第2話 切り裂く翼に空高く光が奔る ⑦
「目覚ましをセットしておいたんだよ、私の寝起きが悪いのは自覚してるから何重にも、だ。ことごとく解除されたよ。質の高い睡眠には邪魔、だそうだ。だったらいっそ寝ないでいようと思ったら、眠れませんか、一緒に寝てあげましょうか、と。言い寄られそうになるものだからベッドに避難し、睡魔に負けた」
抵抗はことごとく失敗していた。慧恋の顔には疲労が色濃く出ていた。アルトは本音はどうあれ安眠良眠長眠プロジェクトと謳い、慧恋の早起きを阻止し、慧恋もそれに抗い続けているためだ。そのおかげでアルトも強情だった。ここまできて、面と向かって止めてほしいとも言えない。
「彼氏の愛が重すぎるって話かしら?」
「誰が彼氏だ、誰の」
昼休み、快晴だったが慧恋はシャーリィの部屋にいた。
「そもそも、先生は知っていたんだろう、アルトがあんなことしでかそうとするの」
「私はただ、コルブランドを使いたいって頼まれただけよ。それにしても面白いことになったわね」
「私には面白くない。困ってるんだ」
「眠いんだったら、アルトにされるままになっちゃえばいいのに」
「言い方」
どうにも慧恋の周りにはアルトを彼氏扱いしたがる傾向がある。あくまでアルトは慧恋の所有物であるというだけなのに。
シャーリィが少し距離をつめるが、慧恋に反応はない。
「イヤなの?」
「……気持ちは嬉しい。それにああされるのは好……き、嫌いじゃない」
「じゃあどうして?」
「……は、恥ずかしい、し……」
「嬉しいんじゃなかった?」
「見られるのが恥ずかしいんだっ!」
「二人っきりならいいのね」
「だっ、だぁーかぁーらぁ!」
真面目に話を聞こうとしてくれていると思ったが、いつもどおりからかわれていた。
「アルトが人に見えるからね。もしあれが純戦闘用みたいな、ごつい外見だったら、たとえお姫様抱っこでも平気だったのにね。まー純戦闘用は違法だけど」
「そうかもだが……あ」
「どうかした?」
「スカートはどうにもならん……」
一応、制服は男女どちらのタイプを着ようが自由にはなっている。制服であれば、いいのだ。季節も問わない。しかし慧恋は基本的にスカート派だ。
「……とにかく、どうしてもっていうなら、助けてあげないでもないわ」
「できるのか?」
「誰があの子つくったと思ってるの」
アルトが被造物であることを強く意識させる言葉に、腹が冷める思いがした。
「……アルトを、その。変えてしまうようなことは」
「しないって。あなたが好きなのはいまのアルトだものね」
「からかってー!」
「あ、そうだ」
シャーリィがいたずらっぽく微笑む。少女じみているのにへんに妖艶だった。
「……どうした?」
「助けてあげるから、キスしてくれる?」
「この話はなかったということでお願いします」
感情を全部失ったように無表情になった慧恋が立ち上がった。
「じょ冗談よー! ほんの冗談! そっけなくしないでー!」
「ええい離れろ! これではどちらが大人か分からん!」
決着は騒々しくついた。




