117話 伝令のペガサス
「チュー!」
「蔦鼠!」
ワフを捜すために館に突入しようとしていた俺たちの前に、蔦鼠が戻ってきた。
「なんだその布?」
「チュ!」
首にはスカーフのように、白い布が巻き付けられている。解いてみると、一枚のハンカチであった。家紋のような物が刺繍されているので、この屋敷にあったものだろう。
だが重要なのはハンカチ自体ではなく、そこに書かれていた文面だ。
ハンカチには泥か何かで「ワフは助けた。先に脱出する。ゼド」と書かれていたのだ。少し消えかけているが、問題なく読める。
まあ、都合よくインクなんかあるわけないしな。あとは血文字くらいしか思い浮かばんが、それをされたら俺が不必要に心配するからやめてくれてよかった。
「向こうが何とかなったなら、こっちも脱出しよう」
「ガオ」
「チュ!」
ゼド爺さんたちが怪我をしている可能性も考えて生命回復を使うための魔力を残しておこうかと思っていたんだが、大丈夫ならあのカードが使える。
「召喚! 伝令のペガサス!」
「ヒヒヒィーン!」
甲高い嘶きとともに出現したのは、翼の生えた白馬であった。しかもかなりの巨体だ。サラブレッド並だろう。
翼は純白ではなく、やや黄色が混じった美しい色だ。
伝令のペガサス モンスター:霊獣
黄3 1/2 C
飛行
その背中には鞍が置かれ、騎乗するには十分である。ただ、1つ確認しなければならない。
「ペガサス、俺と大剣士を乗せて飛ぶことができるか?」
「ブルル!」
「どっちだ?」
「ブルルン!」
どうも、いつもより飛行速度は遅くはなるが、乗せることはできる。そんなニュアンスであるらしい。
「飛べるなら問題ない! 頼む!」
「ブルル」
「よい――しょっ!」
俺は鐙に足をかけ、大剣士に補助してもらいながらなんとかペガサスに跨る。蔦鼠はちゃっかり俺の頭の上にいた。
「大剣士、登れるか?」
「ガ」
怪我をしていても、俺なんかよりも断然動きがいい。さすがだな。しかし、感心していられたのはそこまでであった。
「貴様! なんだそれは!」
「侵入者がいたぞっ!」
屋敷の兵士たちが再び庭に集まってきていたのだ。ルファスが一度は遠ざけたんだが、さすがに時間が経ち過ぎたのだろう。
しかも、それだけではない。
「ガウゥ……」
「え? 大剣士?」
俺の後ろにタンデムで乗っていた虎人の大剣士が、急に俺の背中に圧し掛かるように体重をかけてきたのだ。
「お、おお、重い……」
「ガ……」
「そうか、強化が切れたか!」
肉体強化の呪印の効果が切れて、3/2に戻ってしまったのだろう。
「大丈夫か?」
「……」
やばい。返事をすることもできないらしい。だが、もう回復手段は残っていなかった。
「ゼド爺さんたちと早く合流するしかない」
向こうにポーションが残っていれば、まだ助かるかもしれない。
「ペガサス! 飛べ!」
「チュー!」
俺と蔦鼠の掛け声に応え、伝令のペガサスがその翼を広げ、後ろ足で立ち上がるかのように大きく跳んだ。
「ヒヒーィン!」
ジャンプと羽ばたきを合わせることで、一気に跳び上がることに成功したらしい。そのまま翼をバッサバッサと動かし、少しずつその高度を上げていく。
多分、魔法の力で飛んでいるとは思うんだが、翼の力も必要であるようだ。
「に、逃がすな! 弓を持ってこい!」
「なんでこんなところに魔獣が……いや、あんな綺麗な魔獣がいるのか?」
「馬鹿! そんなこと言ってる場合じゃないだろう!」
兵士たちが慌てふためいている間にも、ペガサスはさらに高度を上げていく。弓の用意がなくてよかった。まあ、屋敷の中で飛び道具は危ないからな。だが、兵士たちの槍ではもう届かない高さである。
「というか、メッチャ高い! で、でも、これだけ高度を上げれば問題ないだろ! ゆ、弓を持ってきたって、ここまでは届かん!」
自分が高所恐怖症だと思ったことはないんだが、足場が不安定なうえでこれだけ高いと、さすがに恐怖心が湧いてくる。だが、今は押し込めねばならない。
俺はできるだけ下を見ないようにしながら、ペガサスに向かう方角を指示した。
「え、えーっと……あっちだ!」
「ヒヒン!」
爺さんたちと落ち合う予定の場所まで、ペガサスならすぐに到着できるだろう。ペガサスが方向転換をしている間に、蔦鼠にも指示を出す。
「蔦鼠、大剣士が落ちないように、俺の体と一緒に縛ってくれ」
「チュ!」
蔦鼠が尻尾を伸ばし、俺の胴体と大剣士の胴体をグルグル巻きにする。身動きがとり辛いが、どうせ俺がペガサスを操っているわけではない。問題ないだろう。
「行ってくれ!」
「ヒヒィン!」
「うおぉぉ!」
あまり速くは飛行できないということだったので、油断していた。
「は、速いじゃないか!」
これでも遅い? だったら全速力はどれほど速いのだろうか。操る以前の問題として、速さと高さに慣れないと、乗る度に恐怖心と戦うことになるだろう。
「ひぃぃ!」
「ヒヒヒィィン!」




