122話 ペガサスとコボルトたち
俺が手配されたというのは構わない。覚悟はしていたし、この人相書きで辿りつかれるとも思えないからだ。
問題は、樹海に騎士や冒険者で構成された、大人数の追撃隊が派遣されるということだろう。
「追い返してやりましょうぞ!」
「私も戦います。盗賊たちみたいに、やっつけてやります!」
ワフとエミルは戦意が高いが、俺はそれで事態が解決するとは思えなかった。それはゼド爺さんも同じであるらしい。
「いや、そう簡単な話ではないぞ」
「どういうことですかジジ殿?」
「盗賊どもの場合、あれ以上に増えることはあり得んかった。だが、今回の場合は違う」
そうなのだ。相手は町の権力者。何度追い返しても、向こうが諦めなければ兵士を補充して、何度でも攻めてくるだろう。
どこかから援軍を連れてくる可能性もある。騎士団や傭兵団、冒険者と、考えられる戦力はいくつもあった。
「相手は貴族に連なる者。しかも理由が復讐となれば、そうそう諦めることもあるまい」
早々に引けば、面子も潰れるしな。復讐心と、面子。これは中々にしつこそうだ。
「で、では、どうするのです?」
「儂は、拠点を移すべきだと思う」
「そ、そんな。ここを捨てるってことですか?」
「うむ。一度ここを発見されてしまえば、あとは後手に回り続けるだけだからな。まさか、町を滅ぼすわけにもいくまい?」
「ぐぬぬ……。それは確かに」
「そう、ですね……」
ワフたちも、爺さんの言葉で納得したようだ。まあ、俺も大筋は賛成である。ここで意地を張っては戦い続けたところで、消耗するだけだろう。
それに、元々トビアたちが移住するという村に興味があったのだ。
だが、問題がいくつかあった。
まず、この拠点を残すかどうか、決めなくてはならない。石兵とミミック・トレントを残しておけば、維持はできるだろう。魔獣の1、2匹程度はどうにかなる。
ただ、今後ここを領主の部下に発見されたら、占拠されてしまう可能性が高い。石兵だけでは、どうにもならないだろうし、盗賊が拠点にすることなども考えられる。
勝手に使われるだけならともかく、土地を奪われることは避けたかった。ここもそうだし、暗黒精霊の鎮め祠も放置していたらどうなるか分からない。
「となると、頼りになりそうなのはこいつかね?」
オルタの牛人の頭領 モンスター:ミノタウロス
緑5 2/4 R
再生(緑2)、毎日、ミノタウロス・ワーカーを生み出す。あなたのフィールドに存在できるミノタウロス・ワーカーは10体までとする
※ミノタウロス・ワーカー 1/2
毎日、配下のミノタウロスを生み出すことができる強力なカードだ。こいつに、ここと祠を守らせればいいのだ。
強力な敵に砦を奪われても、兵力の補充が可能な頭領さえ残っていれば樹海の中で戦力を整え、再び奪い返すことも可能だろう。自分たちで食料の確保もできそうだし、拠点を任せるには十分である。
ただし、召喚するには魔力が5必要だ。現在の魔力は緑0、万能が1なので、最低でも明日にならないと召喚はできなかった。しかも魔力を使い切ってしまうし……。できれば、魔力に余裕を持たせていきたい。
「となると……。狩りや採取を頑張れば、何か試練が達成できるかもしれん」
ゼド爺さんたちに相談すると、試練達成を狙うことに賛成してくれた。
「やれることはやっておいた方がよかろう」
「それに、この場所を守ってもらえるなら、安心ですし」
「ワフも賛成ですぞ!」
俺たちは屋上で干し肉作りをしてくれているジェイドたちとトビアにこの砦を任せ、樹海へと踏み込むことにした。
全員で行動するには少々人数も多いので、俺、ワフ、コボルトズ、ペガサスと、ゼド爺さん、エミル、虎人の大剣士の二手に分かれる。
「コボルトたちも含めて4人も乗ることになるが、大丈夫か?」
飛べなくても、普通に走ってくれるだけで十分だと思っていたんだが……。俺はペガサスの力強さを侮っていたらしい。
ペガサスは俺たち4人を乗せても、問題なく飛行することができていた。考えてみれば、重装備の騎士や兵士を乗せて飛ぶことを想定している存在だ。
