、何故に!」
俺が選択したのは、バルツの森の見張役だった。
バルツの森の見張役 モンスター:獣
緑3 2/2 UC
召喚時、2/2の獣モンスターを1体生み出す。
別に、ワフをからかうために逆を選択したわけじゃないぞ? 緑魔力だけで召喚できるのがいいのだ。万能魔力を温存できる。
「バルツの森の見張役、召喚!」
「ガオ!」
「ガオ!」
久々のバルツビーストたちである。羊に似た角を持った、狼に似た獣。やはりその頼りがいのある姿を見ると、安心するな。この世界に来たばかりの頃から、ずっとお世話になっているからだろうか?
「よろしくお願いしますぞ!」
「ガオ!」
ワフはバルツビーストたちと早速じゃれ合っている。犀でもバルツビーストでも良かったのか? まあ、そういう奴だよね。
「で、ドローはこれか」
引いたカードはポルターガイストメイド。早い話、幽霊のメイドさんだ。
ポルターガイストメイド モンスター:死霊
黒3 1/1 C
飛行、憤怒(貴方のコントロールするモンスターが相手に戦闘で破壊されていた場合、10分間+X/+0強化を受ける。Xは破壊されたモンスターの数に等しい)
「こいつ、どうしようかな……」
飛行も持っているし、幽霊なら姿を隠すこともできるだろう。偵察や奇襲にもってこいの戦力である。
魔力もある。黒の魔力が1余っているので、むしろ使いたいほどなのだ。
「でも、イラストがな~」
俺が悩む最大の要因は、そのカードに描かれたイラストであった。
メチャクチャ恐ろしい姿をしているのだ。
基本は、青白い、半透明の血色の悪い少女である。だが、当然ながらそれだけではない。
ごく普通のワークスメイドの着る地味なお仕着せを身に付けているが、その腹には真っ赤な血痕がこびりついている。
死因なのか、人の返り血なのか分からんが、それだけでも十分ホラーだ。だが、真に恐ろしいのはその顔だった。まるで激怒する山姥のような凄まじい形相なのだ。
頬はこけ、本来目がある部分には暗い穴が穿たれている。限界以上に開かれた口からは、絶叫が放たれていることが確信できた。
このカードをデッキに組みこんだ時にはその有用性にしか目がいっていなかったが、改めてイラストを見ると確実に悪霊の類だ。
今までのカードを考えれば、俺に完全服従であることは間違いない。間違いないんだが、それでも躊躇する程にイラストが不気味だった。
だが、今は優秀な斥候が喉から手が出るほど欲しい。
「よし、こいつを召喚しよう!」
「おお? もしかして、もう1人喚ぶのですかな?」
「そうだ。少し離れてろ。というか、後ろ向いてた方がいいかもしれんぞ」
「??」
召喚すればどうせ見ることになるし、いいか。
「召喚、ポルターガイストメイド!」
「ウアア……」
黒い魔法陣から幽霊が浮かび上がる光景はやはりホラーだぜ。ただ、その姿は想像よりもマシであった。
確かに服には血の痕があるし、半透明だし、幽霊そのものである。眼球もなく、目のあるはずの場所に黒い穴が開いているのも同じだ。しかし、カードのように狂乱している様子はなく、どちらかと言えば穏やかな表情である。
「えーっと、よろしく頼むな」
「ウア……」
ポルターガイストメイドはニコリと微笑むと、丁寧にお辞儀をした。よかった、ちゃんと理性がある。
「ワフ、どうだ?」
「ふおおお! ゴーストタイプのモンスターさんでありますな! これは頼もしい! メイド殿よろしくお願いしますぞ!」
俺が想像したような、怯える様子は一切なかった。メイドに突進して抱きつこうとして、向こう側に突き抜けてしまい、キャッキャと笑っている。
ワフ的にカードのモンスターは仲間という括りに入るらしいな。秒で受け入れていた。
「さて、メイドさんや。1つ質問いいか?」
「ウア?」
「食事なんだが、幽霊って何を食べるんだ?」
「ウア」
俺が質問すると、ポルターガイストメイドは手の平をワフに向けた。数秒後、ワフから僅かに漏れ出した青い光が、ポルターガイストメイドに吸い込まれるのが見える。
「お、おい? 何をしたんだ? ワフ、大丈夫か?」
「どうやらワフの魔力を吸収したようですな。大丈夫であります。この程度なら、5分もかからず回復しますぞ。メイド殿、こんなちょっとでいいのでありますか?」
「ウア」
ワフの問いかけに、メイドは腹をパンパン叩くジェスチャーをする。お腹いっぱいということらしい。
ワフは全く疲れていないように見える。どうも、普段から漏れ出ているような微量な魔力で済んだようだ。ゲーム的に言うなら、MP1とかそんなものであるらしい。
「それくらいなら問題ないか」
「そうでありますな」
ただ、ゴーストタイプが増えすぎると、大変そうではあるな。そこは気を付けないといけないだろう。
MMMの中には、ゴーストを大量に召喚するようなカードも存在している。それこそ、100匹だろうが200匹だろうが、魔力が払えるなら喚びだせるだろう。
「まだ手に入ってもいないカードのことを心配しても仕方ないか」
それよりも今は、今後のことを考えないとね。
「とりあえずメイドさん。このまま偵察に出てくれるか? 樹海に、領主の部下が入り込んでいるかどうか、確認してきてくれ」
「ウア……」
「ただ、夜明け前には戻ってきてほしい。大丈夫か?」
「ウア」
メイドさんは自信ありげに頷くと、夜空へと飛び出していった。想像以上に速く飛べるらしい。あの分なら、色々と情報を持ち帰ってくれるだろう。




