第2話 切り裂く翼に空高く光が奔る ⑥
「待ってくれ、帰りは急ぐことはないのだし、飛ぶ必要はなかろう」
「ええ、でも、デバイス、持って帰らないと明日も使えませんから」
明日使うことがないのが最善なのだが、と慧恋は強く思った。言わなかったがじとっと睨み、伝われと念じたがアルトはけろっとしている。溜息をつく。
朝、飛んでいるときはそのシチュエーションに浮かれていた。校舎の近くに降り立ったときまで、それがいかに恥ずかしいプレイだったかに気付かなかったのだ。穴を掘ってでも隠れたい恥ずかしさに、むしろ空を意識して、慧恋はそばにいるはずの翼にすがろうとしたが、そのときには遥か彼方だった。
二人は機士団棟近くのファクトリー郡の間を縫う道を歩いていた。おもにヒュームやデバイスの生産工場が乱立しているが、なかには廃工場もあってしまうくらい、管理は行き届いていない。なかばゴーストタウンと化していた。
ある建物の前で立ち止まる。シャーリィのラボだ。教師に限らず、デバイスやヒュームをつくって売る、技術だけ売る、といって収入を得るものは少なくない。個人用のデバイス製造のためなどにも、この辺りの建物は利用される。
門をこえた先、建物には入らずガレージのような質感の場所へ行く。慧恋はこの場所には何度か来たことがある。
アルトが近づくと壁が開き、中には寮の屋上でみたような光景が広がっていた。全体的にクオリティはあがっている。慧恋は自然とうんざりしつつもう諦めていた。
アルトがその中へ歩いていくのを無言で見送る。あのサイズのデバイスは持ち歩くのに適さないから、学園近くのここに置いてあるのだ。慧恋は、ここでコルブランドを装備したアルトに、また抱えられて飛ぶのことになる。
それ自体は悪いことではない。通学手段に関して、学園は既存の全自動車の利用は認めないが、自分で開発・活用するのは推奨している。電車に乗りたくないなら工夫しろ、ということだ。
「……いやそうじゃないくて」
悪くない、というのは感触のことだ。えもいわれぬ高揚感、痺れるような刺激はいい。だがあれを誰かに見られるのは死ぬほど恥ずかしい。浮かれすぎていた。それにこの短いスカートであの姿勢で上から、なんて。絶望的である。それを失念しているなんてどうかしていた。
しかし、慧恋にはこのことについてアルトを強く叱るつもりはなかった。責任は自分にあると考えてのことだ。これまで自由にさせすぎた。それにアルトの意思によるものならば、それをつぶしたくない。ここでそうしてしまえば、アルトが自発的なことをやらなくなってしまうという恐怖感があった。
だから自分で抵抗することにした。




