↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/62

41.開戦(ガストン視点)

「ようこそフェラーラへ、ガストン様。夫はすでに前線へ赴いており、直接のご挨拶が叶いませんこと、心よりお詫び申し上げます」


春の陽光の中、謁見の間に進み出た瞬間、私は呼吸を忘れた。そこに佇んでいたのは、まるで画集から抜け出してきた神聖な女神そのものだった。


(な……なんと美しく、気高い御方なのだ……!)


「……フランス第一騎士団所属、ガストン・ド・フォワにございます。我が王ルイ12世の命を受け、フェラーラとの同盟の契りを新たにするため、この地へ参上いたしました。ここに至る途上で、ミランドラを解放して参りました。女伯爵もご無事に戻られましたのでご安心ください……ルクレツィア公妃殿下」


「まあ!感謝申し上げます。加えて、我がフェラーラのために遠路遥々お越しいただき、深く感謝申し上げますわ。ガストン将軍のお噂はかねがね伺っております。お若くして大国フランスの精鋭を率いる、不敗の『神童』であられると」


(し、神童……!? もう二十歳でたった五つしか歳が違わない、この私を子供扱いか……!?)


一瞬、胸の奥を失望が掠めた。だが、ここで挫けるわけにはいかない。私は深呼吸をし、背筋を伸ばした。


「き、恐縮にございます……っ! 公妃殿下のような美しく……ゴホンッ! ……気高き御方を前にしては、私のいかなる武勲も色褪せて見えます。私は、ただ……!」


「ただ……?」


公妃は不思議そうに、首を少し傾げられた。私は意を決して顔を上げ、ルクレツィア公妃の澄み渡る美しい瞳を真っ直ぐに見つめた。


「我がフランスは大国。なれば、このガストンの剣もまた、世界を震撼させる大国の刃にございます。……その刃のすべてを、ルクレツィア公妃の御国を、そしてルクレツィア公妃ご自身を護るための『盾』として捧げます! 我が剣の届く限り、貴方に指一本触れさせはしない。この命に懸けて、貴方をお護りいたします!」


一瞬の間を置き、ルクレツィア公妃は胸を打たれたように、優しく可憐に微笑んでくださった。


「嬉しゅうございます、ガストン様。あなたのその若く清らかな忠義、そしてフランス騎士としての確かな誇り……深く胸に響きましたわ。 フランスからの道すがら、ミランドラを取り戻して頂き、さぞお疲れでしょう。戦場へ赴かれるまでの僅かな間、どうぞこちらでお体を休めてくださいませ。 今宵は晩餐の後、ささやかな歓迎の夜会を催します。ガストン様も皆様も、どうぞ心ゆくまでお楽しみくださいね」


その夜は、まさに夢のような時間だった。


公妃と手を取り合って踊ったダンス。彼女のステップはまるで背中に羽が生えているかのように軽やかで、舞うたびに淡い金髪の巻き毛がシャンデリアの灯りを反射してキラキラと煌めいていた。


自分が甘く初心な若者であることは百も承知している。幼い頃から武芸と騎士の訓練だけに明け暮れる日々を送ってきた私には、誰かを愛する暇など一瞬もなかった。


だが、それを差し引いたとしても……彼女はあまりにも美しく、とてつもなく優雅だった。


一晩で、私は完全に彼女の虜となった。いや、「虜」という言葉はどこか違う。もっと清らかで、もっと崇高な何かだ。男女の情愛などではない。彼女を自分だけのものにしたいという独占欲すら湧かない。彼女は、すべての人々が崇めるべき「不変の女神」なのだ。


(教皇軍との戦争から無事に戻ってきたら、何か贈り物を捧げよう……。どんな品をお贈りすれば喜んでいただけるだろうか? 前線で夫君のフェラーラ公にお会いした際、そっとお好みを伺っておこう。ああ……今から楽しみでならない!)


翌朝、朝靄が立ち込める城門の前で、公妃が出立の私を見送ってくださった。


「行ってらっしゃいませ、ガストン様」


「ルクレツィア公妃……貴女のために戦ってまいります。勝利の朗報を、どうぞ楽しみにお待ちください!」


「ええ、無事にお帰りになるのを心よりお待ちしておりますわ。……ご武運を」


胸の奥で熱い血が滾る。


さあ、戦争だ。身が引き締まるこのヒリヒリとした緊張感が最高に心地いい!


「全軍、行くぞーーーッ!! フェラーラのために! ルクレツィア様に最高の勝利を捧げるのだーーーッ!!」

「「「うぉおおおおおおおッッ!!!」」」


数千の将兵たちの咆哮が天に響き渡り、フランスとフェラーラの連合軍は、スペインと教皇国の連合軍が待ち構える前線へと一斉に進軍を開始したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。