43.猛攻(ガストン視点)
読みが完璧に当たった。
側頭部を大砲で打ち砕かれたスペイン軍は激しく混乱し、自慢の銃撃の連写陣形は完全に崩壊した。銃の脅威さえ無くなれば、あとは我らフランス誇りの重騎兵の独壇場だ!
「行け! 行けぇーーーっ!! フェラーラに、そしてルクレツィア公妃に最高の勝利を捧げるのだーーーっ!!」
「「「うぉおおおおおおッッ!!!」」」
先ほどまでの屈辱を晴らすかのように、我が騎兵隊は怒濤の勢いでスペイン軍を駆逐していく。
血と鉄の匂いが立ち込める中、みるみる敵が散っていく。ああ……この胸を突く圧倒的な高揚感、堪えられない! これこそが私の命が燃え上がる瞬間であり、私が生まれてきた意味なのだ!
「敵を一人残らず殲滅するのだ! 行くぞーーーッ!!」
「ガストン様! これ以上の深追いは危険です! すでに敵は軍の体を成しておらず敗走中。潮時です、一度陣を下げましょう!」
制止の声をかけてきたのは、フェラーラ軍から援護に加わっていたアレッサンドロだった。
「まだだ! まだ完全な勝利とは言えん! ルクレツィア公妃に揺るぎない完全勝利を捧げるのだ!」
「……はぁ、しょうがないですねぇ。お供しますよ!」
「助かる、背後の援護を頼む!」
「はっ!」
面白いように敵の兵士たちが吹き飛んでいく。私はさらに馬を進め、敵陣の最深部へと猛然と突入していった。
そこは、泥沼のような凄惨な混戦状態だった。入り乱れる兵たちの熱気と血煙で、もはや誰が味方で誰が敵かも判別できないほどに荒れていた。
「甘いな、坊や」
——左側、至近距離から、冷ややかで低い声が耳元に届いた。
次の瞬間、ドスリと重い衝撃が胸を突き抜けた。
身体からスーッと急速に力が抜けていく。馬を抑え込もうにも、脚に力が入らない……手綱すら握っていられない。
なぜだ……? 私の体はどうなってしまったのだ……?
「ガストン様ーーーーッ!!」
裂けるような叫び声が聞こえた。視界を泳がせると、アレッサンドロが死に物狂いの形相で、オレンジ色の髪に漆黒の甲冑を纏った一人の男と剣を交えているのが見えた。
(アレッサンドロ……そんなに必死な顔をしなくてもいい……私は不敗の神童ガストンなのだから……)
だが、視界が急速に傾き、気づけば私は馬上から崩れ落ち、冷たい泥の中に這いつくばっていた。
駆け寄ってきたアレッサンドロが私を力任せに抱きかかえ、顔を覗き込んで何かを狂ったように叫んでいる。声が……だんだん遠くなる。
(ああ……私は、ここで死ぬのか……?)
フランスにいる叔父上、申し訳ありません。どうやら私は、生きてフランスの土を踏むことはできないようです。
そして……ルクレツィア公妃。あなたに素晴らしい贈り物を捧げたかった。私の持ち帰った勝利の報せを聞いて、あの可憐な顔で喜んでくださる姿を……見たかった……。
「……勝ったか……?」
乾いた唇をかすかに動かし、私は問いかけた。
「はい……! ガストン様、我々の勝利です! 敵は完全に壊滅し、敗走しています……!」
「……私は……誰にやられた……?」
「……チェーザレ様です。チェーザレ・ボルジアに……」
チェーザレ……あのルクレツィア公妃の、実の兄か。……そうか。
「……私は……ルクレツィア公妃を……守れたか……?」
「はい! 公妃殿下は、あなたが無事にお帰りになるのを心よりお待ちです! どうか……どうかお気を確かに! 目を開けてください、ガストン様!!」
視界が真っ白に染まっていく。身体の冷たさが、心地よくすら感じられた。
「もう……終わりだ……。皆に……よろしく……伝えてく……れ……」
ガストン・ド・フォワ。
二十歳。不敗の神童と謳われた若き天才将軍は、愛する女神のために戦い抜き、その短い生涯の幕を静かに下ろしたのだった。




