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118話 白のカード使い


 伝令のペガサスが、未だ暗い夜空を駆けていく。


 この分なら、すぐに町を脱出できるだろう。


 俺はペガサスの手綱にしがみ付きながら、ドローしたカードをチェックしていた。


「コボルトの狙撃弓兵か」


コボルトの狙撃弓兵

赤3 2/1 UC

アタックの代わりに対象に1点ダメージ


 今すぐに召喚できるカードじゃないな。ただ、護衛としても狩人としても優秀なカードだ。樹海での生活では非常に役立ってくれるだろう。


 そんなことを考えていたら、不意に俺たちの上に影が差した。


 雲で月が隠れたか?


 そう思って何気なく上を見上げたら、驚くべきものが目に入ってきた。


「な、な……なんだ?」

「ヒヒィン?」


 なんとペガサスが飛んでいる高度よりもさらに上空に、巨大な金属の塊が浮かんでいたのだ。一番長い部分は、端から端までで20メートル以上はあるだろう。


 流線型の、F1マシンや新幹線を思わせる、洗練ささえ感じさせる形をしている。涙滴型とでも言えばいいだろうか。


 明らかに人工物だ。


 磨き上げられた銀色の表面が月の明りを反射し、闇夜の空にその巨体を浮かび上がらせている。やや細長くなっている前方から、後方に向かって幾何学模様を描くように白い線が幾筋も走り、まるでアニメに出てくる古代の遺物か何かのようにも見えた。


 しかも静かだ。ジェットエンジンのような轟音も、創作物の中でUFOが発しているような不可思議な電波音もない。


 聞こえるのは、その巨体が空気を割る際に起きる僅かな風切り音だけであった。


 ただ、だからこそ、どんな力で浮かんでいるのかが想像できなかった。重力に逆らって浮かんでいる以上、何らかの力で浮力を得ているはずなのだが……。


 いや、魔術のある世界で、無駄な考察だったな。そんなことよりも、今はあの空飛ぶ金属の塊――まあ、空飛ぶ船なのだが。


 俺は、このクレナクレムにいる者たちの中でも数少ない、あの金属塊の正体を正確に察することができる人間だった。


「戦艦クラウドローズ……!」


 それは間違いなく、MMMのカードである。俺以外のカード使いが召喚した存在で間違いない。


 このカードなら良く覚えている。一時期、話題になったのだ。


古代戦艦壱番艦・クラウドローズ 白10 LR オブジェクト

白3:1ターンの間、「魔力3:対象に2点+1Dダメージを与える」「飛行」「再生:10」「白1:対象のモンスターにターン終了時まで浮遊を与える」を持った、3/7の無機モンスターとなる。その間、オブジェクトでもある。


 確かこんな能力だったはずだ。


 実際のカードゲームでは、クソLR、外れLRと言われた悲しきカードである。出せば強いが、コストが高いうえに、能力がコストに見合っていないと言われ、使われることがほとんどなかったカードだ。


 それでもカードイラストが非常に美麗だったため、「使わないけどコレクションしておきたい」というファンは多いカードだった。


 だが、この世界では別である。まさに最強兵器と言えるだろう。


 空を飛び、砲撃が可能で、何百人もの人間を運搬可能。偵察や強襲もお手の物である。


 単騎で国とやり合えるかもしれない。まあ、ルファスのような化け物や、そいつらがチームで当たらねば勝てない魔獣がいるという話もあるので、無敵とは言えないだろうが。


 それでも、それに近い能力を持っているのは確かだった。そんな存在が、俺の上空を静かに進んでいる。


「アイオールの仲間が召喚したのか……?」


 ともかく、あれが敵かどうかもわからない。俺はペガサスに指示して、離れるような進路をとらせる。


 どちらにせよ、消耗した俺たちがあれに接触するのはリスクが大きすぎる。今は逃げるべきだろう。


 俺たちに興味がないのか、見逃してくれたのか。はたまた気づいていないのかは分からないが、クラウドローズは俺たちを追いかけてくるようなことはなかった。


 仲間であるアイオールを迎えに来たのかもしれない。


 そう思っていたら、クラウドローズに動きがあった。艦首に切れ込みのような線が入ったかと思うと、上下にゆっくりと開いたのだ。


 内部には、パラボラアンテナのようなものが設置されていた。


 何が起きるのかと息を飲んで見つめていると、パラボラアンテナが青白く輝き始めたではないか。次第に、アンテナの中央部分に青い球体が形成されていく。


 一見すると美しくさえ思えるが、どこか剣呑さも感じさせる光景だった。まあ、俺がアニメや映画で似た光景を見たことがあるからだろう。


 そして、俺の想像通り、青く輝く球体が眼下の館目がけて放たれた。


 館に着弾直後、青い光がドーム状に広がり、館の半分近くが飲み込まれる。夜の町を強烈に照らす青い閃光は、遠くからでもよく見えるだろう。


 ドゴオオオォォォ!


 凄まじい轟音が辺り一帯に響き渡り、館の半分が消滅していた。やはりあれは攻撃だったか。


 魔力3で使用できる、クラウドローズの特殊能力を使ったのかもしれない。


 因みに、クラウドローズの特殊能力の攻撃力は、2点+1Dである。このDというのはダイスのことで、なんと6面ダイスを振って出た目の数だけ、ダメージが加算されるというものだ。


 最低で3点、最高で8点という、効果にかなり差がある能力だった。


 これは、古代の戦艦という設定が関係している。超魔導文明の戦艦を発掘して修復したが、現代の技術では完璧ではなく、出力が安定しないという設定であるらしい。


 クラウドローズの異変は、まだ続く。


「あれは……弓矢のキューピッドに、戦場の天使! キューピッドは2体もいるのか!」


弓矢のキューピッド モンスター:天使

白1 1/1 C

浮遊


戦場の天使 モンスター:天使

白4 1/3 C

飛行


 どちらも白の初期デッキに入っているはずだ。これでいくつか分かったことがある。まず、謎のカード使いの初期デッキの色は、間違いなく白だろう。


 自デッキを強化するために白パックを引き、クラウドローズを引き当てたのだと思われた。また、すでにデッキを1周はさせている。そうでなくてはクラウドローズをデッキに組み込めないからな。


 クラウドローズの中から出現した天使たちは、そのまま一直線に館に向かって降下していった。砲撃だけではなく、モンスターでさらに蹂躙しようというのだろうか?


「いや、今はそんなことどうでもいい! とりあえず逃げよう! ペガサス、急げ!」


 ペガサス自身も恐怖を感じていたのだろう。俺の指示によって、一気に加速する。背後を振り返っても、やはりクラウドローズが追ってくる気配はなかった。


「何者だ……白のカード使い……」


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