103話 作戦の開始
「日付が変わったか」
俺の目の前で勝手にバインダーが出現した。昨晩使用した鉱石発見の効果が発動し、生み出す魔力を何色にするか問いかけられている。
つまり、日付が変わったということだ。そして、それが作戦開始の合図でもある。
「まあ、その前にこっちを決めないとな。うーん、緑にしておくか」
伝令のペガサス用に黄色を選択しようかとも思ったが、そっちは万能魔力でもどうにかなる。手札には緑カードが多いのだし、緑の方が便利だろう。
俺が緑を2マナと念じると、小さな魔法陣が出現し、中から2つの石が転がり出た。
「よっと!」
そのまま地面に落下する直前、奇跡的にキャッチすることに成功する。それは単なる石ではなく、緑色の不思議な色合いの石だ。
手の平の中の緑石を見つめていると、一瞬淡い光が立ち昇った。手の甲を確認すると、緑魔力が加算されている。
しかし、緑石はそこに残ったままだった。鉱石発見の名前の通り、魔力が籠った鉱石が生み出されるらしい。
「まあ、これはとりあえず袋に仕舞っておこう」
緑魔力が得られた以上、特に用事はないが、何かに使えるかもしれないしね。
「準備は済んだかトール?」
「ああ。そっちはどうだ?」
「儂らも問題ない」
「バッチリです」
ゼド爺さんとエミルは、顔の目以外の部分を黒い布で覆い、足元は動きやすいブーツを履いている。手には革製の手袋をつけ、隠密活動モードだった。
「じゃあ、ワフの救出といこうか」
「うむ」
「はい!」
昼間のうちに、蔦鼠を使っての探索は済ませている。それでワフの姿を発見することはできなかったが、居場所の当たりは付いていた。
蔦鼠が侵入できなかった唯一の場所。つまり、魔術による監視網が張られた、領主の生活空間がある館の2階にワフは囚われている。
俺たちの作戦はこうだ。まず、俺はトビアと一緒に町を出る。そして、巨人殺しのニシキヘビを召喚するのだ。そこで盛大に暴れさせて、それをトビアが通報する。
これで、特務騎士が出張ってくることはほぼ間違いないらしい。領主と特務騎士の関係はいまいち分からないが、強力な魔獣が出た場合は彼らが対処することになっているという。
実際、数日前にも似たことがあったそうだ。その時は少し大きめの猪の魔獣だったというのだから、それよりも圧倒的に強いニシキヘビが出現すれば、確実に特務騎士が動くだろう。
ゼド爺さんとエミルは領主館を監視して、特務騎士たちが本当に出撃したかを確認する役目である。これも、昼間の内に領主の館を視界に収めることができる場所を発見していた。
今は廃屋となっている屋敷の屋根裏である。町を捨てて出ていった商人の邸宅だった場所だ。今のゼニディアには同じような場所がたくさんあり過ぎて、より取り見取りだった。
そして、特務騎士が出撃して館の警備が薄くなった後、ゼド爺さんと合流した俺たちが侵入する作戦だった。
巨人殺しのニシキヘビを囮にするのではなく、肉体強化の呪印で強化して正面突破することも考えたのだが、それでは特務騎士に鉢合わせする危険性が残る。しかも、ワフの居場所が分からない以上、館を不必要に破壊するのは怖かった。
それどころか、巨大なモンスターが暴れ回れば町に被害が出るかもしれない。それは避けたいのだ。
「じゃあ、またあとで」
「うむ。しっかりやるのだぞ」
「頑張りましょうね!」
ゼド爺さんたちを残して、俺は静かに宿を出る。そこではトビアが待っていた。
「待たせた」
「いえ。では行きましょうか」
「頼む」
町を出る名目は、町で雇った冒険者を護衛にしての夜の採集である。実際、夜にしか出現しない魔獣や、夜にだけ花をつける霊草もあるので、おかしい話ではなかった。
トビアがわざわざ借りてきた荷馬車が、採集という言葉に信憑性を持たせてくれる。
まあ、これにはもっと大事な役目があるんだけどね。
俺たちはやる気のない兵士に目的を告げ、夜間税を支払って外に出る。こんな時まで税金と賄賂が必要になるのだから、外部から人が訪れなくなるのは当たり前だろう。
あまり町から近すぎると特務騎士がすぐに戻ってくる可能性もあるので、少し離れないといけない。俺たちは、特務騎士がニシキヘビに倒される可能性は低いと考えていた。
特務騎士はドラゴンとさえ戦うという話だし、いざとなれば逃げて援軍を呼ぶことも可能だ。ニシキヘビが特務騎士たちを仕留めきれるとは思えない。しかし、そう簡単に逃がすとも思わない。それなりの時間、戦闘は続くはずだ。いや、続いてくれなくては困る。
「トールさん、何か来るぞ!」
しばらく平原を歩くと、トビアが警戒する様子で足を止めた。
「大丈夫だ。狼が反応している。俺の仲間だ」
俺が連れてきたのは、連絡役の群狼と、いざという時の戦力としてチェシャ猫だ。ただ、群狼で呼び寄せる必要はなかったらしい。
「ガオ」
「よくきてくれた大剣士」
濃密な闇の向こうからゆっくりと姿を現したのは、町の外で待機させていた魔獣たちである。迫力があるその姿にトビアがやや後退るが、俺にとっては頼りになる戦力だ。
俺は虎人の大剣士たちに、今後の作戦を説明した。
「虎人の大剣士は、これを被って馬車に乗ってもらう。獲物扱いで町に入れるからな」
大剣士に長袖の服を着せ、外套を被せる。これで遠目には人間に見えるはずだった。夜であれば、なおさらだ。
町に入る時には黒い布を被せ、ロープで縛って布がめくられないようにする。その状態で馬車の荷台に横たわれば、大きな荷物にしか見えない。
兵士のやる気のなさだったら、わざわざ布を取れとは言われないだろう。言われても、賄賂を渡せば問題ない。腐りきった兵士のモラルが、今は役に立ってくれるのだ。
「残った奴らは今から呼び出すニシキヘビの援護だ。もしあっさり負けそうなら、連携してくれ。互角の戦いが長引くようなら、隙をついて攻撃するんだ。絶対に1時間は町の外に足止めしてくれ」
「ブン!」
「ガウ!」
後はもう少し進んだところで、巨人殺しのニシキヘビを呼び出すだけだ。
お仕事が少々忙しくなってまいりました。
今後の更新ですが、20、23の次は2/1更新を予定しております。
お待たせすることになり、申し訳ありません。
変更がある場合は、活動報告にてお知らせいたします。




