第1話 鋼の刃は急転直下の烈風と ⑧
今日はずっと天気が怪しかったが、昼休みになって雨が降ってきた。慧恋はいつものように屋上で過ごそうと思っていたが出鼻を挫かれた。シロンとさっきの授業で別れてから、ずっと廊下を歩いている。今頃シロンと誘里はどこかで談笑しているはずだ。彼らも彼らで仲がいい。慧恋は持参した弁当を探す場を探している。ヒュームは食事を摂らない。ヒューム二人が世間話をしているのを傍で眺めながら弁当を開くのは気まずかった。もちろんシロンも誘里も気にしていないのだが。だからいつもは屋上か、いい場所を見つければそこで。もしくは、ある場所を安定の休息所としているところもある。
「いや、さっそく動くべきかもしれないな」
慧恋は共通教育棟の長い一階廊下を歩いていた。超広大な星嶺学園でもかなりの大きさの建物だ。専門的過ぎない授業と講義はここで行われ、会議室や食堂などもそれぞれ広い。講堂だと仮想ディスプレイが空間を大きく使うし、実際に武装デバイスを運用しても大丈夫、な部屋も設けてある。だが毎度大規模な講義が行われるわけでもなく、実際に使われることが少ない部屋も多い。
高度成長から二世紀以上経て便利に、効率化されたといっても、ひとが作ったものはどこか抜けている。だけど必要に迫られてできたものだ、全部。もしも学園を、人を超えて久しい超高度AIなどに設計させたら面積は半分くらいで済んだかもしれない。だがそれを、シロンのような超高度ヒュームに尋ねたら、そうはならない。気まぐれや、かもしれない、などを含んで作ってしまうだろう。そういうものもいるのだ、人間のように。
「人間的に考えても、機械的に考えても、意図が掴めない。ああいうヒュームは厄介だ。それが単に想像の及ばない人間らしさだからなのか、意図が嘱託されているからなのか」
慧恋は人に尾行されていることに気付いていた。
直前の授業終わりで講堂を出て、屋上に行くため階段へ向かうまでは自意識過剰ということにできた。だが降雨を端末が知らせてくれて、少し引き返したときにソレは立ち止まって、慧恋との距離を一定に保った。
「……ストーカーという答えは出したくないなぁ、昨日のことも含めて」
機士を輩出する学園だ。尾行を察して撒くくらいの技術は誰でも身につけている。ソレの尾行はバレバレすぎるのだ。
そのとき、右人差し指に軽く締め付けられるような刺激を感じる。指輪型の端末にメッセージが届いたのだ。慧恋はそれを確認するために、廊下の端で立ち止まって端末を操作する。ソレも立ち止まったことを横目で確認しながら仮想ディスプレイを展開する。宛名はシャーリィだった。
「……いろいろとタイミングいいな」
そう呟きながら慧恋は歩き出す。今来た道を。目的地は決まった。そこは共通教育棟とは別の建物にある。
慧恋が急に振り返ると、尾行していた人物――剣龍アルトが慌てて近くに教室に入るのが見えた。慧恋はその教室を堂々と通り過ぎていった。




