第1話 鋼の刃は急転直下の烈風と ⑤
そもそも、足手まといをアルトは何故わざわざ作ったのかということになる。だがそれは違うのだ。アルトは慧恋を助けただけ。つまり、危機を脱して疑念を生んでしまった慧恋のその疑問とは、アルトはどうして自分を助けたのか。当初はそれを口々に尋ねていたはずだが、雰囲気と状況に流されて答えを聞けずにいた。
「どうされました?」
本意ではなかったとはいえ助けてもらって、真意は不明だが健気にも自分を守るこのヒュームに気は進まなかったが、今聞いてしまおうと思った。
「助けてくれてありがとう」
「いえ、これぐらいなんでもありません」
「君は何だ」
「今日は6月5日でしたよね」
「あぁ……はぁ?……おい、ふざけている、のか……?」
アルトが笑顔なら、またあしらわれたと感じただろう。真面目な顔なら、何か裏があるのだと感じるはずだ。
アルトは困った顔をしていた。何が何だか分からない。慧恋も何故だか、申し訳ない気持ちになる。
そうして視線をそらした慧恋の目に奇妙なものがうつる。それはアルトの右手にあった。身の丈程もあり幅広の、大剣だ。激しい戦闘のためか、ヒビが入り、白い刃が崩れ落ちている。
「剣、壊れてしまったのか。どうやら立派なもののようだし、落ち込むのも分かるが」
壊れてしまったのは、慧恋を守るため戦ったからだ。もしアルトがオーナーにこのことで叱責を受けることとなれば、その原因の一端は慧恋にある。オーナーと出会い、頭を下げることが礼儀のはずだ。アルトの行動がオーナーによるものならば、それは二つの意味を持つ。謝罪と、感謝だ。
「……なんだ、それは」
それを見たとき、慧恋は驚きのあまりうまく声がだせなかった。慧恋は視線を動かしていない。それは、大剣の中にあった。それはまた大剣だった。大剣の中には大剣があった。白い刃だと思っていたものは鞘か、もしかしたら中の大剣を隠すための何か、だったのかもしれない。さらに中の刃には、黒い帯が、包帯のように巻かれている。隙間からは『AFSw1X-2』という文字列が。おそらくこのデバイスの型式番号。慧恋にはそれに覚えはなく、そんなことはどうでもよかった。
「……その武器はいったいどういう仕組みだ。日本刀ではないんだぞ、その厚さの金属が、金属の塊を斬れるはずはない。高熱化か、高周波振動という仕組みがある以外はな。だから対機械のデバイスというのは、強力なれど重くなるからヒュームでの運用が多くなる」
慧恋は、混乱した頭を整理するように知識を言葉にした。
「いや、そんなことはいい。私が訊きたいのは、ただの装甲が表面にあって、中身は何かに巻かれていて、戦闘用エームを圧倒する威力が出るのはどういう仕組みなのか、ということだ……!」
疑問が、疑念が、感情も乗らない声で次々出てくる。
外側の白い刃が何の機能もないガラクタであるなら、中の刃が中枢だ。刃で敵を斬るという以上、内部からエネルギーの類を伝達しなければならない。だがそれは黒い帯で妨げられていた。
「慧恋さまはヒューム科所属と伺っていましたが、デバイスにもお詳しいようで」
「話を逸らすなよ、アルト。……まさかとは思うが、その剣は。……いや、お前は、」
慧恋はそこで言葉を切り、顔をしかめる。誰かが電話をかけてきたことを指輪からの微細な刺激で知ったからだ。
「…………、どうした、シャーリィ先生」
雰囲気も状況も、妨害するものはないと思っていたが、そもそも自分がピラーにいるのは誰のおかげかということを忘れていた。
「……あぁ、ちょっと口頭では伝えにくいのだが……私は無事だ。……あ、いや、ちょっと待ってくれっ。……はぁ? 貴女それでも教師かよ、って……切れた」
賑やかに教師と通話している慧恋を見て、アルトは今日よく見る笑顔をしていた。そこへ半眼で睨みつけるように慧恋が言った。
「……いいか、アルト。すぐ戻る、いや、もしかしたら戻るのは私とは限らないが、ここを動くなよ。いろいろ訊きたい事がある」
「えぇ、いってらっしゃいませ、慧恋さま」
慧恋は名残惜しげにアルトの方を何度も振り返ってエレベーターを操作してシャーリィのもとへ向かった。




