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111話 虎人の大剣士(5/4)

 チェシャ猫の能力によって動きを封じられたルファスに向かって、強化状態の虎人の大剣士が攻撃を仕掛ける。


 その動きは、遠目から見ていても分かる程の速度だった。速いというよりは疾いだ。


「ガアアアア!」


 ドゴオオォン!


 大剣士が剣を振り下ろすと、まるで巨大なハンマーでも叩きつけたのかと思うような、轟音が響き渡った。


 同時に大量の土が舞い上がり、地面が大きく抉れる。


 さらに、その衝撃でルファスの体が大きく舞った。


 ただ、目立った傷はないな。血が流れるような様子もない。あの勢いなら一刀両断したと思ったのだが……。


 想像以上に魔導鎧が硬くて、剣で弾き飛ばすだけになったのか?


「ガアア!」

「は!」


 いや違う! そもそも大剣が当たっていなかった!


 あの男、大剣士の斬撃が当たる直前に拘束を解いて、回避しやがったのだ! 弾き飛ばされたように見えたのは、単にルファスが体を捻って自ら跳んだだけだった。


「何だ今の術は! あの派手な小動物の能力か?」


 オーガと同じだ。やはり気功や魔力を使うことで、チェシャ猫の拘束を破ることができるらしい。


 ルファスは俺にも見えるほどの青いオーラを身に纏っている。多分、あれが魔力なんだろう。魔力を鎧のように纏うことで、チェシャ猫の特殊能力を無効化したのだ。


 それでも、数秒間は動きを止めることができた。今の状態で一瞬でも隙を作れれば大剣士が仕留めるだろう。


「もう一度だ!」

「――」


 ダメだ! チェシャ猫は固まったままである。


チェシャ猫 モンスター:幻想

緑3 0/1 SR

緑1:このモンスターが10分間行動不能になる代わりに、対象のモンスターを10分間行動不能にする。

緑2:10分間、挑発(相手のモンスターはこのモンスターにアタックしなくてはならない)を得る

緑3:10分間、透明(全てのアタック、スペルの対象にならず、ブロックされない)を得る


 向こうには拘束を解かれたが、チェシャ猫は10分間身動きが取れない。


 身に纏った魔力は身体能力を向上させるような効果もあるのか、ルファスの動きが格段に速くなった。そして、大剣士と凄まじい剣戟の応酬が始まる。


 こうなっては、迂闊に手を出すことができなかった。少なくとも、俺があの激しい斬り合いに割って入ることは不可能だ。


「は!」

「ガオ!」


 剣術の腕はほぼ互角だろう。しかし、筋力、敏捷、ともに大剣士が勝っている。魔力で強化された状態であっても、今の大剣士の剣を受け止めれば、ルファスは後退せざるを得ない。


 しかし、ルファスには例の遠距離攻撃があった。未だにどんな仕組みかは分からないが、突き出した手から不可視の弾丸を撃ち出せるようだ。


 大剣士はルファスの弾丸が見えているらしく、直撃は避けている。だが、攻防に織り込まれた弾丸は牽制としての効果は十分らしく、ルファスを攻めきれないようだった。


「蔦鼠、爺さんたちと合流して、ワフを助けに行け」

「チュ!」


 ルファスは自分だけが戻ってきたと言っていた。本当か分からないが、少なくとも奴をここで釘づけにしておくことはできる。


「そして、ワフを助けたら、先に脱出するんだ。俺は気にしなくていい」

「チュ?」

「大丈夫だ。俺だけなら逃げる方法がある」

「チュ」


 俺の指示を理解したのか、蔦鼠が俺の肩から飛び降りて、屋敷に向かって駆け出した。


「チュー!」

「おお、あんな移動方法が!」


 蔦鼠が一気にジャンプすると、その尻尾を伸ばす。その狙った先は、破壊された窓の枠だった。そこに尻尾を巻きつけ、一気に巻き上げる勢いで2階に跳び上がったのだ。


 いやー、まだまだ俺の知らない能力があるんだな。


 ただ、これでワフの方は爺さんたちに任せればいい。俺は、ここでルファスを倒す。


「はああ!」

「ガア!」


 未だに斬り合いが続いている。だが、次第に大剣士が押され始めていた。時おり、ルファスの攻撃を無防備というか、不可解な隙を見せて食らうことがあるのだ。


 だが、すぐにその理由が分かった。ルファスが俺を狙って放った弾丸を迎撃し、そのために隙を生み出すこととなっていたのだ。


「俺が足を引っ張ってるのか……!」


 どうすればいい? この世界に来てから何度目か分からない、自問自答である。手札を確認し、今使えるカードが肉体強化の呪印しかないと答えを出した。


 だが、これをここで使うと、他の強敵――例えばもう1人の特務騎士に遭遇した時、抗う術がなくなってしまう。


「斬風!」

「ガアアア?」


 まずい! 大剣士の体から血が噴き上がった! やはり風の魔術か? 斬り合いの最中に放たれた魔術を回避しきれなかったらしい。


 大剣士の胸元が一文字に斬り裂かれている。内臓までは達していないだろうが、それなりに深そうではあった。


 対するルファスは、実は未だにダメージらしいダメージを負っていない。押されているように見えて、直撃はきっちり避けているのだ。やはりこのまま斬り合っていても大剣士が押し負けそうだった。


「くそ! 5/4で先制持ちなんだぞ!」


 小型のドラゴンみたいなものなのだ。重量は大型魔獣に及ばない。しかし、それでも5/4のステータスを得ているということは、重量がなくてもそれだけの攻撃力を発揮するための特殊な能力やスキルが備わっているということでもあった。


 このクレナクレムにおいては、魔力や気功といったものによる強化だろう。大剣士の体を淡く包む緑色の気功は、それだけ強力なものであるはずだった。それが正面からのやり合いで押されるなんて……。


 特務騎士っていうのは本当に化け物だな!


「仕方ない……! 肉体強化の呪印! 発動だ!」


 手札から引き抜いたカードを使用する。カードから溢れ出した光を見て、ルファスが警戒するように位置取りを変えた。俺と大剣士が重なるような位置に移動したのだ。


 魔術による攻撃を警戒したのだろう。だが、無駄な警戒だ。


 カードから放たれた光は、そのまま大剣士の体に飲み込まれていった。直後、その巨体から今まで以上に激しく、緑のオーラが吹き上げる。


「ガオオオ!」

「ぬう!」


 さすがに+3/+2の強化の効果は凄まじかった。全身を緑色のオーラに包まれた大剣士の動きが、突如目に見えぬほどの速さに変わったのだ。


 今までも速かったが、段違いだ。


ルファスの顔から、それまでずっと浮かべていた好戦的な笑みが消え、驚きに目を見開くのが分かるほどだった。


「ガルオオオオ!」


チェシャ猫が能力使用後に行動不能になることを忘れていました。

その部分を少し変更しています。

チェシャ猫は10分間、行動不能になります。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] チュシャ猫本当に役に立たないねぇ
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