42.戦場(ガストン視点)
戦場は、川のほとりに青々と広がる平原だった。
スペイン軍の得意とする戦法は、狭い街中や入り組んだ山中でのゲリラ戦のはずだ。それなのに、なぜわざわざ自軍に不利で、我らフランス自慢の騎馬隊が最も真価を発揮する開けた平原を戦場に選んだのだろうか?
(……おかしい。何かが根本的に狂っている……)
頭の中で、鋭い警鐘が鳴り響いていた。
「大将軍、何かおかしくはありませんか? ここはわざわざ我らフランス騎兵に蹴散らされに来るような戦場です。敵の意図が見えません」
「フッ、ガストン。不敗の神童ともあろう者が、臆病風に吹かれたか? スペインめ、ナポリでの勝利に気を良くして、我らを舐めているのだろう。所詮、戦争に不慣れな田舎者どもの集まりだ。望み通り蹴散らしてやる! 見たところ、相手の騎馬の数も知れている。お前とフェラーラ軍は後方で見物していろ。フランス国王の甥御様に怪我でもされては大変だ。」
「ですが、大将軍! 敵の陣形に不可解な厚みが——」
「もし俺の第一陣が敗走するようなことがあれば、その時に助けに入れ。まあ、そんな無様なことは絶対に起こらんがな! フハハハ!」
こちらの言葉に耳を傾けてはもらえなかった。胸を突く嫌な予感を拭えぬまま、私は後方で待機を余儀なくされた。
「ガストン殿、どうした? 我らは前に出なくて良いのか?」
陣を並べるアルフォンソ公が、怪訝そうに馬を寄せてくる。
「フェラーラ公……総大将からの指示だ。我らは後方待機だ」
そして、運命の開戦が告げられた。
「全軍、突撃ーーーーっ!! フランス騎士の誇りを見せてやれ!!」
「「「うぉおおおーーーーーッッ!!!」」」
先陣を切って突撃するフランス重騎兵隊。地響きを立てて迫る壮観な騎士の群れに向かって、敵陣から非情な合図が響いた。
「放てッ!!」
ドドドドドン! ドドドドドン! ドドドドドン!
(銃……!? な……なぜ、あのように途切れることなく連射できるのだ!?二発目を撃つには火薬と銃弾を装填する時間が要るはず。新兵器なのか!?)
目を凝らして敵陣を注視し、私は戦慄した。
指揮官の鋭い号令とともに、スペイン歩兵の第一列が一斉に引き金を引く。直後、轟音と激しい白煙が立ち込めた。
弾丸がフランス前衛の騎士たちを打ち抜いた瞬間、第一列の兵は素早く後退。それと入れ替わるように、弾薬を装填済みの第二列が前に出て銃身を突き出す。
——撃ち、下がり、装填し、次が撃つ。
まるで精密に組み上げられたカラクリ人形のように、絶え間なく繰り出される「三段撃ち」の途切れない鉄の波。
それが、誇り高きフランスの重騎士たちを一切寄せ付けない。寄せ付けないどころか、まるで吹き荒れる秋風に舞う銀杏の葉のように、騎士も軍馬も次々と地面に崩れ落ち、血の海へと沈んでいく。
(くそっ! なんと卑怯で苛烈な戦法だ……! スペインはもはや騎士道精神すら捨て去ったというのか! このままでは我が軍は手も足も出ずに全滅してしまう……! よし、相手がその気なら……!)
「フェラーラ公! 大砲は持ってきておられますか!?」
「ああ! 今回は野戦ゆえ使わんと思って後方に下げてあるが……」
「好都合です! なら、我々が敗走すると見せかけて敵を誘い込み、相手軍の両翼へ回り込んで配置してください! 丁度あの、スペイン騎士が陣取るすぐ前の土塀の影です!」
「なるほど……あそこに敵の銃撃兵が固まっているな。あそこへ大砲の雨を降らせればいいのだな!?」
「ええ! 出し惜しみせずに大盤振る舞いで頼みます! 砲撃の直後、私が全騎馬を率いて中央から突撃をかけます!」
「了解した。……武運を、ガストン殿!」
(くそっ……! 耐えてくれ! 大砲が位置に就くまで持ち堪えてくれ……!)
指を咥えて、同胞たちが倒れていく凄惨な光景を耐え忍ぶしかなかった。
——だが、ついにその時が来た!
ズゥゥゥゥンーーーーーッッ!!!!
地響きとともに、鮮烈な砲撃音が轟いた。フェラーラ公率いる大砲兵隊が、敵の真横から絶え間なく大砲を打ち込み始めたのだ!
敵の三段撃ちの陣形が、大砲の超火力を受けて内側から派手に吹き飛ぶ。
「来た……! 我らの守護神、フェラーラ公の大砲だ!! 全軍突撃ーーーーっ!! 散っていった同胞たちの無念を、奴らに思い知らせてやれーーーーっ!!」
ここからが、我らの真骨頂だ!