ヒョロくて革装備の俺と、幼女のワフ。子供くらいの重さしかないコボルト2匹は、ペガサスにとっては軽いものなのだろう。
「凄いぞペガサス!」
「うひゃー! きもち良いですな! 主!」
「おう!」
しかも、活躍したのはペガサスだけではなかった。コボルトたちが、俺の予想以上に優秀だったのだ。
まず、マメ柴コボルトの探検家だが、犬の感覚と、山歩きの知識を併せ持っていた。俺たちでは気付かない獲物の足跡を見付け、さらに匂いで追跡もできる。他にも、食べられる野草や茸をいとも簡単に見付け、歩きやすい進路を即座に見破る。
同行者として、これほど頼もしい存在はいなかった。探検家の指示に従ってペガサスを降下させれば、確実に収穫がある状況だ。
そしてビーグルコボルトの狙撃弓兵は、その名前に恥じない弓の腕前を持っていた。手にしているのは、その小さい体に合わせた小弓なのだが、その命中率が尋常ではない。
それこそ、100メートル先を走る鹿の目玉をペガサスの鞍上から射抜くような、人外の腕前を持っていた。いや、人じゃないんだけどさ。
探検家がその鋭い感覚を生かして観測手としても活躍し、この2体だけで凄まじい成果をあげてくれたのであった。
結果として、その日だけで7匹もの獲物を得ることに成功し、試練を4つも達成できている。
獣を一定数撃破5:万能魔力2、カード2枚
魔鳥を一定数撃破:万能魔力1、ポイント1、カード1枚
霊獣を一定数撃破:万能魔力1、カード1枚入手
試練達成90:万能魔力1
霊獣というのは、最後に仕留めた不思議な獣のことだろう。額に赤い宝石の埋め込まれた、リスっぽい獣である。カーバンクルという奴だろう。
肉はマズくて食えたものではないらしいが、毛皮と宝石が高く売れるらしい。ワフ曰く、この宝石があれば魔術師用の杖が作れるということだった。
「先日倒したトレントの枝を削って、作ってみましょうか?」
そんな技能まであるとは、さすが万能文化犬娘ワフだな。一応、ワフやエミルの生活魔法が使いやすくなるそうだから、作っておいて損はないだろう。
引いたカードは獣が2枚、魔鳥が1枚、霊獣が1枚だ。
「こういうこともあるかと思ってたが、まさかどっちもダブるとはな」
なんと、獣2枚は、どっちもすでに所持しているカードだった。バルツの森の見張役と、ハウリング・ドッグである。どちらもかなり良い引きと言えるだろう。ついている。
「で、残り2枚がこれか……」
魔眼の蜥蜴鶏 モンスター:魔鳥
緑4 1/2 C
1時間に1度、対象を指定してもよい。指定された対象を10分間行動不能にする。
ユニコーン・ワイバーン モンスター:霊獣
白5 4/2 R
飛行、先制、毒無効、天光
魔眼の蜥蜴鶏は、いわゆるコカトリスという奴だろう。魔眼を使って、相手を麻痺させる能力がある。強いんだが、飛行能力がなかった。せっかくの鳥なのにな。
そして、ユニコーン・ワイバーンはその名前の通り、角の生えたワイバーンだ。神聖な力を持ったワイバーンという設定らしい。攻撃力が高く、速くて、飛べるのだ。こいつは、単純に強い。しかも、天光を持っている。
天光:種族:ヴァンパイア、デーモン、アンデッド、邪神、魔人へのダメージを倍加する
黒デッキ相手では猛威を振るうカードだった。白井とやり合う前に欲しかったぜ。
「まあ、目的は達成したし、一度砦にもどろうか」
獲物を持ちきれない。というか、すでにかなりの肉などを放置することになっているのだ。しかも、ペガサスのおかげで相当遠くまで来ている。
多分、今まで俺たちが踏み込んだことのないエリアだろう。そろそろ、戻りたいのだ。
ペガサスに跨るためにコボルトたちを促したんだが、その場から動かない。
「オフ!」
「どうした?」
「オフオフ!」
コボルトたちが何やら興奮している。俺には木々が邪魔で見えないが、この先にコボルトを興奮させる何かがあるらしい。
「じゃあ、この先を確認してから帰ろう」
「ワフン!」




