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105話 領主館潜入

 人目につかないように路地裏を経由してゼド爺さんたちの下に向かう。


 途中でチンピラに絡まれかけたんだが、虎人の大剣士を見てスゴスゴと去っていった。顔は隠していても、その体格の良さや筋肉の分厚さは理解できる。しかも背には巨大な大剣だ。どれだけ間抜けでも敵対は避けるはずだ。


 裏路地の人間たちは大剣士で威嚇して追い払い、巡回の兵士などは隠れてやり過ごす。そうして、俺たちはやや時間をかけてゼド爺さんたちが身を潜める廃屋へとたどり着いた。


「ゼド爺さん、エミル。戻ったぞ」

「あ、トールさん。お帰りなさい! お爺さん、トールさんが戻りましたよ!」

「おお、待っておったぞ!」

「ど、どうしたんだよ2人とも。そんなに慌てて」


 そこまで俺のことが心配だったのだろうか? そりゃあ、俺は頼りないかもしれんが、もう少し信用してくれてもいいんじゃないか?


 だが、そうではないらしい。


「特務騎士が館を出たぞ!」

「はぁ? もうか?」


 俺と虎人の大剣士は、裏道を戻ってきたせいでここに辿り着くのに多少の時間はかかった。トビアの報告を聞いた兵士が早めに行動してくれていれば、領主の館に知らせが届く方が早いだろう。


 だが、特務騎士が出撃するには早すぎる。


 このタイミングでは、巨人殺しのニシキヘビの有無さえ確認できていないだろう。どう考えても、報せを聞いて即出撃を決断したとしか思えない。


「ありえるのか?」

「特務騎士は領主の配下ではないからな。自分たちの裁量で、出撃するかどうかは決められるはずだ」

「じゃあ、特務騎士が出撃を決めたのはなんでだ?」

「分からぬよ。何かの勘が働いたか、単に自分たちで偵察に出る方が早いと考えたか」


 ともかく、それが本当ならチャンスだ。夜間の内に、全てを済ませることもできるかもしれない。


「そいつら、本物なんだな?」

「あの鎧は本物で間違いない」

「そうか」

「それにだ。特務騎士が囮を使う意味がない。お主は自分で魔獣を召喚できる故、裏を探られることを恐れているのだろうが……。巨大な魔獣を召喚して囮にするなど、普通はあり得ん」


 この世界の常識として、巨人殺しのニシキヘビ級の魔獣を召喚できるような召喚士、そういるわけがない。


 小さな魔獣ならともかく、巨大な魔獣が出現したことを何かの謀略に結び付けられる者などいないそうだ。


「よし、もう少し待ってから、行動を起こそう」

「うむ!」

「わかりました!」

「ガオ!」


 その後、きっかり30分待って俺たちはひっそりと廃屋を出発した。


 向かうのは、領主の館の西側だ。館の敷地の西側には果樹などが植えられた一画があり、壁を越えて侵入した後、そこを抜けて裏へと回り込む算段である。


 そこから地下に侵入し、監視魔術を制御する魔法陣を破壊する計画だった。


「館の付近にはさすがに巡回兵が多い。気を付けるのだぞ」

「私とお爺さんは擬態がありますけど、トールさんたちはないですからね」

「わかってるさ。最悪、大剣士に囮になってもらう。その時は、済まないが頼む」

「ガオ」


 ただ、心配したような事態はやってこなかった。兵士たちはやる気も能力も低く、ゼド爺さんと大剣士の気配察知能力を駆使すれば一切発見されることはなかったのだ。


 むしろ、チンピラたちの方がよほど厄介だ。まあ、大剣士にゼド爺さんまで加わった俺たちに、積極的に絡んでくる相手はいなかったが。


「おい、ここを通るなら――いや、何でもないっす」

「へっへっへ、こんな時間に――あ、お通りください」

「ふぇふぇふぇ、良い薬が――必要ない? こりゃまた失礼いたしやした」


 だいたいこんな感じだ。


 10分ほどで、領主の館のすぐ脇にまで到達できていた。


「ここの壁を越える。向こうに下りたら、すぐに身を潜めよ」

「わ、わかった。ここは、魔術の監視がないんだよな?」

「うむ。所詮は地方領主の居城だ。魔術を使った防衛機構など、2階の一部にしかないということだ」


 まずはゼド爺さんが壁をよじ登った。外壁の上に指さえかかれば、ゼド爺さんならそのまま登ることができるのだ。


「うむ、兵士の目はないな。今のうちだ。こい!」

「さ、トールさん」

「だ、大剣士、たのむ」

「ガオ」


 俺は大剣士に膝をついてもらうと、その肩を踏み台代わりにして、何とか壁によじ登ろうとする。


「くぬ……」


 指先が壁にかかったけど、それじゃあどうにもならん。


「仕方ない。儂が引き上げる故、落ちぬようにせよ」

「わか……た」


 結局、下から大剣士に押してもらいつつ、上からゼド爺さんに引っ張ってもらって何とか壁を越えることができたのだった。


 身体能力の上がっているエミルと、元々動きの俊敏な大剣士に関しては全く問題ない。やはり、足を引っ張るのは俺だな。


「チュー!」

「こちらだ」


 屋敷の間取りをある程度把握している蔦鼠に先導してもらい、俺たちは屋敷の裏手を目指した。


 木々に身を隠しながら、ゆっくりと進んでいく。


「あの石造りの小屋。あそこから地下にいけるらしい」

「でも、兵士がいるぞ」

「うむ。騒ぎが起きぬように、一瞬で仕留める必要がある」

「……殺すのか?」

「当然だ」


 あっさりしたものだ。エミルもゼド爺さんに賛成であるらしい。


 正直、盗賊は犯罪者だし、明確に敵であった。だが、兵士は領主に雇われているだけである。殺すことに抵抗がないと言えば、嘘になる。だが、ゼド爺さんに叱責されてしまった。


「領主の非道を知っていながら仕え、その権力を笠に着て横暴に振る舞う奴らだ」

「それは……そうだが」

「領主に敵対しておいて、今さら遠慮はするな。この期に及んで綺麗ごとを抜かしていれば、自分や仲間の死につながるぞ」

「そう、だよな。すまん」


 下っ端だとしても、ワフを攫っていた奴の仲間だ。俺の敵なのだ。


「……あの兵士をどうやって、殺す?」

「方法は幾つかある」


 ゼド爺さんが擬態を使って接近し、暗殺をする。もしくは蔦鼠で顔面を拘束して声を出せないようにして、仕留める。あとはチェシャ猫の能力を使い、行動不能にさせてから倒すかだろう。


「蔦鼠での拘束は博打要素が強い」

「だな。それに、できれば魔力は温存したい」

「なら、儂が行こう。蔦鼠にも働いてもらうぞ」


 やったことは単純だ。蔦鼠があえて草むらから顔をのぞかせて、兵士の注意を引く。一見すればネズミにしか思えないから、兵士が必要以上に警戒することもない。


 その隙にゼド爺さんが背後に回って、首をかき斬った。


「死体は袋に収納しておこう」

「ああ」


 ゴーガンの店で購入した、大きめの拡張袋に、兵士の死体を仕舞う。この袋、もう他の用途には使えんな……。


次回は、2/1更新予定です。

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