104話 巨人殺しのニシキヘビ
町から出発して2時間ほど経った。町の灯がかなり遠くなっている。遠すぎもせず、近すぎもせず、悪くない距離だ。
「大分歩いてきたし、この辺でいいか。ここでいくつかの道が交わってるよな」
「ああ、それなりに重要な場所だ」
「よし」
俺たちがいるのは、街道と複数の支道がぶつかっている交通の要衝だ。地球であればここを中心に村ができていたり、宿くらいはあってもおかしくはない。
ただ、クレナクレムには魔獣がいるので、高い壁のない場所に家は建たないのだろう。驚くほどに、ひと気がなかった。
俺はトビアに下がるように伝えると、カードを手に取った。
「特務騎士を誘き出すほどの魔獣を召喚するって、本当に可能なのか?」
当然、トビアには作戦を伝えているが、半信半疑であるらしい。だが、俺が多くの魔獣を従えている姿を見ているので、完全に疑うこともできない。そんな状態だ。
「まずは魔力を生み出さないとな。大地の魔力を使用……。さらにもう一枚使用」
万能魔力を温存するために、手札にあった大地の魔力2枚を使用する。これで使用できる緑魔力は6。ニシキヘビを召喚できる。
しかも試練達成だ。
マナカード5枚使用:ポイント1
魔力は入手できなかったので、今はいい。それよりも重要なのがドローだった。最初のドローは超トラバサミ。強力だが、対人戦闘では中々使い辛い。巨大な魔獣相手だったら心強いんだがな。だが、2枚目の引きが問題だった。
「ここでこれを引くかよ」
比翼のワイバーン モンスター:亜竜
黄5 3/2 UC
飛行。フィールドに出た時、3/2飛行のワイバーンを生み出す。
俺が引いたのは、超強力な飛行戦力だった。なんとワイバーンを2匹も呼び出すことが可能なカードだ。能力的には、バルツの森の見張役と同じであった。
絶対とは言えないが、こいつらなら人を乗せて飛べると思われる。なにせ、カードに描かれたワイバーンは、牛を足に掴んで飛んでいるのだ。人間の重さならどうとでもなるだろう。
これで逃走用のカードがさらに手に入ったな。ペガサスとワイバーンに分乗すれば、全員が空から逃げられるかもしれない。
ただ、魔力が足りなかった。
比翼のワイバーンが黄色5。伝令のペガサスが黄色3。合わせると万能魔力が8必要なのだ。
しかし、今は7しかない。鉱石発見の魔力を1つは黄色にしておくべきだったか? いや、それでも結局ニシキヘビの召喚に万能魔力を使うことになり、魔力は足りなかったか。
「試練達成を狙って魔獣を狩っている時間はない。後はその場に応じてどっちを使うか判断するしかないな」
とりあえず、今はニシキヘビが優先だ。
「トビア、馬が逃げないようにしていてくれ」
「わ、分かった」
トビアが少し離れた場所で馬の手綱をしっかりと掴んだことを確認し、俺はモンスターの召喚を行った。
「召喚、巨人殺しのニシキヘビ!」
「な、なんだこりゃあ!」
トビアが叫んでしまうのも分かる。何せ、俺の目の前には今まで見たこともない、巨大な魔法陣が描き出されているのだ。その直径は10メートル近いだろう。
その魔法陣から巨大な影が姿を現す。
ズズズズ!
自分で呼び出しておいて今さらだが、これだけ大きな蛇の頭部っていうのは、かなり恐ろしいものがあるな。
トビアは暴れる馬の手綱を必死に掴んでいるが、自身も顔が真っ青だった。見かねた大剣士が手助けに入っている。
そのまま凄まじい勢いで巨大な体をうねらせながら、巨大な蛇が魔法陣から押し出されるように姿を現す。のたうつ巨大な蛇身に打たれ、地面が揺れていた。
非常に長く感じたか。実際は10秒ほどだったろう。そうして、巨人殺しのニシキヘビが全身を夜空の下に晒していた。
高さ5メートルほどもあるとぐろを巻き、鎌首をもたげる姿はまさに大魔獣の風格がある。規則的に並んだ鱗に月光が反射して妖しく煌めく様は、神々しくさえあった。
二又に分かれた細い舌をチロチロ出しながら、こちらを見下ろす巨大蛇。それを見てトビアが悲鳴を上げた。
「う、うわあぁぁぁぁ!」
巨人殺しのニシキヘビ モンスター:爬虫類
緑6 4/5 C
再生(緑3)
「シュルルル」
「ニシキヘビ。今の状況は分かっているか?」
「シュル」
よし、ちゃんと理解できているようだ。こういった現状への理解力が、カードの魔獣の大きな利点だよな。
「お前はここで暴れる役だ。頼むぞ」
「シュルゥ!」
「ト、トト、トトト」
「まあまあ、そんな怖がるなって。こいつは味方だよ」
「シュル」
俺がニシキヘビに近づいてその鱗を撫でる姿を見て、トビアも多少落ち着いたらしい。未だに青い顔だが、怯え以外の感情が戻ってきたのが分かる。
「す、凄い! こ、これほどの魔獣を喚び出すことが人間に可能だなんて……」
「トビア。町に戻るぞ」
「あ、ああ。そうだな……」
未だに衝撃から抜け出しきれていないトビアを促して、俺たちは来た道を引き返す。
「あ、あいつがいれば正面から戦っても勝てたんじゃないか?」
「分からん。でも、特務騎士はメチャクチャ強いんだろ? しかも2人いるらしいし。だったら極力出くわさないほうがいい」
「そうか。それもそうだな」
「それよりも、この後はトビアに働いてもらうんだ。頼んだぞ?」
「大丈夫だ。演技なんかしなくても、あの巨大な蛇の衝撃が残ってるからな」
その言葉通り、町まで駆け戻った体のトビアは、この先に巨大な蛇が出現したという報告を臨場感たっぷりに兵士に伝えた。
「な、ほん、本当かっ!」
「本当だよ! きっと樹海から来たんだ! 町にくるかもしれない! 今、強い騎士様がいるんだろ! 早く報告してくれ!」
「わ、分かった!」
さすがに冒険者であるトビアの証言は、それなりに重要視されるらしい。
「待て!」
「なんだ!」
「町に入る手続きをしてくれ」
「あ、ああ。そうだったな」
トビアの焦った様子が伝染したのだろうか? 焦った様子の兵士は俺たちのチェックなど適当に済ませて、詰所の仲間の下へと駆けていった。
さて、これで特務騎士が動いてくれればいいんだが。その前にニシキヘビの姿を確認するための偵察要員が出発するかな?
トビアには兵士の詰所に残ってもらうことにした。兵士に説明を求められるかもしれないし、彼らを急かして報告を少しでも早く領主に届けさせるためだ。
俺は、路地裏で下ろした大剣士とともに、ゼド爺さんたちの下へと急ぐ。
「顔が出ないようにしろよ」
「ガオ」




