↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/62

47.偽の和睦(ジュリアーノ視点)

「教皇猊下、フェラーラ公が到着されました」


「ゲホッ……! けほっ! 来おったか……! すぐに会う、謁見の間へ通せ……! ゲホッ、ゲホッ、ゴホン!」


「猊下、お身体は大丈夫ですか……?お咳が酷うございます。 本日の謁見は延期されてはいかがでしょうか」


「馬鹿者め! 儂は大砲の直撃でも死なん男だぞ……ゲホッ! こういうことはな、勢いが大切なのだ……ゲホッ!」


ふん、のこのこ出かけて来おって、愚か者が。今度こそ完膚なきまでに捻り潰してやる。待っておれよ。


重々しい扉が開き、大広間の大理石の床を踏みしめて、体躯の大きな男が入ってきた。

「最も聖なる教皇猊下。私は神の僕(しもべ)として、服従と畏敬をあなた様に捧げます」


「うむ……フェラーラ公。挨拶は受けてやろう。それで? 何をしに参った?」


フェラーラの若造め、頭を垂れながらも鋭い眼光で儂を睨みおったな。

怒れ、怒れ。その憤怒が強ければ強いほど、お前の破滅は近づくのだ。


「謝罪を……。尊き猊下に逆らい、フランスと同盟を結びましたこと、深くお詫び申し上げます。……その反省の証として、先の戦で捕虜となったファブリツィオ将軍、及びローマ兵達全員を無傷でお返しいたします」


「ふん……では謝罪の儀式に移ろうか。そこへ跪け」


「……はっ」


膝をつき、深々と頭を下げるフェラーラ公。


大男が折り畳まれて小さく縮こまる様は、実に爽快だ。一国の主ともあろう者が、腹に据えかねておるだろうなぁ。ああ、胸がすくわ!


と、奴がもう立ち上がろうとした。


「誰がもう良い、と言った!? ゲホッ!……その程度で許されると思ったか!……ゲホッ、ゲホッ!」


「……っ! も、申し訳ありません……!」


「ふはは! いい土下座だ! 皆、よく見ておけ! 傲慢なフェラーラ公の土下座なぞ、滅多に見られるものではないぞ!」


ざわざわ……と、周りを取り囲むローマ貴族や枢機卿たちが顔を見合わせ、眉を顰めているのが伝わってくる。


そうだろう、屈辱だろう、恐ろしいだろう。だが、儂に歯向かう者は皆、こうなるのだ!


儂は奴の哀れな土下座を見物しながら、ゆっくりと足を引きずって近寄り……その頭を、靴の底で踏みにじってやった!


奴の手が、大理石の床の上で激しく震えている。さぞや悔しいだろう! 怒りを爆発させて、ここで儂に殴りかかっても良いのだぞ?そうすれば、不敬罪で即刻捕縛できる。そうなれば願ったり叶ったりだ。


「……どうぞ……お許しください……教皇猊下。平にお願い申し上げます……」


声が怒りと屈辱で低く震えている。


ふん……我慢強い奴め。

……くそっ、病み上がりの身体だ、奴の頭を踏みつけるだけで、もう体力の限界が近づいておる。老いた身体が恨めしい。


「良い……許してやっても良い。……詳細な条件は、明日、和睦の儀式にて話すとしよう……ゲホッ! ジョヴァンニ枢機卿、儂の手を取れ!」


「……はっ、猊下」


今日のところは奴を自由にさせてやろう。

今夜が、貴様が公爵として過ごせる最後の夜なのだからな。明日が楽しみだ……。


だが、今日はもう……休むとしよう……。


翌朝再び、重々しい気品に満ちた謁見の間に奴が現れた。


「昨夜はゆっくりできたか?」


「はっ。久しぶりに弟イッポーリトとも語り合うことができました。教皇猊下に深く感謝申し上げます」


「それは良かった……ゲホッ!……では、早速和睦条件の摺り合せに入ろうか」


「はっ。なにとぞ深いお慈悲を賜りますようお願い申し上げます」


「……ゲホッ!……単刀直入に言おう。フェラーラを渡せ。お前たち一族はフェラーラから出ていくがいい」


「……っ!? そ、それは……!」


「……ゲホッ!……何だ? 不服か?」


「……承服しかねます! フェラーラは何代にも渡り、我が一族が慈しみ、治めて参りました。いわば我が子のようなもの。それを手放せとは無体でございます! ……代わりに、金貨十万枚を賠償金としてお支払いいたします。それでどうかご容赦いただけませんでしょうか!?」


『金貨十万枚!?』

『国家予算並みの大金だぞ…』

『そこまで譲歩するというのか…』

クソっ!貴族たちが煩い!


「……ゲホッ、ゲホッ!……話にならんな。神の代理人たる儂の望みは、フェラーラそのものだ……ゲホッ!……教皇国に寄越せ!」


「……恐れながら、猊下。いかように仰られても、それだけは承服できかねます! 金貨十万枚で足らぬなら……ロドリーゴ前教皇から免除していただいている上納金を、元の金貨一万枚に戻し……過去五年間免除された分、金貨五万枚も即座にお支払いいたします! 加えてフランスとの同盟をこの場で破棄し、教皇猊下に全面的に恭順いたします! どうか……どうかご容赦ください!」


「話にならん!……ゲホッ!……儂が望むのはフェラーラだ。それ以外のものは一切受け付けん……ゲホッ!……衛兵!……ゲホッ! フェラーラ一行を捕らえよ! 地下牢へ入れろ!……地下牢だ……ゲホッ!……頭を冷やしてよく考えることだな!」


『合計で金貨十五万枚…』

『小国なら国家予算二年分でも余るほどの金額だ…』

『これほど譲歩しても教皇は許さないというのか…これでは、まるで…』

『しっ!それ以上は口に出しては駄目だ…教皇に粛清されるぞ…!』


……ゲホッ、ゲホッ!……貴族どもめ、煩い!儂のやることに口答えする勇気も無い癖に、好き放題囀りおって。顔は覚えたぞ。次はお前たちが標的だ。


各国の使節や諸国が注目しておる手前、公然と殺しはせんが……冷たく暗い地下牢に入れられれば、どんな頑なな奴でも音を上げるだろう。音を上げずとも、教皇への反逆罪をでっち上げ、ローマ内の通行権を剥奪すれば、首を縦に振るまでいつまでも合法的に勾留できる。


チェックメイト。これで、儂の勝ちだ。


高飛車なボルジアの小娘も、今頃フェラーラでさぞや悔しがっておるだろう……ゲホッ!


……それにしても、ここのところ酷く咳が残るな。年のせいか、風邪すら一向に治らん。

まあいい、奴らを捕らえてしまいさえすれば、勝ったも同然。煩わしい書類は明日でよかろう。


少しベッドで休むとしよう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。