第2話 切り裂く翼に空高く光が奔る ⑭
開きっぱなしになった車内に風が吹き込み、慧恋の髪を揺らし服を乱す。それを気にも留めず視線はアルトに注がれた。眩しさに目を細める。
足元には、針型デバイスが円を描くように何本も突き刺さっていた。それと結ぶように、同じものが車両の切れ目へと、アルトへ届けるように伸びている。
「私のデバイス、Scar’s crownだ。これだけばら撒けば、さすがにお前に届いているだろう?」
「慧恋さま、前方車両へ退避してください」
「……そうはいかない。これらは末端にすぎないからな、私から離れすぎるとまともに機能しなくなるんだ。そうだな、一つ受け取っておけ。中継地点は多いにこしたことはない」
ごく自然な動作で、アルトへ針を撃つ。それをキャッチすると、じゅうぶん過ぎるほど鮮明だった視界が、もっとはっきりした。
「危険です、逃げてください」
針を握る手に力が入る。必死さを訴えるために顔を作る。それを意識して、針が刺さったような感覚がした。
助けるために来た。自分が助ける、という結果のためだけにきた。役目を果たせなかったら道具は終わりだ。
「成功させればいいだけだ」
「しかし……っ」
「アルトがこの事件を終わらせるために動いているというのなら、私はここを動くわけにはいかない。…………ひとの機士の責任だ」
アルトは思わず、謝罪の言葉を浮かべそうになる。すぐに思いとどまった。機士になることが間違いだったということになってしまう。慧恋を助けるという欲求を否定してしまう。それは駄目だ。しかし一瞬頭をよぎってしまったことは記録に残っている。それは、責められている気がして思わずあやまってしまったという、人によくある現象だろうと片づける。
慧恋は機士としての役目を全うしようとしている。所有物であるアルトに与えられた仕事は、間接的に慧恋のものになる。慧恋がアルトを使って事件解決をはかるという構図だ。ただヒュームには意識があるし、他のひとにも使用可能だ。
恐怖とか不安を堪えて、成功確率を上げるための行動だ。勝手に機士にしてしまったことも怒っているだろうに表に出さず、昨日や今朝のことがあったのに自分に普通に接する。それはおよそ、今どきのヒュームをしても珍しい、ある意味で人らしい。
「わかりました。お願いします」
頷くと頷き返してくれた主と視線を外して、意識を爆弾に向けたとき。
アルトは見た。視界の端にいれた、くらいだろうか。
慧恋の頬をつたって、透明な光が流れた。
それが、人間にできることは何でもできるとされるヒュームにできないことの一つである、ものなのかは分からない。気のせいかもしれない。はっと気づいて反射的に顔を上げようとするのを止めたからだ。そうしたら慧恋は気付くだろう。もしそうだとして、なんと声をかけたらいいのか。
触れたら爆発しそうな、これも爆弾だと、思った。




