オレンジマフラー④
彼女の意外な一面は、
レッド+イエロー=オレンジ
―オレンジマフラー④
「本條くん、早すぎない?」
静かな教室に、派手に鳴り響く引き戸の音がしたと思ったら、現れたのは沢渡だった。
「はよ、沢渡」
「あ。おはよ」
じゃなくて、まだ7時半だよ、とノリで返してしまった挨拶の後に沢渡は続けた。
「沢渡も早すぎ。お互い様じゃん」
苦笑混じりに俺は言う。
あたしよりも本條くんのほうが先でしょ、とむくれる沢渡には、ただ早く起きたんだ、とだけ応えた。
「あたしも。早く起きすぎてヒマだったから、いっそと思って学校来たの」
「ああ、俺もそんな感じ」
「遠足が楽しみで寝れない、って言うのの逆パターンかな。早く起きちゃうなんて」
子供かなー、あたしたち、と沢渡は笑う。
俺はと言えば、そうかもな、などと適当に相槌をしておいた。
文化祭当日故にたいして中身の入っていない鞄を廊下側の自分の机に引っ掛けると、彼女は窓際にある俺の席まで足を運び、隣の席に腰掛けた。
「なんか、初めてだよね。本條くんとこんなに話すのって」
「沢渡って、案外おしゃべりなんだな」
「何それ。おしゃべりでがっかりってこと?」
沢渡は僅かにムスッとした。
別にがっかりした訳じゃない。
意外だっただけだ。
これまで沢渡と交わした会話は決して多い訳じゃないけれど、それらはみな、比較的淡々としたものだったように思う。
「だから、意外な一面、みたいな」
俺がそう言えば、それって褒め言葉なのかなあ、と沢渡は首を傾げた。
それでも、ふと笑って、
「まあ、女の子って大抵おしゃべりなのよ」
と続けた。
「ねえ、本條くん」
突然、改まったように呼ぶ彼女に目をやると、その視線は窓の外を向いていた。
「夕焼けって、綺麗よね」
まるで今も夕焼けを見ているかのように沢渡は言う。
俺が何も応えないでいると、彼女は構わず続けた。
「あたし、看板造りながらずっと思ってたの。お昼の太陽のある青空や、月の見える夜空もいいけど、その間にある夕焼け空って儚くて素敵だなあって」
相変わらず窓の外を見つめたままの沢渡。
俺も数日、同じように感じてたと言ったら彼女はどんな顔をして、何と言うのだろうか。
「青空や夜空に比べたら、夕焼け空でいる時間って短いじゃない?だからそんな風に感じるのかなあ」
そう微笑む彼女に、何か返そうと口を開きかけた時、教室の引き戸が音を立てた。
違うんだ。開きたかったのはそっちじゃない。
「ありゃ!一番乗りかと思ったのに、3着かよ!」
お祭り男、圭介のご登校。
「あ。大澤くん、おはよー」
「はよ、圭介」
アツも沢渡も何で今日はこんなに早いんだよ、と不満を漏らす圭介を、俺は盛大にシカトする。
「もう一人、文化祭を楽しみにしすぎて、の子供がいたみたいね」
沢渡はそう言い残し、自分の席に帰って行った。
彼女の感じていた夕焼けと、俺の感じていた夕焼けが、似ていたことが少し嬉しく思える早朝。
今日見るオレンジ色の空が、なんだか楽しみになった。
赤い太陽・黄色い月
オレンジの、夕焼け
おしゃべりな君+昨日までの君=?




