123話 大精霊
コボルトたちに連れられて向かった先には、不思議な光景が広がっていた。
まず目に入るのは、大きな樹だ。周囲の木と似た、樫っぽい特徴を持った種類なのだが、その威圧感が全く違う。
高さは、周囲の木よりも少し高い程度だろう。しかし、幹は数倍の太さがあった。より太く、ゴツゴツとした幹は、過ごした時の違いを感じさせる。
多分、樹齢が何倍も違うのだろう。それこそ、樹齢1000年超えとかでも驚かない。
しかも、この古木が目を引く理由は、大きさだけではなかった。
「あれは水晶か?」
「ほえー……。摩訶不思議な姿でありますな」
まるで蛸の化け物のような巨大な古木の根の内側には、乳白色の水晶が抱き込まれていた。
これまた、地球では絶対に見られない光景だろう。
異世界であるクレナクレムでは珍しくないのかと思ったが、ワフが目を見開いている。これは、こっちでもそうそう見られる光景ではないらしい。
「なんと美しい……。感動でありますぞ!」
ワフが、古木の神秘的な姿に魅了されたように、フラフラと近づいていく。
その時だった。
「オフ!」
「オフオフ!」
何かを警戒するように、コボルトたちが鳴き声を上げた。
直後、コボルトたちが身構え、俺も遅れて槍を構えた。
「ワフ! 戻ってこい!」
「は、はい!」
それが現れたのは唐突であった。突然、虚空から滲み出るかのように、出現したのだ。
「ヴオアアアア……」
「なんだこいつ……。人、じゃないよな?」
地面から二メートルほどの宙に浮かぶそいつは、漆黒の闇に身を包んだ、人型のナニかだった。
「多分、精霊の類でありますぞ! ですが、これは……」
なるほど、精霊か。確かに、ファンタジーRPGなんかで登場する、人型の精霊っぽいかもしれない。とすると、闇の精霊とかかな? いや、この黒いオーラ、見覚えがあるね。
「もしかして、混沌憑きか?」
「そうですぞ!」
精霊にまで感染するのかよ!
「ブゥオアアアアア!」
「やべ!」
完全に殺る気じゃねーか!
精霊といえば、この世界に来たばかりの時に戦った、岩猪のガルフ=ナザと同類ということだ。魔力を使った攻撃でなくては倒せない厄介な性質を持っている。しかも狂暴性が増し、能力が強化される混沌憑き状態。
対してこちらは、俺、ワフ、コボルト×2、ペガサスという布陣だ。正直、戦力が全く足りていなかった。
「ワフ! ペガサスに乗れ! 逃げるぞ!」
「了解であります!」
ワフがペガサスの鞍に登るために駆け出す。だが、混沌憑き相手では簡単に逃走を許してくれはしないだろう。
ライフバリアがある俺が精霊を引き付けて、時間を稼ぐ!
「どりゃああああ!」
「ヴア……」
「え?」
なんか、普通に当たったんだけど。しかも、叫んでいるものの、こっちに攻撃をしてくる気配がない。
「はぁ!」
「ヴ……」
やはり精霊に動きはなかった。なんだ? いや、違う!
「ヴアッ……!」
「うわ!」
何もしてこないわけじゃなかった。ゆっくりと振り上げた腕を、ぎこちない様子で振り下ろしてきた。だが、その動きは非常に遅く、俺でも簡単に躱すことができる。
やはり敵か……。だが、何故か動きが鈍いようだ。これはチャンスである。
「総攻撃に切り替えだ! 皆でこいつを攻撃しろ!」
「了解であります!」
「オフ!」
実のところ、コボルトたちは僅かながら気功が使えた。ペガサスもだ。どうやらカードで召喚された魔獣たちは、その技能を大なり小なり持っているらしい。
ワフも、森の精霊の加護のおかげでやはり気功が使える。精霊相手でもダメージが通るはずだった。
「ちょりゃああ!」
「オフ!」
「ヒヒィン!」
むしろこの面子の中で精霊に対する有効打を持たないのは俺だけだ。
「いや、このカードを使えば……」
魔力は足りる。一瞬、温存しようかとも思ったが、相手は混沌憑きだ。確実に倒すことを優先するべきだった。
「皆! 離れろ! ラーヴァ・ショット!」
ラーヴァ・ショット 赤2 C スペル
対象に2点ダメージを与え、10分間アタックを不可能にする。
ワフたちが離れたと同時に精霊を飲み込んだのは、俺が放った溶岩の弾丸であった。ドラム缶サイズの溶岩が、宙に浮かんだ精霊に直撃する。
「ヴアアアアアアアアアアアア!」
効いているらしい。精霊でも溶岩は熱いのか? それとも、魔術だから?
疑問に思う俺の前で、精霊の姿が青白い光に包まれ、砂のようにサラサラと崩れ落ちていくのが見えた。どうやら仕留めたらしい。
「主、やりましたぞ!」
「いや、こんなあっさり……?」
「ふふん。ワフの迫力に恐れをなして、動けなかったようですな!」
「ああ、そうね」
「ワフの勝利であります!」
まあ、絶対に違うだろうけど、勝ったんならいいや。それよりも、バインダーが光っている。
開いてみると案の定、試練を達成できていた。しかも、それだけではない。むしろ、試練達成よりもこっちが重要だろう。
大精霊の座・フォルタル=クルア
毎日、万能魔力を1つ生み出す。
なんと土地カードをゲットしていた。絵柄は、目の前の古木だ。しかも、万能魔力を生み出すって、凄いんですけど!
「大精霊の座? さっきのが大精霊なのか?」
俺は続いて、試練を有効化してみることにした。
土地を3つ支配する:ポイント2、万能魔力1
ネームドモンスター撃破:万能魔力1、ポイント1、カード入手
土地を3つ支配するは置いておこう。普通の試練の範疇だ。だが、もう1つの試練、ネームドモンスター撃破が問題だった。タッチした瞬間、美しい女性の絵柄が書かれた、豪華なカードが浮かび上がる。
大精霊・フォルタル=クルア 精霊
緑8 4/4 ★
飛行
周囲の木々は、彼の者の支配下である。
「以前手に入れた、ガルフ=ナザと似ているな」
レアリティが★になっており、能力がカードゲームではあり得ない抽象的な表現になっているのだ。
そもそも、大精霊ってカード化しちゃって大丈夫なのか? なんか、世界のバランスが崩れたりしないよな?
「人の子よ」
「え?」
突如降ってきた、女性の声。俺が驚いて顔を上げると、水晶の中から1人の女性が浮かび上がった。幽霊のように半透明だ。
「だ、誰でありますか!」
「我は大精霊フォルタル=クルア」
「は?」
思わずカードのイラストと、半透明の女性を見比べる。間違いなく、同じ姿をしていた。
だが、なんで目の前にいるんだ? 俺は召喚してないぞ?
「助かりました。人の子よ」




