112話 虎人の大剣士(8/6)
俺のカードによって強化された虎人の大剣士は、圧倒的な攻撃力を発揮していた。
今までは何とか受けられていたはずの大剣の一撃で、ルファスの剣があっさり吹き飛ばされたのだ。
そして、ルファスが次の行動を起こす間などなく、大剣士の2撃目がその胴体を深々と切り裂いた。
「ぐうっ!」
傷口から大量の血が溢れ、足元が一瞬で真っ赤に染まる。それほどの大怪我ということだ。
それでもルファスはなお動きを止めずにいた。呻き声を上げながら後ろに下がり、震える右手を突き出す。魔術を使うつもりか!
「止めを刺せ大剣士!」
「ガアアアア!」
「風壁――ぐがぁ!」
竜巻のようなもので自らの周囲を覆い、大剣士の剣を防ごうとしたのだろう。しかし、大剣士の攻撃は一撃でその風を斬り裂き、その右腕を切り落としていた。
「これほどの……っ!」
現在の大剣士は、8/6という超ステータスだ。多分、ドラゴンとも正面から殴り合える。
いくら人間としては最高峰の騎士であっても、咄嗟の魔術で防げる攻撃ではなかった。
「ガアアアア!」
「は、はははは――」
剣を振り上げる大剣士を前に、無防備なルファスが哄笑を上げる。狂った? それとも、殺し合いが楽しいのか?
だが、もう終わりだ。どう足掻いても大剣士の攻撃は――。
「魔導鎧! 安全装置解除!」
「ガアッ?」
おいおい、マジかよ。ルファスが大剣士の攻撃を防ぎやがった。しかも、剣ではなく、手の平で。
ルファスが何気なく眼前に突き出したように見える左の手の平が、大剣士が振り下ろした剣を受け止めているのだ。
その衝撃の凄まじさを物語るように、ルファスの足下の地面にはビキリビキリとひびが入っている。
「まさか、この力を使うことになろうとは!」
そう叫んだルファスの体から、今まで以上に濃い、青い光が放出された。体の表面を覆うだけではない。最早、青光の柱の中にルファスが立っているかのような光景だった。
「ガアア!」
「おあああ!」
虎人の大剣士が、受け止められた剣を押し込もうと、力を籠める。剣を握った両腕の筋肉が隆起し、歯を食いしばっているのが分かった。
だが、ルファスはその力に抵抗していた。さすがに軽くとはいかないようだが、全身の力を使って、剣を押し留めている。
両者が踏ん張っている足が、大地に深く沈み込んでいるのが見えた。
「ぬううううう!」
「ガルウウウウ!」
完全に拮抗している。
あり得ないだろう。だって、今の大剣士は8/6だぞ? しかも、いつの間にかルファスの腹から流れ出る血が止まっていた。目を凝らして確認すると、どうも傷口が塞がったらしい。
あの青い光の効果か? それとも、自己治癒力も大幅に上昇した? どちらにせよ、今のルファスは今まで以上に強化されているようだ。
「この状態は長く維持できんのでな、早々に決めさせてもらうぞ!」
「ガッ?」
ルファスが剣を掴むと、そのまま砕いてしまった。鋼鉄製の大剣を力任せに握り砕くとは、凄まじい握力だ。さらにルファスが放った前蹴りが、大剣士の巨体を後退させた。たたらを踏んだ程度だが、この2人にとっては大きな隙である。
「斬風! 斬風! 斬風!」
「グガァ!」
ルファスが予備動作もなく魔術を放った。俺にも見える程の高密度の風の刃が3つ、大剣士に襲いかかる。
しかし、大剣士も負けていない。気功を腕に集中させると、放たれた風の刃をかき消していた。左腕を犠牲にしながらも、なんとか魔術を相殺したのだ。
「くらえぇ!」
「ガアア!」
そこからは、今まで以上に凄まじい攻撃の応酬が始まる。互いにすでに剣は持っておらず、拳のやり取りだ。腕も、1本ずつ失い、条件は同じだった。
「おらあああああ!」
「ガルウウアアアアアア!」
目まぐるしく変わる立ち位置と、凄まじい速度の攻撃。もう、俺の目ではその動きを捉えきれていなかった。まるで高速で舞い踊っているようにさえ見える。
ただ、行われているのは舞踊などという優雅な言葉からほど遠い、暴力の叩きつけ合いであった。
ドドドゴゴゴゴオォォォンン!
素手で殴り合っているだけと思えない、鈍く重い破砕音が響き続ける。そして、互いの拳が空ぶる度に、魔力と衝撃波が周辺を破壊した。
俺には及びもつかない、膨大なエネルギーがまき散らされているのだろう。
庭は無残に荒らされ、さらにその被害は屋敷にまで及び始めていた。
あの中に巻き込まれたら、数秒で俺のライフバリアは破壊され、ミンチに変わるだろう。
大剣士の毛皮が自らの血で赤黒く汚れ、ルファスの黒い鎧もいたる所が凹み、砕けていく。いつの間にか兜も破壊されたらしく、その顔がはっきりと見えていた。
白皙の美貌と呼んでも差し支えない顔なのだろうが、今は鬼気迫る表情に歪んでいる。
「はあああ!」
「ガオオオア!」
だが、次第に流れが変わり始めていた。
一撃の威力と体力で上回る大剣士が、ルファスを押し始めたのだ。そして、遂に大剣士の拳がルファスの腹を捕らえていた。口から血を吐き出しながら、ルファスが数メートルほど後退する。
そこに追い打ちをかけるべく、大剣士が踏み込んだ。残った右腕を握り込み、思い切り振り上げる。頭を狙っているのだろう。
ルファスはその攻撃を躱そうとして、失敗する。むしろ、頭部を狙った攻撃を逸らしただけでも驚きだった。大剣士の動きはそれほどの速さなのだ。
「ガオオオオ!」
「――っ!」
振り下ろされた大剣士の拳が、身を捩ったルファスの太腿に直撃する。そして、片足をへし折られたルファスが、無様に地面に転がるのであった。
数日家を空けるので、誤字の反映などが少し遅れてしまいそうです。ご了承ください。
前話で、チェシャ猫の能力を連続使用している描写を変更しました。
1回能力を使ったことでチェシャ猫が行動不能になり、2回目の能力使用は行わなかったという形になります。




