120話 ジェイドとマリティア
ジェイドたちを紹介してもらった後、俺は爺さんやワフから話を聞いた。
特にワフの話は興味深いな。アイオールがワフを助けてくれたということは、その時はすでに俺の仲間だと知っていたのだと思う。
ワフが捕まった時に狼が倒されているから、それでカード使いである俺の存在を知ったという可能性もあるが、もっと前から知られていたという可能性もあるだろう。
クラウドローズは目立つが、天使などを使って夜に空から偵察を行なわれたら、気付かないはずだ。
そう考えると、やはり白のカード使いには慎重に対応するべきだろうな。こっちの情報をどこまで知られているかも分からない。
「次は主の番ですぞ!」
「うむ、儂も気になっておった」
俺が敵に発見されたことは分かっていたようだが、その相手が特務騎士だと分かって驚いていた。
特務騎士ルファスとの戦いや、アイオールに見逃されたことなどを語る。バリーの裏切りに関してはどうしようかと思ったが、ここでは語らないことにした。
ジェイドやマリティアは詳しく知らないようだし、ここで知人が俺たちを裏切ったという話を聞かせても、落ち込ませるだけだろう。
それに、特務騎士との戦いの話への食いつきが凄いしな。ゼド爺さんがグイグイと質問してくるので、妙に詳しく語ってしまった。
「なんと、特務騎士に勝つとは! さすがだな!」
「よく分かりませぬが、凄いですぞ大剣士殿!」
「頑張ったんですね」
「ガオ」
皆に褒められ、満更でもなさそうな虎人の大剣士。だが、それだけの活躍をしたのだ。大剣士が頑張ってくれなかったら、俺はルファスに殺されていただろう。
「と、特務騎士に勝つ……? は、はは……。凄いことは知ってたが、そこまで強かっただなんて」
「特務騎士様よりも強いって、本当なんですか?」
呆然としているのは、ジェイドとマリティア親子だ。
彼らにとって特務騎士というのは、負けることさえ想像できない、絶対強者なのだろう。それこそ、物語に登場する無敵の英雄に近い存在だったらしい。
戦闘とは縁遠いマリティアだけではなく、冒険者であるジェイドですら、特務騎士が負けるわけがないと本気で信じていたようだ。
プロパガンダの一環として強さが喧伝されていただけではなく、実際に強かったからな。聞くところによると、単騎で100人からなる敵軍の魔術部隊を壊滅させたなんて話がゴロゴロあるらしい。
「それで、これからどうするのだ?」
「まあ、とりあえず樹海の砦に戻ろう」
「でも、大丈夫ですかね?」
今回のことで、俺たちは確実に手配されるだろう。顔を大勢の兵士に見られた。
それに、ワフを救出したことが分かれば、樹海に結び付けて考えるやつはいるかもしれない。最悪、樹海に大量の兵士が派遣される可能性もあった。
「とは言え、今日明日にいきなり派兵というのは無理だろ?」
「それはそうであろうな」
館が壊滅し、兵士も大勢死んだ。それに、クラウドローズによる追い打ちもあった。
指揮系統がまともに機能しているとは思えなかった。
「特務騎士もいなくなったともなれば、樹海どころか町中の巡回さえまともに行えるかわからん」
樹海に軍を送り込もうとするなら、1週間くらいは準備が必要だろう。
「身の振り方を考える程度の時間はある」
「うむ。それは間違いなかろう」
そっちの2人もどうするか考えなきゃいけないしな。まあ、とりあえず町を避けて移動しながら、樹海へ戻ろう。使い果たした魔力も溜めたいし、ライフバリアも回復させたい。
できれば数週間くらいはゆっくりしたいところだ。まあ、さすがに無理だとは思うが……。
道中は、数度魔獣に遭遇する程度で、特に問題なく進めていた。マリティアをペガサスに乗せれば、あとは戦える人間ばかりなのだ。
うん、すまん。俺以外はね! ワフもエミルもすっかり強くなってしまって、俺なんてライフバリアがある以外は雑魚だった。ワフに守ってもらっちゃったよ。
歩きながら、ジェイドやマリティアともそれなりに会話できた。俺やゼド爺さんは主にジェイド。ワフとエミルがマリティア担当って感じだったけどね。
ジェイドは、知人を頼って樹海の傍にある村に向かうつもりであるそうだ。
そこは、国と国の国境地帯にひっそりと存在しており、隠れ里のようになっているらしい。各地で迫害された人間が寄り集まってつくられた村だそうだ。
そんな村が国から目を付けられずに存在していられるのには、それなりの理由がある。まず、その立地の悪さ。
樹海に近く、険しい山岳地帯であり、大地は痩せ細って作物が育たない。こんな土地、誰も欲しがらないのだ。
また、国境線上にあるということで、どちらの国も手を出しづらいという理由もあった。
問題となるのは山賊や、傭兵団による略奪だが、ジェイド曰くその心配は必要ないらしい。元冒険者が守っているようだ。
送っていってやるのもいいかもしれない。俺もその村には興味がある。腰を落ち着けられるかどうかはともかく、物資の補給などはできるだろう。
マリティアは、かなり困惑していた。
元々、病気のせいで家からほとんど出ない、箱入り娘だった。たまにある調子の良い日に、買い物のために外出する程度であったらしい。
それが、いきなり父親が陰謀に巻き込まれたと思ったら、病気が治って、町が大騒ぎになって、よく分からない怪しい奴らと一緒に町の外を歩いている。
落ち着けという方が無理なのだろう。それでも泣き喚いたりしないのは、父親が一緒にいるからかね?
マリティアはエミルやワフとも仲良くなったらしく、3人で何やら笑い合っている。この分なら、樹海の砦で過ごすのも問題ないだろう。
まあ、こっちの世界の人々は色々な面で強いから、マリティアのような一見薄幸の美少女に見える娘でも、俺の想像以上にタフだとは思うが。
ジェイドもマリティアも、樹海に入る時には少し緊張してはいたが、俺たちの強さはすでに理解している。それを拒否するようなことはなかった。
そうして歩くこと半日。
「見えた。砦だ」
「戻ってきましたな!」
「ああ」
出発したのは一昨日のことなのに、ほんとうに久しぶりに感じた。
「色々あったが、無事に戻ってこれたか」
活動報告にて、今後の予定などをお知らせしております。
とりあえず、4月の初週には更新を再開できればと考えております。




