無理心中
僕は中井良太の親に話を聞きたいと思った。
直接、話を聞くことは叶わない。
誰かに依頼して、彼に何があったのかを知りたかった。
こんなことをする人間ではないと思いたいし、そのはずなのだから……。
あの面会以降、父は中井良太を父の会社の系列のどこかに入社させたいと思っていた。
それが叶ったと聞いた矢先のことだった。
まだ、本人には伝えていなかった。
連絡をする前に中井良太の無理心中を知ったのだ。
ニュースで知った父は、「有り得ない。」と言って、それから絶句した。
母は涙が止まらない様子だ。
父は興信所の当該担当者に中井良太の両親との接触を依頼した。
分かっていることだけでも知りたかったのだ。
担当者からの連絡を待つ間にも、父はお供えをしたいと思った。
担当者にお供えを渡して貰うよう頼んだ。
◇◇◇◇
中井良太の両親が会いたいと言っている――その報告が父から華子に、そして僕にも届いた。
良太には妹が一人居る。
その妹は年が離れていて、まだ高校生だ。
両親の家に着いた時、線香の匂いが哀しかった。
仏壇の前に座って線香をあげ手を合わせた。
大した知り合いでもないのに、僕は涙が止まらなかった。
父も母も、そして華子も泣いていた。
誠は俯いたまま顔を上げられない様子だった。
「ありがとうございます。
馬鹿な子で………こんな大それたことを仕出かして………。
本当に……申し訳ない事を…………。」
「…………ご尊父様、この度は誠にご愁傷さまでございました。
このような席を設けて頂き、心より感謝申し上げます。」
「ごそんぷ………そんな風に呼んで頂くような身分じゃありません。」
「いいえ、そう呼ばれるのに身分など無関係でございます。」
「………そうですか………学が無いもんで………。」
「学など……良い父親だと良太君は私に教えてくれました。」
「そうですか……あいつが………。」
「私は一度しかお会いしておりません。
親御さんのことを、ご家族のことを大切に想われていました。
何故、命を絶たねばならなかったのか、分かりません。
私の会社の系列への就職をお話しようとお伝えする前に………。
このようなことで中井良太君を失うとは思いも寄りませんでした。
一体、何があったのでしょうか?
お辛いのに、誠に申し若ございません。
ただ、どうしても、何故?と思ってしまうのでございます。」
「遺書が……あります。
これです…………読んで下さい。」
「読ませて頂いても宜しいのでしょうか?」
「高嶋さんと大崎さんへの言葉もあります。」
「読ませて頂きます。」
父が一番最初に遺書を読んだ。
そして、次に誠に遺書が渡された。
僕が一番最後に読んだ。
『お父さん、お母さん、典子。
先立つ不孝をお許し下さい。
美穂子が学を大崎家の養子にすると言って聞きません。
是が非にもするのだと言って聞きません。
何か考えていて、それが恐ろしい事だと知りました。
美穂子が何を企んでいるのか分からないです。
でも、このままでは、何かをしてしまいます。
学は誰にも渡したくありません。
だから、学も連れて行きます。
親が二人死んでしまって、学だけ残しては逝けません。
親が居なくなって子ども一人で生きられない。
お父さんとお母さんに迷惑を掛けられない。
だから、家族三人で三途の川を渡ります。
私は地獄へ、学ぶと美穂子は天国へ行く。
私はお父さんとお母さんに大切にしてもらいました。
それなのに、こんなことをした息子を育てたと世間から酷いことを言われるかも
しれません。
申し訳ありません。
典子、ごめんな。
兄ちゃんは、これからの莉子に辛い想いをさせる。
ごめんな。
典子は兄ちゃんの自慢の妹だから、兄ちゃんより勉強も出来る。
いっぱい勉強して、いい所へ就職して、幸せな結婚をして欲しい。
学を可愛がってくれて本当にありがとう。
元気で、いい子で居るんだよ。
兄ちゃんの妹に産まれて来てくれてありがとう。
お父さん、お母さん、高嶋さんと大崎さんにお詫びしておいて下さい。
私の代わりにお詫びして下さい。
ご迷惑をお掛けしました、とお詫びして下さい。
美穂子を止められなかったことを悔やんでいます。
そう伝えて下さい。
お父さん、お母さん。
私を産んで育てて下さって、ありがとうございました。
どうか、お元気でお暮し下さい。
お父さん、お母さん、典子。
今までありがとうございました。
さようなら。 良太 」
妻・美穂子を止める為に無理心中を中井良太はしてしまったのだ。
哀し過ぎる結末だった。




