第2話 切り裂く翼に空高く光が奔る ⑬
「――――機士団です。只今から車両に仕掛けられた爆弾の処理を行います。後部車両から順に行いますから、なるべく前方車両へ固まっていてください」
アルトはそれだけ言って、車両に突き立てたカルンウェンハンを引き抜く。すぐに人の気配が前方車両へ集まっていくのを感じる。ふわりと浮き上がるように車両から離れて距離をとる。翼は相対機動に任せることで着かず離れず、一定を保って飛ぶ。
「ふぅ――――っ」
長めに息を吐き、気持ちを整える仕草をとる。這うように姿勢を変えさせて車両の底を覗き、異物を見つける。爆弾だろうか。各車両に一基ずつ仕掛けられているそれら同士を物理的に繋げるものはない。電波障害も鑑みて、起爆装置は独立しているはず。
短剣を前に、手渡すかのように構える。
「Spread-Link System→Carnwenhan、アクティベート」
誰にも聞かれない声。
手を広げると、カルンウェンハンが碧色の結晶部分を光らせながら浮き上がり、アルトに付き従うかのように滞空した。
これを飛ばして、貼り付けられた爆弾を削ぎ落とす。その後、風で包み込んでトンネルチューブを切り開いて外に出す。雑極まりないこんなものが作戦といえるのか。起爆の条件さえ分からない。速度感知式なのか。干渉を感知するのか。時限式か。
一人ずつ担いで救出する方法もあったが、それは何時間かかるだろうか。混乱も必至だろう。狙われたのが生徒の命ならばこれを許すはずもない。どこからか狙撃されるかもしれない。
「考えても分からない……フレーム問題など、どうでもいい」
アルトがここにいるのは、選ばれた一つの方法を遂行するためだ。どんなタイプの爆弾であろうが、起爆するより先に安全なところへ飛ばせばいい話だ。
「行けッ!」
短剣が瞬間で加速する。碧色の軌跡を残して車両の底へ潜り込む。まるで小さな戦闘機か、意思を持つ自由な動きは飛虫のようでもある。
そして。アルトの顔が焦りに歪むのとほぼ同時に、爆弾は激しい光と音を伴って役目を果たした。煙と埃と砂礫と火の粉を嫌って腕で顔をかばうが、すぐに下ろす。それらはアルトを避けるように割れて後ろへ流れていく。
左腕を前に掲げ、プライウェンⅡからカルンウェンハンを全て射出する。空中で変形すると、車両を連結部分で切断する。慣性が途切れた鉄塊が迫る。
射出された二基が翻り、アルトが投げたもう一基を伴った乱舞が、迫る壁をくりぬいてアルトが通り抜ける穴を作った。一瞬で通り抜けた車内の景色。床に大穴が開き、煤けて変色し、シートは燃えている。幸いなことに、被害は一車両でとどまっていた。
眼前の、“新しい最後部”車両。切れ目から中が窺える。誰もいない。より前方へ向かっていったのだ。何度かなら、失敗できる。だが許容量を超えたときが、終わるときだ。それを鑑みても、もう失敗できない。
四基のカルンウェンハンを漂わせたまま、アルトの動きが止まった。
絶対に成功させなくてはならない。
――思考停止したわけではない。枠組みは、人のように曖昧になっているからだ。それは人並みの汎用性を与えるが、機械的に固定された解は導きにくい。
さっきの爆発の直接な理由は、カルンウェンハンが爆弾に衝撃を与えてしまったからだ。感覚器の役割も備える短剣を介して、目標は視えている。だが、通信を妨害する装置と、リニアの超強力な磁場が、狙いを狂わせた。原因がシンプルだ。アルトだけがいくら気を付けても、限界があることだった。
ものの使い道が、間違っている。
「これを使っている今、感情…………は、消せない」
あの爆発は、車両だけでなくレールも破壊した。環状線を進む車両は、いずれあそこを通過する。通過しようとして、脱線する。ここまでの事態になりながらも、車両は緊急自動停止しなかった。
回数制限だけじゃない。時間制限までもできてしまった。絶対に成功させなければいけない。それが、逆に次の行動をためらわせた。
だが、やらないわけにはいかない。できる限り集中して、精度を上げようとする。しかしいくらやっても無理だ。変わらない。ノイズがかかったように、細部まで視れない。
いろいろな問題が押し寄せてくる。半ばやけくそな気持ちで、次発を放とうとした、そのとき。
視界がクリアになった。間近でじっくり観察しているくらいに、精細だ。
そして気付いた。自分に情報が送り込まれているのだ。
何処から。通信障害で、まるで人間のように何も分からなかったというのに。
その答えは上にあった。アルトはじっと車両の底を見ていたから、つまり車内だ。
誰かが戻ってきていた。位置としては、爆弾の真上くらい。
危険だ。機士として、避難を促す必要がある。
車両にあいた穴から、その姿を見た。
その少女は不敵に笑っていた。
「おはよう、アルト」
もうすぐ昼だというのに、少し外れた言葉だった。だけど二人が目覚めて最初に交わす言葉だから、これでよかった。
「……おはようございます、慧恋さま」
痛みを堪えるような顔で、アルトが言った。




