雄一と子ども達
美穂子の涙は悲しく流れた。
父が早く亡くならなければ……母が再婚しなければ……違った人生だったのかもしれない。
「嘆くことはあるまいに。」
「ううう……なんで…なんでよ。」
「其方がその人生を何度も選んだ。」
「親が死ぬこと? 私が選んだんじゃないわ!」
「いいや、違うぞ。
その後じゃ。何度も同じ過ちを其方は行った。
それは、其方が選んだからじゃ。」
「止めてよ!」
「其方と高嶋華子は違うのじゃ。」
「そりゃあ、違うわ。あの女は恵まれてるんだから!」
「良く目を開けて見るが良い。」
「見てるわよ。」
湖面を美穂子が覗き込むと、そこに映し出されたのは華子の姿だった。
向かいに立っているのは、谷川雄一だった。
雄一は華子を見つめている。
「何? なんなのよっ。
あの男前が、どうして、あの女を見つめてるのよ!」
「見ていれば分かると申したではないか?」
「見ていたら、って……まるで恋した男の視線じゃないの。」
「見ていよ。」
良く見ると、華子は男の子と手を繋いでいる。
そして、高校生くらいの女の子と男の子が居る。
雄一の3人の子ども達と華子が一緒に居たのだ。
「華ちゃん、ケーキ、食べる。」
「雄二朗君、どのケーキがいいですか?」
「いちご!」
「愛美ちゃん、貴女はどれがいいかしら?」
「私も苺ケーキがいいな。」
「僕はモンブランがいい。」
「雄翔君はチョコケーキでなくてもいいの?」
「うん、今日はモンブランの気分。」
「まぁ、背負っちゃって……雄翔のくせに……。」
「いいじゃん、食べたいんだから! ねっ、華ちゃん。」
「年上の人に【華ちゃん】はどうなんだ?」
「お母さんが【華ちゃん】って呼んでたから……駄目?」
「私はいいわよ。気にしないもの。」
「ほうら! 華ちゃんがいいって言ってるから、いいの。」
「本当に済まないね。」
「愛子さんが、この子達の心の中に居る証拠ですわ。」
「そうか……そうだな。」
「大切になさって下さい。」
「うん。」
家族の中に華子が居る。
それを見た美穂子は腹が立って来た。
「なんで、居るのよ!」
「それも見ていれば分かろう。」
「見ていれば、ね。」
「そうじゃ。」
場所は谷川雄一の自宅のようだ。
華子が招かれたらしい。
「谷川さん、兄は? 兄は遅くなっているんですか?」
「氏郷は……呼んでない。」
「えっ?」
「呼んだのは君だけだ。」
「私だけ?ですか。」
「うん、雄二朗のこともあるから……。」
「あぁ、ご相談ですね。」
「え…………まぁ……そんな……感じかな。」
「華ちゃん、隣!」
「私がお隣でいいの?」
「華ちゃん、隣に座って!」
「華ちゃん、弟が言ってるから座って!」
「じゃあ、そうさせて頂くわね。」
ケーキを食べた後、愛美が雄翔と目配せした。
そして、愛美が背筋を伸ばして座り直した。
「華ちゃん、お願いがあります。」
「まぁ。改まって、何でしょうか?」
「お父さんと結婚して下さい。」
「え…………。」
「雄ちゃんにはお母さんが居て欲しいの。」
「それは僕達3人の願いなんだ。
雄ちゃん、華ちゃんに言って!『お母さんになって!』って……。」
「お母さんになって!」
「待って! 待って頂戴。
雄二朗君は訳が分からないと思うの。
言わせたら駄目よ。」
「でも! いつも一緒に居て欲しいって雄ちゃんは言ってるわ。
ねぇ、雄翔。」
「うん、そう言ってるよ。」
「お願い、華ちゃん。」
「雄二朗君。」
「?」
「雄二朗君のお母さんは一人よ。」
「お母さんは一人。」
「そうよ、谷川愛子さん。」
「華ちゃん!」
「僕のお母さんは谷川愛子。」
「そうよ。」
「知ってるよ。」
「華ちゃんは、雄二朗君のお母さんではありません。」
「うん、華ちゃん。」
「だから、華ちゃんはお母さんではありません。」
「華ちゃんはお母さんじゃない。」
「そうよ、お母さんのこと忘れないで下さい。」
「うん!」
雄一は華子を見つめていた。
「華ちゃんがお父さんと結婚してくれたら、私、お継母さんて呼ぶわ。」
「華ちゃんがお父さんと結婚してくれたら安心なんだ。
結婚してくれたら、僕も華ちゃんのこと、お継母さん。って呼ぶよ。」
「結婚って、家族になることですけれども………。
それには愛が無ければいけないの。
お父さんはお母さんを心から……心から愛して愛されて結婚……したのよ。
再婚相手とも愛情を育んで……その上で……が望ましいわ。
そうでなければ………不幸になるわ。」
「華ちゃん……。」
「けど……華ちゃんがお父さんと結婚してくれたら皆が幸せになるよ。」
「家族としては、そうかもしれないわね。
でもね、貴方達のお父さんと私の間には……何の感情も無いわ。
だから、無理なの。分かってね。」
「………華ちゃん、今日、僕のお家でお泊りする?」
「お泊りはしません。華ちゃんは帰ります。」
「一緒に遊べないの?」
「そうね、遊べません。帰るわね。」
雄一は一言も発せずに、ただ華子を見つめていた。




