121話 コボルト召喚
砦に戻ってきた後、俺たちは泥のように眠ってしまった。正直、疲労が限界だったのだ。
まあ、ワフだけは元気だったので、見張りや食事の用意などを頼んだが。
特にジェイドは自力で立っていられないほど弱っており、眠るというよりは昏睡に近かった。表面的な傷はポーションで治っても、内部のダメージは完全に癒えてはいなかったらしい。
平気そうにしていたのは、娘であるマリティアに心配をかけたくなかったからだろう。
ワフの見立てでは、翌日に聖なる泉の力を使っていなければ、しばらく寝たきりでもおかしくはなかったらしい。
ただ、それから数日は、のんびりと過ごせていた。多少の仕事はするが、狩りや戦闘はお休みだ。
俺はジェイドやマリティアにこの世界の話を色々と教えてもらったり(勿論、自分の素性は明かさずだ)、数体のモンスターを召喚したりもした。
召喚したのは、コボルトの探検家、コボルトの狙撃弓兵、シルバーシープである。それで、モンスター30匹召喚の試練も達成できた。ポイントだったので、それですぐ何かできるというわけではなかったが。
最後に召喚したシルバーシープは、毎日緑魔力を生み出してくれる、今後大活躍予定の魔獣だ。
シルバーシープ モンスター:獣
緑2 0/1 C
毎日、緑魔力1を生み出す
見た目は、銀色の毛の羊である。毛の色が少々目立つ以外は、ほぼ地球の羊と変わらないだろう。
問題は、コボルト2体である。こちらの世界では、凶悪で好戦的な魔獣として忌み嫌われている。エミルやマリティアが怖がるかもしれないのだ。一応、大丈夫かどうか尋ねて、平気だという言葉をもらっていたんだが……。
「きゃー!」
「いやー!」
コボルトの探検家を見た2人の反応がこれだ。
「やっぱりダメだったか?」
「か、可愛いですねっ」
「はい!」
大丈夫でした。悲鳴ではなく、黄色い歓声だったらしい。
コボルトの探検家は、身長120センチほどの二足歩行のイヌである。因みに、探検家のモデルは黒マメ柴だ。確かに、可愛かった。異世界の女子にも、そんなマメシバの魅力は伝わったらしい。
その後、コボルトの狙撃弓兵も、同じように2人に受け入れられていた。こちらはビーグル犬のコボルトだ。
どちらかと言えばエミルは探検家。マリティアは狙撃弓兵が好みであるらしい。まあ、どっちも可愛がられているから、あくまでもどちらかと言えば、であるが。
現在の手札は生命回復、超トラバサミ、比翼のワイバーン、ラーヴァショット、黒霧の長剣、オルタの牛人の頭領となっている。少々属性がばらけてしまっているのが問題だ。
効果は非常に強いカードばかりなんだがな。まあ、魔力を溜めて、いつでも使えるようにしていこう。
そして、俺たちが砦に帰還してから4日後の早朝。
静養したおかげで調子を取り戻した俺たちのもとに、町で情報収集をしていたトビアが駆け込んできたのだった。
「た、た、大変だっ!」
「トビア。そんなに慌ててどうした?」
「ち、血だらけではないですか!」
汗だくの姿を見るに、相当な強行軍で樹海を抜けてきたのだろう。道中で魔獣とも遭遇したらしく、全身傷だらけである。
「緊急に、伝えなくちゃいけないことが……」
「わかった。ただ、その前に傷を癒さないとダメだ。ワフ、何か飲み物を」
「は! ワフにお任せくだされ主!」
「わ、私もお手伝いします!」
ワフとエミルに軽食の用意を頼み、俺はゼド爺さんと協力してトビアを泉に連れていった。何をされるのか分からず目を白黒させていたトビアだったが、自分が泉に放り込まれようとしていると理解すると、抵抗し始める。
いや、抵抗というよりは、説明を求める感じだったか。だが、言葉で教えるよりも、実際に体感させる方が手っ取り早い。
トビアは狼狽したり、驚いたりと忙しいが、最後には微妙な表情で「ま、まあ、旦那方ならこんなこともありますか」と呟いていた。ジェイドと同じ反応だ。
その後はトビアを着替えさせて、その報告を聞く。
さすが冒険者なだけあり、現在の町の状況を正確に調べ上げてきてくれていた。
「まず、最も重要な情報があります」
「なんだ」
「……領主の野郎が殺されました」
「なに! いつのことだ!」
なんと、俺たちが脱出した翌日には、屋敷の地下にある隠し部屋で、斬殺された領主の遺体が発見されていたらしい。
「下手人は分かっておるのか?」
「それが、どうも皆さんの仕業にされちまったようでして」
多分、あの天使たちの仕業だろうな。明らかに領主館を狙い撃ちにしていた。奴らの目標は領主だったらしい。
「特務騎士殺しについては完全に隠蔽されています」
「で、そのかわりに領主を殺したことにされているってことか」
「はい。手配書がこれです」
「うーん……。酷い出来だな」
「そうですか?」
ただでさえ印刷技術がないうえに、大急ぎで作らせたせいで、手配書に描かれた顔は落書きレベルだった。絵師に無理して描かせたのかね? これが何十枚か、町の主要施設に配られたという。
一応、黒髪黒目の特徴は分かるが、他は俺とは似ても似つかない。というか、この世の誰にも似ていないだろう。
しかも、手配書の絵には耳が付いていた。どうやら、ワフの仲間は獣人に違いないという思い込みがこうさせたようだ。しかも、俺の単独犯という扱いだった。
「これで、俺に辿り着くのは無理なんじゃないか?」
「それなんですが……。手配書はあくまでも保険で、本命は山狩りのようです。樹海に兵を差し向けるつもりのようでして」
「俺を捜すためか?」
「そうです」
領主の配下なんぞクズばかりだと思っていたが、一応忠義っぽいものを持った人間がいたらしい。ガメッツという、領主の配下で最も腕が立つという騎士である。
領主の剣の師匠でもあり、若い頃から領主を可愛がっていたらしい。その弟分のような領主を殺され、相当怒っているようだ。
町の巡回兵なども削り、冒険者の中でも素行の悪い者たちに金をばらまき、戦力を短期間で集めたというのだから、その行動力は大したものだ。
「50人規模の山狩りです。しかも、今回はそうとう執念深く、探索を行うでしょう」
「確実にここまで辿りつかれそうだな」
「そ、それはマズいではありませぬか!」
そう、非常にまずい。トビアがここに来るまでに1日はかかっている。下手したらその捜索隊が出撃していてもおかしくはなかった。
たくさんの温かいお言葉、ありがとうございました。
父も草葉の陰で喜んでいると思います。
まだ執筆のペースが取り戻せておらず、今月は4日に1回程度の更新となってしまいそうです。
申し訳ありません。
次回は12日を予定しております。変更等がある場合は活動報告にて伝えさせていただきます。




