113話 ルファスの最期
地面に転がったルファスに、大剣士が追い打ちをかけるべく飛び掛かる。しかしその直前、大きな爆発音を残し、ルファスの姿がかき消えていた。
「な……どこに……」
勝てないと悟って自爆した?
俺が呆然としていたら、大剣士が空中を仰ぎ見る。すると、そこには空に体を投げ出されたルファスの姿があった。
どうやら風の術で自分の体を天高く跳ね上げて緊急避難したらしい。さすがに空を飛ぶような力はないらしく、自然落下し始めているようだ。
だが、その目はハッキリと大剣士を睨みつけている。
その口が何やら動いていた。術を詠唱しているのか?
見つめる俺の前で、ルファスの手の平に小さな竜巻が生み出された。本当に小型の竜巻としか言いようのない、渦巻く風の球だ。
ルファスと一緒に巻き上げられたと思われる小さな石が、その竜巻に触れた。すると、まるで砂でできていたのかのように、小石が細かく砕かれて消滅する。
ああ、あの竜巻はマズいな。
そう思った時にはもう、ルファスの叫び声が耳に入っていた。
「死ね!」
ルファスの殺意を示すかのように、その竜巻のまき散らす風がより強くなる。
「に、逃げ――」
「暴風神!」
直後、全てを蹂躙する暴風が吹き荒れた。
体に強風が吹きつけたと思った直後、自分の体が木の葉のように舞い飛ぶのが分かる。
気が付いた時には、元いた場所から20メートル以上離れた場所まで飛ばされていた。本当に「いつの間に?」という感じだ。
俺の首に乗っていたはずのチェシャ猫がカード化し、戻ってきたのが見えた。だが、それも仕方ない。それほどの爆発だった。
手を確認すると、ライフバリアが5も減っている。
ルファスの周囲が大きく抉れ、まるでクレーターのようになっていることからも、その威力が分かるだろう。
庭の木々が薙ぎ倒され、庭に面している屋敷の壁は完全に崩落状態である。
「……ぐっ!」
ルファスがガシャンという音と共に、地面に叩きつけられた。攻撃を優先して、受け身をとる余裕さえ捨てたのだろう。捨て身の攻撃だったということか。
しかし、さすがは特務騎士。化け物の評価に恥じない、存在だ。あれだけの高さから落下したというのに、まだ意識があるらしい。
「く、くはは……。今の攻撃でも、仕留められんとは……」
苦々しげな表情で言葉を発するルファスの視線の先には、未だに二本の足で大地に立ち続ける大剣士の姿があった。
全身に数多の傷を刻み込まれながらも、まだその瞳には力が残っている。あの爆風に耐え、生き残ったらしい。さすがだ。
「化け物め……っ!」
ルファスにとっては、大剣士が化け物か。まあ、そう言いたくなる気持ちも分かる。見せつけられた特務騎士の強さならば、ドラゴンでさえも単騎で狩ることが可能であろう。
その一騎当千のルファスに、正面から戦って互角に渡り合っている。いや、勝利を得ようとしているのだ。
「ガォ――」
大剣士が覚束ない足取りで、しかし確実にルファスに向かって歩みを進める。トドメを刺す気なのだろう。
ルファスは身動きが取れない。最早、完全な死に体だ。だが、その顔には何故か笑みが残っている。
「貴様らは危険だ。王国に仇為す者は、ここで絶対に殺す!」
貴様らね。つまりルファスは大剣士だけではなく、その主である俺も危険であると考えたのだろう。
いまさら何を! そうは言い切れない、不気味さがルファスにはあった。大剣士も同じように考えたのか、焦った表情で歩を進める。
しかし、ルファスの行動の方が早かった。
「魔導鎧……殲滅せよ……」
その全身から、先程の青い光とは全く違う、ドス黒いオーラが立ち上り始めていたのだ。
あれはどこかで――ああ、そうだ。混沌憑きだ。ボス虎やボスコボルトたちが身に纏っていた、あの禍々しいオーラにソックリなのだ。
遠目からでも、背筋が寒くなった。それだけの凶悪さを秘めている。
「我が命を贄に、全てを薙ぎ払え……」
まるで炉が臨界を迎えようとしているかのように、その全身が赤黒く輝き始める。
完全に自爆モードじゃないか! しかも、かなり広範囲を巻き込むタイプの!
「大剣士! 殺せ!」
「ガアッ!」
「もう遅――がっ!」
間に合わない! そう理解した直後であった。
「それは勘弁してくださいよ。隊長」
「き、さま……。アイオー……」
突如として天から降ってきた男が、手に持っていた剣をルファスの体に突き立てていた。ルファスと同じ、漆黒の鎧を身に纏った男だ。
何が起きた?




